イルカは超音波でどれぐらい手前からボートを認識しているのか
イルカの出している超音波って何?
コウモリと同じように、イルカが超音波で周りを見ている、ことはご存知の方も多いはず。
では、チョウオンパってなんでしょう?
御蔵でお客様に聞くと「なんかスゴイやつ」とか「ビーム?」とかいう答えが返ってくることもあります。
面白いけど違います。
「スゲー音」という人がいたら、ほとんど正解、80点です。
正確には「ヒトには聞こえない高い音」でしょうか。
この「ヒトに聞こえない」「高い」というのが、残り20点。
ヒトが聞くことのできる高さは、だいたい20kHz(キロヘルツ)くらいまでです。
ただし、聞こえる上限は年齢とともに落ちてきてしまいます。
文字で書いても分かりにくいですね。
コンビニの前などで若者が溜らないように出している不快音(モスキート音)は、17kHz前後とのこと。
ナマイキにも若者たちには、あの音より少し高いところまで聞こえているはずです。
5年ほど前までは私にも聞こえたのですが、今ではまったく聞こえなくなってしまいました。
イルカの超音波でどこまで「見えている」のか
さて、どのくらい高い音をイルカは出しているのでしょうか?
なんと彼らは数十〜100kHzもの高さの音を出して、跳ね返ってくる音(いわゆるコダマです)から対象物までの距離や、対象物の材質まで調べているようです。
距離が近いと、音はすぐ跳ね返ってきますし、硬いものは音をたくさん跳ね返します。
逆に遠いと、返ってくるまでに時間がかかり、柔らかいとあまり大きくは返ってきません。
湯船に浸かりながら歌うとエコーがかかるのは、大抵のお風呂場がタイルなど硬い素材で囲まれているからです。
ユニットバスしか知らない若者は、いますぐ銭湯に行って歌ってみてね。
ハンドウイルカを使った実験では、直径7.62cmの鉄球を113m離れたところから判別できたことが報告されています(Auら 1974)。
御蔵島周辺でイルカが出す音の間隔を測定した結果からも、最大で140mほど先を「見ている」ことが示されています。
イルカウォッチングで水中に入ったのにイルカが見えない!という時も、あちらからは丸見えの可能性が高いですね。
また、船の音になると、1kHzの音が最大169.2デシベルと測定されています。
イルカの聴覚特性や水中での音の減退を考慮しても、イルカには約2880m前から接近する船の音が聴こえている、と試算されました。
これが事実なら、10ノット(約18.5km/h)で進む船ならばイルカに到達する9分も前からバレている計算になります(赤松 1998)。
すごい目が良い船長さんでもイルカを発見するのは300m手前くらいです。
ということは、船長がイルカを発見する8分も前に、イルカには船の音が聴こえていることになります。
もし、イルカが「今日はヒトの相手するの面倒だなぁ」と思っていた場合、船長さんに発見されるより前に逃げることができそうです。
ヒトがいくら忍び足でもバレバレ!それでも一緒に泳いでくれるイルカは、とっても寛容なのかもしれません。
■引用文献
赤松友成. (1998),イルカの鳴音および水中騒音調査. イルカウオッチング調査検討委員会最終報告.イルカウオッチング調査検討委員会, 60-76.
Au,W.W.L.,Floyd,R.W.,Penner,R.H.,and Marchison,A.E.(1974),Measurement of echolocation signals of the Atlantic bottlenose dolphin,Tursiops truncatus Montagu, in open waters. J.Acoust.Soc.Am.,56,1280-1290.