事故は起こることが前提!? 〜ダイビングのリスク・アセスメント〜
安全ダイビングについて書いたところ、とある建設業の会社を経営するダイバーNさんから貴重な提案をいただきました。
ダイビングのリスク・アセスメント。
リスク・アセスメントとは、辞書から引用すれば、
「リスクの大きさを評価・査定し、そのリスクが許容できるか否かを決定する全体的なプロセス」ということになります。
と聞くと、やや受け入れ側、つまりダイビングショップ側の話に聞こえますが、ゲストと双方向で意識することが重要だと思いますのでアップします。
リスク・セスメントは「絶対安全は達成できない」という認識を出発点としています。
だからこそ、リスクを洗い出し、徹底的な軽減措置の努力をします。
これをダイビングに置き換え、
「ダイビングサービスが作るとしたらどういうものになるか」
という書類をNさんにモデルケースとして作っていただきました。
(クリックすると拡大されます)
ポイントはリスクの数値化でしょう。
「安全ってのは、数字なんかで表せるもんじゃねぇ」という声が聞こえてきそうですが、誰にでも納得いくような客観的評価を示すには数字しかありません。
また、数字を考える過程で、リスクの発見があったり、リスクを共有できるメリットもあるでしょう。
ですから、数字で評価をしつつも数字だけにとらわれず、曖昧な部分も享受しながら運用するのが正しいのかもしれません。
■こちらは、いかにもお役所的な建設業のリスク・アセスメントの動画ですが、
ダイビングに置き換えることができるので参考までに。
「コストとの兼ね合い(安全は金にならない)もあるでしょうが、この程度を面倒臭がるようじゃ……建築現場では毎日やっています」
とNさん。
もちろん、リスク・アセスメントは、安全の実現を目的としていますが、平成18年に労働安全衛生法で努力義務化されている以上、“もしも”の事故の場合、裁判への影響も考えられます。
「万が一、事故が起きて警察や労働基準監督署がきた場合も、こういう書類があれば、危険の告知書・免責同意書なんかよりずっとダイビングショップ自身を守ってくれると思うのです」
Cカード講習ではかなり綿密に行なわれている場合もありますが、ファンダイビングではなかなかここまでの書類は作らない現状の中、考えさせられる提言です。
「空気を吸えない水中に入るのだから基本的にはすべてが不安全行動。
なのに“当店のポリシーは安全第一”なんてのは何を根拠に言っているのか、ちゃんちゃら可笑しい、と感じることがあります。ダイビングショップはゲストにリスクをちゃんと開示し(原発じゃないけど)事故は起きるモノだという謙虚な気持ちが大事です。
一方、ゲストはダイビングショップがスキル、経験が違うすべてのゲストを同様に扱うことは不可能だということを認識し、正直に自分の体調、スキルを鑑みることが重要です。そして、そうしたお互いの事情を理解し、ダイビングにはリスクがあるということをダイビングショップ、ゲストの双方が共有することがとても大事なことだと思います」
しかし、手順が増え、慣れてくれば手段が目的化してしまうことはよくあること。
Nさんも、
「ただ、我々の業界でも書類さえ作れば事足れりとする形式人間はたくさんいます。
書類は作ることが目的ではではなく、リスク回避の手助けです。
繰り返しますがダイビングショップ、ゲスト双方での共有がなければ何の意味もありません」
と付け加えます。
今回のNさんの提言は、リスクを減らす方法論として注目に値するだけでなく、良くも悪くも訴訟社会に向かう中で、ダイビング事業そのものの在り方においても、とても示唆に富んでいるように思われます。
運用の議論はあるにせよ、少なくとも“リスク・アセスメント”の考え方を理解しておくことは必須でしょう。