マニラのグレートクレージー神風タクシードライバー~ストリート・テック適性・バトル~
ここ何年か、1年の内の3ヶ月前後をフィリピンで過ごしている。
もちろん、ダイビングのお仕事で。
カラオケやバーの夜遊びだけが目的でご熱心に通う方々とは、何といっても「昼間の過ごし方」が決定的に違う。
ダカラデショ、ワタシ、タガログ、コトバ、ワカル、ホンノスコシ!
というのも、フィリピンはディープダイビングやレックダイビングの講習&ツアーのフィールドとして文句ナシのお土地柄。
例えば、ヘリウムを使ったミックスガスによるディープダイビングの講習&ツアーで使うサバンビーチ@プエルト・ガレラは、長くスクーバでの深度記録を維持していた伝説のテックダイバー、ジョン・ベネットのかつてのベースで、夕方オーダーしておけば、リクエスト通りの数値のTrimixやEANxが翌朝には出来ているし、テックダイブのサポートに精通した気の知れたスタッフやボート&ボートスタッフもいて、ディープダイバーのために神が特別にデザインしたもうた絶品ウオールまで複数完備。
レックの講習&ツアーで使うスービックには、まるであつらえたように、内部の奥の奥まで侵入可能な沈船が難易度お好み次第で複数沈んでいて、ここも気の知れたスタッフだらけ。
ダイビングサービス同士が連絡を取って、複数のグループが船内で鉢合わせないようなスケジューリングをしてくれるし、船内にウニやガンガゼも皆無。
だから、狭い通路を無視界の手探りだけで進むトレーニングも思うがまま。
レックダイブの醍醐味のひとつ、身動き不自由保証付きのエンジンルームへの侵入も満喫できちゃいマス。
加えて、どちらのフィールドにもお友達がいっぱいだから、今やフィリピンは、行くというより帰るじみた感じ。
物価は安いし、治安も、私の行動範囲に関してはすこぶる良好だから居心地も抜群と、話は尽きないのだが、しかし、こーゆー事は今回の本題では全くない。
要は、私は頻繁にフィリピンに行っている、ということを言いたかったのだが、その理由に関して誤解がないよう、フィリピン通いの正当性も説明しておく必要があると感じた結果、少し話が長くなりました。
だからこれは、人は後ろめたい事があると饒舌になる、という言い伝えとは全く関係ありません。
というわけで、そろそろ本題。
そんなこんなで頻繁にフィリピンに行く私は、成り行き上、マニラにも少なからず滞在する。
そこでお世話になるのが現地のタクシーなのだが、そうしたタクシードライバーの中に、素晴らしいテックダイバーとしての適性を放つ人材を発見することが、少なからず、ある。
そのあたりが、今回の話のポイントだ。
マニラのタクシーをご存知の方ならお分かりだと思うが、奴らは前方に3cmの隙間があれば問答無用でクルマの鼻先を突っ込む。
脇や後ろに5cm隙間があれば鮮やかに割り込む。
2車線の道路であっても、スペースさえ見つければ、何の躊躇もなく3列や時として4列でも並走する。
クレージーな神風だ。
そして、そんな中に、前後左右、全方位のクルマや歩行者や、3人乗りどころか4人乗りも珍しくないおんぼろバイクや、突っ走るクルマの間を女たらしのマタドールのように自在に闊歩する長袖&ほっかむりのモノ売りや、予測不能な場所から気配を消して突然現れる赤ん坊を連れた乞食等、ちょー広範囲の路上のそこここに登場するキャラクターの全てを把握し、そのトータルの動きを予測するお見事な状況判断と濁りない決断力で、早回しのジェイソン・ステイサムのような鮮やかな走りを披露するグレートなクレージー神風を発見することが、多々ある。
例えば前方に絶望的な渋滞が起きていても、グレートクレージー神風は、それを感知した瞬間に間髪おかず、いきなり強引に脇道にクルマをねじ込む。
そんな強引な動きの中でも、引っ掛けそうな歩行者やトライシクルが居れば、相手の反応を一瞬で予想&判断、その予想に応じた絶妙な加速や減速、あるいはハンドリングで、髪の毛一本分の隙間で接触をかわす。
そんな時、リアシートの私は思わず心の中でつぶやく。
リュック・ベッソンに見せてやりたい!
