減圧症急増は本当か?〜文系頭で考えるデータのお作法〜

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ワタクシ、もう、疑いなく完全に文系である。
いや、そんなことを言うと、本当の文化的な人に失礼なので正確に言えば、
理系では絶対にないので、2者択一の残った方というネガティブな意味での文系である。

そんな文系頭の僕をいつも混乱に陥れるのがデータというやつだ。
おそらく官僚たちが作るよく考えれば「ん?」と思われるデータにも、
よく考えていないので日々だまされているのだろう。
自分にとって切迫した問題でもなく、
数字への拒否反応もあってデータは頭の中をスルーしていく。
今、気がついたが、経済学でも社会学でもデータを読み解く作業が必須なわけだから、
文系頭というより、文系もどきのただの数字嫌い頭か……。

しかし、ダイビング界に出てくるデータには少しは興味があるので、
この文系もどき頭にも「ん?」とひっかかってくる。
今回、取り上げたいデータは一番後にして、まずは過去記事から良い例を2つ。

最もシンプルなデータへのツッコミは、「ん? 分母は?」だ。

例えば、30代のダイビング事故が増えている点だけを見て、
「30代ダイバーの事故急増」と言われても、
30代自体のダイバーが増えているなら率は変わらない。
昨年書いたこの記事が最も良い例。

■10年間の事故分析
http://diving-commu.jp/divingspirit/item_3541.html

さすがにこのときは、どなたかが手を挙げて指摘していたが、
分母なしデータでも意外と信じる人はいる。
理系の人からすれば「文系はアホなのか?」と思うかもしれないが、
深く考えていないだけなんです。はい。

しかし、分母の問題だけでなく、もっと巧妙に仕組まれたウソデータもある。
利権が絡んでいそうなだけに「よく考えたな〜」と感心したものだ。
これなんか、すごいですよ。死亡事故は減っているのに、
「観光客を中心とした死亡事故が大幅に増加」になるのだから。

■スノーケル認定制度について
http://diving-commu.jp/ceditorblog/item_422.html

はい、利権の一丁あがり。

そして、今回、「独り歩きしているな〜」と思うデータがこれ(リンク先グラフ参照)。
「減圧症患者急増」の根拠として使われることも少なくない。
http://www.tusa.net/genatsu/genatsu.pdf#page=35
※東京医科歯科大学医学部付属病院「ダビング患者数の推移」
※縦が患者数、横が年度

一見した印象は、そりゃ急増だろう。恐ろしいほどの。
何年か前にこれを見た僕は、「んな、アホな」と、とりあえず分母のことを考える。
しかし、詳しいデータがなくても、常識的にダイバーの数が増え続けているとは思えない。
ダイバーが減っているのに、減圧症患者は増えているだなんて、
やっぱりとんでもない急増なのか!!!

でも、この増え方は何だかおかしい。ノイズが消えない僕が次に思うのは、
おそらくデータに親しまれている方には当たり前のことなのであろうが、
「データを取ったときの条件って一緒なの?」。

僕は、「疑わしきは診察へ」という風潮やハッキリと診断しにくい減圧症の特徴から、
「疑わしきはチャンバーへ」という風潮のためかな、
と調べもせずに勝手に推察し、自分なりに納得した。
つまり、今まで見逃されていた人がすくい上げられるようになり、
減圧症かどうかよくわからない人もカウントされたりしているのかな、と。

それであっても「これはないだろ〜」と心にノイズが残ったが、
まあ、医師たちが増えている感触を語っているし、
啓蒙のためにも良い打ち出しかと思い、
僕も何かに「増えているので、今一度潜り方を……」というようなことを書いた気がする。

このデータをそっくりそのまま信じ込み、そして根拠した、
雑誌やブログの「急増!」という文字を結構目にしたし、データが独り歩きし、
今でも「急増しているんでよね、減圧症」というようなことをこの耳で聞くこともある。

しかし、今回の「小田原セミナー」で、
このデータに関して芝山教授がサラっと言った言葉に、
イスから転げ落ちそうになる。ポイントは以下2点。

■以前は職業ダイバーしか受け入れていなかったのが、
一般ダイバーも受け入れるようになった。
■チャンバーが増えたり人員が充実したりして受入れ態勢がよくなった。

そりゃ、急増するわ。

「ダイコンの普及により……」という根拠も吹っ飛びッそう。
これは自分だけが今まで聞き逃していただけだったのか?
普通に発表されていたのかな……。
だとしたら、もうね、恥ずかしくて仕方ない。
というか、調べろよ俺。いや、まさか、そんな単純な条件変化があると思わず……(泣)。

そんな反省もあり、何となく「増えちゃってるのか〜」と思って
読んでしまった「八重山の減圧症ダイバー急増」のニュースを見返してみる。

■八重山の減圧症のダイバー急増の記事
http://www.y-mainichi.co.jp/news/14066/

これは、書かれていることは正しいしがサラっと読むと誤解を受ける。
「患者の9割が減圧症ダイバーに」がメインの打ち出しだが、あくまで、
「”減圧症患者のうち”9割になった」という話。減圧症の患者など漁業者
とダイバーしかおらず、漁業者が減って、ダイバーが増えれば、
その大小はさておきその割合は変わるので、一番に強調することのようには思えない。

どちからと言えば、「分母であるダイバーが増えたため、
減圧症ダイバーも増えた」ことの方が単純だが重要に思える。

ちょっとした差のように思えるが、
こうした記事がでるとダイバーの啓蒙ばかりに焦点が当てられ、
「最近のダイバーはよう」となりがち。
しかし、単純に分母が増えたことが大きな要因なら、
受け入れ態勢の問題の方にも目がいく。
「チャンバー少ないんじゃね?」と。
そこをおさえたうえで初めて「少ないからには……」となる。

ちなみに、医師や現地の方々の実感を否定するつもりはない。
たぶん、増えているんだろうなぁ、と思うし。
言いたいのは、変にデータをいじくるのなら、
医師や現地の方々の感触だけでいいということ。

こうやって考えると、
やっぱり僕はいろんなデータのカラクリに日々騙され生きているに違いない。
でも、ダイビングのデータだけは、もうちょっと深く考えて読み解こうと気を引き締めた次第。

■豪華賞品盛りだくさんのタイクルーズ
http://diving-commu.jp/pr/item_5100.html
■黄色クマドリとキアンコウ@八幡野 潜りてぇ……。
http://diving-commu.jp/worldsea/item_5170.html

 

 

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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