減圧症の治療どれだけ遅れてもよいのか?

どのダイビングのテキストにも、減圧症の発症は、30分以内に95%、60分を越えての発症は1%。
また減圧症の治療は再圧治療は早い方がよい書かれております。

やどかり仙人コラム

最近の研究から、気泡の形成はダイビング終了後、30分から1時間がピークとも言われておることからも考えれば、症状が見られたら、少しでも早く治療を受けられれば、これに越したことはないのは、ヤドカリ爺のような素人にも納得できる話であります。

しかしながら、ここで言われている“少しでも早いという治療”というのは、早くが軍隊やコマーシャルダイバーのように初めから、減圧症が起きることを想定して、水面に再圧チャンバーが用意されていて、数分、数十分以内に再圧治療をするというのが、、少しでも早いということの本来の意味のようであります。
もともと減圧理論とか減圧症の治療基礎研究などは、軍隊とかコマーシャルダイビングのためであったことからして、これまた仕方のないことであります。

つまり、リクリエーションダイビングでは、現場に再圧施設がないどころか、その地域、その国もないことだってございます。日本のダイバー人口30万とか50万人とか言われておりますが、実際に稼動している専門医のいる再圧医療のできる施設は多分、現実的に両手の指で勘定できるほど少ないのであります。
日本のダイバーはすべて減圧症の治療が遅れるということなのです。
いや世界中のリクリエーションダイバーも、それから見れば、そのほとんどがが遅れた再圧治療というのが実情であります。

しかしながら実際には専門医の先生方のご努力のおかげで、この遅れを取り戻して回復されているわけで、ではどれだけ遅れても再圧治療をが効果があるのかという、素朴な疑問がこのヤドカリ爺はもっておりました。
たぶん多くのダイバーが同じような疑問をお持ちだと思います。

ダイビングと減圧症

そんな疑問について、DANのウェブサイト、Alert Diver Onlineのエクスパート・オピニオン(専門家の意見)というコーナーででとりあげられています。
潜水医学の専門家ジョルディ・デソーラ医学博士(DANヨーロッパの創立者のひとり、高圧医療が専門)、カレン・ヴァン・ヘーゼン医学博士(カリフォルニア大サン・ディエゴ校潜水医学センター)が意見を述べています。
それをごく簡単にまとめると。

減圧症の症状が出てから、再圧治療までの遅れが治療結果にどのような影響がありますか?

ヴァン・ヘーゼン:
データは限られているが、軽症から重症のDCSでは6-12時間以内の治療では、結果が改善されている。
(中略)しかし24時間を越えて大きく遅れても結果が改善されたケースは多い。

デソーラ:
(前略)30年以上の統計的観察から、大きく遅れても、不完全な結果になるリスクを明らかに増大させてはいない。重症のDCSの場合は、治療の遅れよりも並行して行われる総合治療の質が重要。

再圧治療の遅れが、減圧症の軽症状、重症状では影響の違いがありますか?

デソーラ:
経験から、再圧治療の遅れというより、症状が重いほど治療結果に悪い結果を及ぼす。
より重症の場合、最初の数分以内に再圧をすれば完全に回復されると信じられているが、これは軍隊、コマーシャルダイビングでも、ほとんど不可能だし、リクリエーションダイビングでは、絶対に不可能。
その一方でほとんどの軽症の減圧症は、治療が遅れても、多くが完全に回復している。
ぜひダイバーに知っておいてもらいたいのは、各地方のさまざまな制限のある中で、できるだけ早く再圧治療を受けること。
今日では症状が発現してから数時間、数日の遅れがあっても、高圧酸素治療で、多くのダイバーが完治している。

ヴァンヘーゼン:
重症の減圧症は早い再圧でよい結果が出ているが、軽症の場合、時間とは関係なく高圧酸素治療で症状が改善され、高圧酸素治療はすべての減圧症治療のスタンダードである。(後略)

さらには減圧症の再圧治療を受けるまでの応急処置、さらにはどの程度の症状なら飛行機で搬送できるなどが取り上げてられております。
ぜひお時間があれば、このDANのウェブサイトのエキスパートオピニオンをお読みいただけるとよろしかろうと思われます。

前にも言いましたが、リクリエーションダイバーの再圧治療は、症状が出てから数日、ときには数十日経ってから受けるというのが現実であります。
しかしリクリエーションダイバーに多い、軽度の減圧症は、遅れても十分に治療の効果があるということ。
この記事での専門家の意見に共通しているのは、減圧症の症状やその後の症状の進み方は、非常に個人差があるので、ここで述べられたのは、あくまでも一般論で、症状に気がついたら、ただちに専門家のアドヴァイスを得るというのが鉄則だということです。
 
怪しいと思ったら、ただちにDAN Japanのホットラインにまず電話をするというのが、現実の最善策ということですな。
かつては重症以外は電話をするななどと、メンバーカードに怖ろしい注意書きがありましたが、自分の体の異変の話です。
重症か軽症かは、ダイバー本人には分りません。
嫌がられったってかまいません、どんどんホットラインでアドヴァイスを要求するというのが、お利口なダイバーってことでしょうか。
そのためのメンバーなのですから。。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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