“器材のチェックは、いかなることがあっても、これを妨げてはならない”の意味とは?~バディシステムのエッセンス~

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前回は、バディシステムの基本ルールと思われる“サインを送って反応がなければ、イマージェンシー(緊急事態)と考えろ”をご紹介しました。
多くの皆さんにいいね!のマークをしていただきましたが、ダイビングの安全管理の基本システムはバディなのだという、アメリカ海軍のダイバーの基本的な姿勢を表現しています。

今回ご紹介したいのは、“器材のチェックは、いかなることがあっても、これを妨げてはならない”。
これはPOSEIDONというリブリーザーのメーカーの安全推奨手順の一節です。

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やどかり仙人コラム

これはバディの器材チェックを邪魔してはいけないということだけではありません。
ダイビング前の器材点検は、ダイバー本人に100%の責任があることを言っておるのだとヤドカリ爺は解釈し、大いに納得であります。

バディの責任という声もあろうかと思いますが、ややこしい言い方ではありますが、これは、バディのパートナーになるべきダイバー個人の責任であります。
自分が使用する器材を点検し、ベストの状態に調整し装着する。
当たり前のことですが、自分にしかできないことです。
いわばその日のダイバーの自立宣言といってもよいでしょう。

BCDやタンクの快適なフィッティングなど、バディにはわかりません。
マスクやフィンのストラップの調節具合など他人には、さらにわかりません。
タンクがずれ落ちるのは他人の目からもハッキリわかりますが、きつすぎたりゆるすぎたりはわかりづらく、しかし、マスクやフィンのストラップ、それだけでも水中では十分にストレスの原因です。

バディ本人の器材チェックが終わった後に、バディチームが互いに点検しあうのは、あくまでも、ダイバー本人の器材チェックのダブルチェックでなければなりません。

撮影:越智隆治

器材のセッティングができないダイバーにチェックはできない

ヤドカリ爺がなぜこんなわかりきったことを改めて物申すのかというと、先日静岡の大ベテランのインストラクターさんが、自分の器材をセッティングできないダイバーがいると嘆いておられたのと、あるワークショップでエア切れのダイバーのリカバーをガイドダイバーがしなければならない、という困ったケースに心迷わせていたからです。

器材のセッティングができないダイバーが器材のチェックができるはずはありません。

水中ガイドの本来の仕事は、言葉そのままに水中でのガイドです。
水中でエア切れだの、タンクがBCDからずれ落ちたなどという、原因が陸上での本人の点検ミス、その責任を押し付けられたのではたまったものではありません。
それ以前にダイビングそのものがこれでは成り立ちません。

昨日ビギナー講習が終わったばかりであろうと、タンク本数数千本の超ベテランであろうと、器材の点検はあくまでもダイバー本人の責任であります。

エスコートをするガイドやインストラクターが、チーム全員のタンク圧やバルブが開いていることをチェックするダイブボートやリゾートがあるやに聞いていますが、見方を変えれば、これは本来ダイバー本人の責任を、ダイビングサービス側が自ら背負い込むことにもなります。

ダイバー本人がチェックし、バディがチェックし、チームのリーダーが二重にも三重にもチェックするのであれば、まことに理屈の上では安心ですが、他人が自分の器材のチェックをするというのは、このヤドカリ爺には、どこかダイビングの安全管理の責任転嫁にも見えてしかたがありません。

一時、フィリピンなどで、タンクを背負わせてくれる、フィンは履かせてくれる、ボートのはしごに戻ると水中にボートスタッフがいてタンクをはずしてくれる、フィンを脱がせてくれる、こんな過剰サービスが、お大名ダイビングなどと、もてはやされたことがありましたが、はっきり言ってこれは、ダイバーの技量がまったく信用されていない、あるいは自立していない、一つの証左でもありましょうか。

撮影:越智隆治

器材トラブルを回避するためのチェックリスト

本題に戻りましょう。

リブリーザーを使用するダイビングでは、プレダイブのチェックにチェックリストを使用することが強く推奨されています。
離陸前の飛行機のチェックリストと同じです。
点検項目を確実に確認するためでなく、確認したことを記録に残す、法的な側面もあります。

チェックにチェックリストを使う。

これは、ダイビングサービスで初めて出会う、即席バディチームが多い現在のレクリエーションダイビングでは、特に必要かもしれません。
 
いくらダイビング前の器材のチェックは100%本人の責任といっても、何をどのようにやるのかを、標準化しなくては、バディチームのパートナーも、ガイドダイバーを安心はできません。
標準化されたチェックリストにしたがってチェックをし、チェック項目がすべてOKなら、パートナーやガイドにチェックリストを確認してもらう。

そうすれば、少しは器材に起因するトラブルは減るに違いありません。
ダイビングのリスクの責任範囲もより明確になります。
それが“器材のチェックは、いかなることがあってもこれを妨げてはならない“の本当の具体案だと思うのです。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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