ダイビングにおけるバディの責任とは?シグナルを送ってバディが反応しなければ、緊急事態と思え

先日、Cカード協議会の安全ワークショップに行ってまいりました。
会場は満席、真摯なムードに溢れたワークショップでありました。

海上保安庁の事故レポートやPADIのトレーニングディレクターが進行する、事故の実例の検証・対応策などについての意見交換がありました。
そのワークショップのレポートはPADIのホームページなどで見られます。

やどかり仙人コラム

多く集まった一般ダイバーの視点は、ガイドやインストラクターの安全管理についての意見が集中しました。
ダイビングをサービスとして提供する以上この安全管理の責任の問題に目が行くのは当然です。

それでも、事故の原因とか、誘因などの安全の問題が、全体的に管理者の責任に向けられているという気がしたのです。

ツアーをエスコートしたガイドやインストラクターがこのようなトラブルをカバーすることは重要ですが、どのケースもいちばん近くにいたはずのバディは何をしていたのだろうと思わせました。

空気の足りないタンクを背負ってエントリーしてしまうケースなどは、なぜプレダイブチェックの段階でパートナーの空気量が気にならないのかと、また、なぜ水中での空気残量のチェックはバディチーム二人で一緒におこなわないのかと、素朴な疑問がおきました。

もちろん提供されたどのケースも、そのディテールは分からないので、バディダイビングというシステムがこれらの事故を回避したともいえません。
あくまでも個人的な感想です。

リクリエーション・ダイビングの手順は、バディチームが互いにバックアップすることが前提にできあがっています。
(テックダイビングでは、実行テクニックの面でも器材の面でも自分で自分をバックアップする、自己完結型のダイビングになっています)

しかしながら、どうも現在のダイビングには、このバディ間の連帯感が希薄で、バディチームでよりも、ガイド対ダイバーの関係でダイビングがなされているようです。

その結果、トラブル回避のメインの手段であるバディシステムが機能しにくくなっているようです。
もっとも身近な安全管理者は、バディだったはずなのです。

本来バディシステムは ダイブのプランの検討から始まって、ダイビング前のプレダイブチェックから実際の水中活動へと続くことになっています。
見方を変えれば、バディシステムは、ダイビングテクニックであると同時に、意思の統一が要求されるかなり濃密な人間関係なのであります。

理屈からいえば、まさにそのとおりです。
しかし現地のダイブセンターで出会った即席のバディチームにこの人間関係を要求するのは、とても難しいのも事実です。

ニューカレドニア、クマック&プーム(撮影:越智隆治)

さらに2人で1組のバディシステムには、とても重要な前提があります。
どちらかがパートナーをサポートするのではなく、自立した二人でダイブすることで安全マージンを高めるというのが、本来の精神です。

そのCカード協議会のワークショップの中で、適切なバディ間の距離はどれぐらいかというセッションがありました。
とても興味深いテーマに見えますが、絶対的な距離の問題よりも、精神的な距離感のほう大切でしょう。

ダイビングの実施手順について世界でもっとも広く読まれているマニュアルの1つが、アメリカ海軍のダイビングマニュアルでしょう。
その中で、バディシステムの中のバディの責務に、こんな印象的なルールがありました。

シグナルが送られたら、ただちにそれに従え。ダイブパートナーがシグナルに反応しなかったら、エマージェンシー(緊急事態)と考えるべきである。

なんだこれは当たり前のことと思うダイバーが多かろうと思いつつも、このヤドカリ爺はいまさらながら、バディシステムの真髄と感心したのであります。

そしてこのアメリカの海軍のバディシステムの定義は、けっしてエマージェンシーの状況だけを言っているわけではりません。
ダイビングに要求されるダイバーの姿勢を表現しているようにヤドカリ爺には感じるのです。

パートナー間のシグナルが送られた瞬間に相手と一体になる、また反応がないときにはただちに緊急事態として何をおいてもサポートするというパートナーシップを維持するには、それ以前の徹底した意思の統一が必要で、俺が俺がの2人組の関係でないこと、バディ間の距離が何メートルなら安全かなんてことより、それ以前にいつでも相手をサポートする姿勢であり、態勢にあることが前提であることを物語っております。

もちろんそれには、互いが自立したダイバーであることが前提で、トラブルが起きたときの誰の責任というレベルの話ではないということです。

ヤドカリ爺風に解釈すれば、頼りにすべきは、遠くの親戚より隣のおじさん、遠くのガイドより近くのバディであります。
もっといえば、もっとも近くに信頼するバディがいることが重要だということです。

突然の即製バディチームでダイビングをすることの多い現実を見れば、ガイドのブリーフィングも重要ですが、バディチームのプレダイブの打ち合わせの方がより重要のように思うのです。

もっとも近い安全手段のバディがもう少し頑張っていたら、いや気を配ってさえいたら、いくつかの事故は回避できたのではないかと思うのです。
いやそう思いたいものです。

シグナルが送られたら、ただちにそれに従え。ダイブパートナーがシグナルに反応しなかったら、エマージェンシーと考えるべきである。

このルール、日本での自動車の左側通行みたいなもの、当たり前だけど、それをおろそかにすると、ダイビングの基本が、ガラガラと崩れることになります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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