しかも、その間、せっかく拾ったカモの日本人に、どれくらいの金額をふっかけてボってやろうかと頭の中身もフル回転。
会話しながら、相手のマニラ経験の度合いや相場知らずぶりを探り、どれくらいまでボっても大丈夫な野郎なのかを判断し、そんなさなかでも道端にカワイイおネーさんを見つけたら振り返って目で追い、携帯メールの着信音が鳴れば文面を確かめ、かかってきた携帯電話にも対応し、ラジオの音楽が趣味から外れると選局にまで精を出しながら、常にその状態における限界までアクセルを踏み続ける。
こうした極上の集中力と絶品の注意力、時空を超える判断力や反射レベルの決断力による大胆不敵かつ繊細な行動と、ぼったくりの成功目指して常に回転を止めない高回転、高出力、高性能の脳みそのコンビネーションは、正にテックダイバーに求められる適性の集大成だ!
グレートクレージー神風タクシードライバー恐るべし。
ただし、そーなると私だってテックダイバーの端くれ。
おとなしくボッタくられていてはテックダイバーの名が廃る。
勝負してやろーじゃないか。
というワケで私、タクシーを拾う時は必ず「メータータクシー?」と確認して、行き先はエリアや通り名だけを指定。
いきなりホテル等の固有名は言わないよう心がけている。
海況の確認と、ダイビングスタイルの選択の可能性を狭めないための高度な戦略である。
続いて、乗車直後からドライバーの不良っぷりを推測、ゲットした初期データを総動員し、ダイブサイトや海況の手強さに応じたリスクマネージメントに基づく第一次潜水計画を立てる。
ドライバーが性悪系で、さらにメーターも動いていなかったり、明らかな遠回りを始めた際は、その時点で、「誰でも・いつでも・どんな理由でも、ダイビングの中止を申し出ることが出来、その申し出には問答無用で従うべし」というケイブダイビングのゴールデンルールに基づいて、「約束が違うから降りる」と毅然とした態度でこの勝負から降り、ついでにそのタクシーからも降りることにしている。
勝負の余地と価値がある、と判断した時は、様々なトラブルの可能性を予測し、過剰なリスクを犯すことなく、エキスプロレーションを成功させるための作戦を煮詰める。
こんな時はフレキシビリティーが重要だ。
基本、走行中に勝負をしかけて妥当なタクシー代で話をまとめるのが無難な手だが、それが成功しなかった場合は、頭を速やかに切り替えて、勝負のタイミングを降車時に絞る。
例えば、最終的な行き先に、エントランスのスロープがあってホテルマンとガードマンが常駐するハイクラスのホテルを指定。
エントランスの前までタクシーをつけさせる。
周囲に人がいる状態で、さぁ、勝負開始。お値段の最終交渉だ。
ここからは実話。
ある時、50ペソ程度のはずのタクシー代を300ペソ、と言われた時の話だ。
「300ペソぉ、ちょっとお高くありません?いつもは50ペソですよ」
「旦那ぁ、300ペソは相場ですよ」
「あなた、メータータクシーだと言ったのに、メーターを作動させませんでしたね、だからそれが正しい値段かどうか、私には分かりません」
このあたりでドライバーの態度が変わる。
「払ってくれよ、あんたここまで乗ったんだからさ、相場なんだからしかたねーだろ」
やってきました、勝負の時!
「分かりました、本当にそれが相場なんですね、では、一緒にホテルのフロントに行って確認してみましょう。あそこからここまでの相場が本当に300ペソなら、私が悪かった、倍の600ペソ払います、でも嘘だったら1ペソも払わないからな!」
ここで速やかにクルマを降りて、ドライバー側のドアを開き、ドライバーを引きずりだそうとする私。
揉め事ですか、とホテルマンとガードマンが近づいてくる。
こーなったらこっちのモン。
「分かったよ、今回は50ペソでいいよ」
「おいおい、嘘だったら1ペソも払わないといっただろ」
「それは勘弁してよ」
「分かった、じゃぁ40ペソ」
「え、40だけ…」
「それとチップに10ペソね、楽しいドライブだったよ、ありがと、良い一日を!」
エクスプロレーションダイビング、成功である!
というワケで、フィリピンは路上にも優れたテックダイバー適性を持つグレートなクレージー神風が潜むミラクルな国で、向上心に溢れたテックダイバーはそんなフィリピンの路上においても、グレートクレージー神風フィリピーノ相手に、自身の適性のレベルアップに精を尽くすものなのである。
めでたし、メデタシ。
ちなみに、私の今年のディープダイブの潜り収めは12月29日。
やっぱりフィリピン、-110mの器材作動テスト。
潜り始めは1月1日。やっぱりフィリピン、テクニカル・レック講習。
そして、年越し前後はやっぱり路上でグレートクレージー神風相手にテックダイブ適性のレベルアップバトルに勤しんでいることと思います。
ではみなさん、年末年始も Good & Safty Diving! 良いお年を!!