娘のスカートの丈が短く、テックダイバーのファッションが地味である価値
制服のスカートが異常なほど短い女子高生に、私は納得がいかない。
スカートが短いことは大変喜ばしいことだが、プリーツの幅と長さのバランスが悪いし、ウエスト部分を巻き込んで強引に短くした結果のシルエットと半パに外側に広がった末端処理は共に美しくない。
加えて、ごく僅かな例外を除けば、まだ未完成でスキのある足のフォルムとのマッチングもイマイチ。
結果、私にとってそれは全く魅力のないスタイルなのだが、女子高生である私の娘は、そのディテールのイチイチに意味や価値や評価の基準があると主張する。
とりあえずショートブリーフィングは受けてみたが、その意味や価値や評価の基準は私の感覚や価値観とは全く別の何かだった。
そうなると私は、スペインの血が入ったメキシカン、メスティーソとか、ベネズエラやコロンビア、そしてブラジルと言った南米エリアのラテンのおネーさんのあのお尻と、あの足と、ピチピチにタイトで超短いスカートのコンビネーションの美しさと素晴らしさに関して熱く語らずにはおけない。
これは通常、あらゆるシチュエーションでとても盛り上がる話題だが、にも関わらず、私の熱弁に対する娘の評価はたった一言「きもい」だけでした。
というように、同じ家庭内でも、ファッションに関しての感覚や評価は一定ではない。
ダイバーに関して言えば、ビビッドでカラフルな器材や、例えば、長いお耳とかトサカとかチョンマゲとかカッパのお皿とかをコーディネイトしたフードで決めた、見るからに楽しげなレクリエーショナルダイバーの方々からすると、テックダイバーのいで立ちは、え、戦争? とか、地味すぎね?! とか、何かの修行っすか? みたいな、ある種、レジャー精神への反逆と映るようで、つまりここでも価値観、美意識の基準は一定でないようだ。
短すぎる前振りで恐縮だが、そんなワケで今回はテックダーバーのいで立ちが反逆精神の結果ではなく、止むにやまれぬ理由があってのことなのだ、という弁解を、ちょこっとだけさせていただきます。
“基本”テックダイブは理詰めのダイビングだ。
器材の選択や配置、陸上、水中での行動も、ダイビング自体に重要な影響を及ぼす部分に関してはそれを裏付ける理由がある。
当然、いで立ちにもその“基本”は適応されている。
例えば、多くのテックダイバーは、マスクを頭に乗せる際、ストラップ側を額にかけて、マスク本体を後頭部に回すスタイルを愛用している。
常識的に考えれば逆向きで、一見、壁に耳あり、後ろに目あり、みたいな妙なカッコだが、実は、これにはマスクを落とさない、という重大な効用が隠されている。
ストラップを額にかけてマスク本体を後頭部の出っ張りにはめ込むようにセットすれば、マスクを頭部の深い位置まで挿入することが出来、かつ、ストラップにテンションもかけられる。
波や自分の手等が触れる等、ひっかかることでのトラブルの可能性が高い顔の前方に抵抗の小さいストラップがある点も有利。
そんなこんなで、後ろに目ありの逆向きスタイルによって、マスクを無くす可能性は激減する。
なお、テックダイブでは、本番前の最終確認を口頭で水面で行う可能性や、浮上後に周囲の状況を広い範囲で目と耳で確認する必要のある場合が少なくない。
よって、水面でフードやマスクを外す機会も少なくなく、従って、この後ろに目ありは、器材喪失予防のための重要なスタイルなのである。
まだ少し行に余裕があるようなので、次はフィンについて。
テックダイバーのフィンは、基本、地味。
黒とかグレーとか、色が付いている場合も、ブルー辺りでいっぱいイッパイ。
一般に愛用者の多い白とかキレイなイエロー、可愛いピンク、みたいないわゆる目立つ色は使われないが、ここにもそれを正当化する理由がある。
テックダイブのフィールドである水中洞窟や沈船内部、あるいはミックスガスを使うような大深度ではライトによって視界を確保し、サインを交わすスタイルが定番だ。
そして、特に狭い環境ではダイバー同士が縦に連なって接近して動くため、チーム内の別ダイバーのフィンが超目の前、なんて状態も珍しくない。
そんな時、目の前のフィンが、反射率の高い白やイエローやピンクだと、これはある種の目くらまし。
自分のライトの光がフィンでキレイに反射すると、まぶさしで視界がスポイルされてしまうのだ。
よって、テックダイバーはチーム内の他のメンバーに、そうした御迷惑をおかけしないために、地味なフィンを選ぶのだ。
決して綺麗な色が嫌いな訳じゃないのだ。
そんな訳で、とりあえず私は、娘のスカートの長さに関して文句はつけない代わりに、父親としての威厳をもってして、スカートの内側のパンツに関しては、人様に見られても恥ずかしくない、ハイクオリティーでスタイリッシュでエレガントで家柄の良さが滲み出すような逸品を選ぶベシというアドバイスを与えた。
もちろん、話題がそのパンツ購入資金に及ぶ前に素早く席を立ち、部屋も出て、玄関も出てばっくれてやったゼ。
完璧ダ。