なぜ日本には土砂災害が多いのか?短期集中連載スタート

気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

伊豆大島ボランティア&ダイビング

みなさん、こんにちは!
9月の声を聞くと同時に、めっきり涼しくなりましたね。
そして、これからが海はいい季節。

今度の週末はどこに行こう?と、海岸沿いの崖の道から海を見下ろす景色や、あるいは、岸沿いのドロップオフの下にいる魚たちに思いを馳せている人、いるんじゃないでしょうか?

でも、こういう楽しみが、実は「土砂災害の重要な要因」の上に成り立っていると言ったら驚かれますか?

今回は、そんな、ダイバーの行動とは切っても切り離せない、土砂災害の話です。

広島をはじめとする土砂災害が発生

今年は土砂災害の話しを多く聞きました。

ごく最近、70名以上が亡くなった広島に加え、礼文島、南木曽など、この夏の間に本当に何度となく聞きましたね。
去年の10月には伊豆大島の災害もありましたし。

記事を始めるに当たり、まず、これらの災害で遭われた方やご家族、ご関係の皆様にお見舞いを申し上げると共に、一日も早い癒しと慰めをお祈り申し上げます。

不思議の国ニッポン 急勾配で雨が多い

さて、先ほど「崖の道から海を見下ろして」と書きましたが、それが土砂災害と関係ありそうだということは、すぐにご理解いただけると思います。

が、ここで突然、アフターダイブの話しです。

食欲の秋。
ダイビングのスポットのほとんどどこでも、海と山が近くて、まさに「山海の珍味」が楽しめます。
その後、温泉に入って、一杯なんて(笑)。
うじゅるっ!

…って、皆さん、あらためて冷静に読むと、これも、ちょっと不思議な言葉だと思いませんか?
どこでも…山海の珍味が楽しめる?

そうです。
本来、海と山のものなんていっしょに楽しめること自体が、不思議。

まして、「どこでも」という言葉。
これはとりもなおさず日本の地形の特徴を端的に現している言葉なのです。

日本という国は、世界の標準から見ると、実はものすごく特殊な地形上の特徴があります。
つまり、私達にとって当たり前のことでも、世界的にはすごいことがかなりあるんです。

そのほとんどが、次の二つのことに起因します。

  • 1.日本列島が、環太平洋火山帯上に存在する島国であること。
  • 2.日本の位置が、ヒマラヤ山脈の東にあたっていること。

このうち、1.があるために、日本は非常に山がちな国として形成されました。
国土の75%は山岳地帯、または丘陵地です。

一方で、2.のために、日本はちょうど偏西風の流れから言うと、ヒマラヤ山脈の風下にあたり、ヒマラヤの北と南のいずれかを回ってきた空気が韓国や日本の上空でぶつかることが多いということです。

冷たい、暑いの二つの性質が異なる空気がぶつかることで、前線ができやすくなります。
いわば、根に当たった潮流の潮裏に潮目ができるようなものです。

前線ができやすいので、雨が多くなります。
他の温帯地域が年間降水量数百ミリ程度なのに、日本は千数百ミリですから、2~3倍の降水量があることになります。

同時に、冷たい空気と暑い空気がぶつかり合うので、あまり「暖か」な空気が日本を支配する時期は長くなりません。

つまり、日本は良く言えば「四季のある美しい国」ですが、悪く言えば「暑いか寒いかの日が多く、雨の多い国」ということになります。

火山が多くて、高い山がどんどん(数千万年単位で)できる。
そこに多量の雨が降るので山が削られ、谷が深くえぐられる。

結果、勾配の急な山谷の多い国ということになります。

地下水も豊富で、良質の湧き水も多く、川の数も多いですし、山が海に迫っているから、「山海の珍味」が「どこでも」いただけることにもなります。

同時に火山があって地下水が豊富なので、温泉も豊富というおまけもついています。

降水量が多いので、稲作がさかんで、麦よりは米の文化です。
お刺身や焼き魚は、ことさら白いご飯に合いますよね!

つまり、ニッポンというのは、世界から見たら、「異常なほど」雨が多く、山が海にせまっていて、勾配が急で、平野が少なくて、温泉が多い土地ということになるのです。

温泉はともかく、他の条件は土砂災害に関係しそうということはご理解いただけるでしょう。
日本は、国土の成り立ちからして、世界的にみたら「異常なほど」土砂災害が起こりやすいのです。

平野に住めば安全?地平線の見えないニッポン

平野に住んでいるんだから大丈夫だよね?
という意見もあるかもしれません。

しかし、私達ダイバーは、水平線を眺めることはよくありますが、日本国内で地平線を見たことがある人はどのくらいいるでしょうか?

日本一広い関東平野ですら、東京にいても山が見えて地平線にはなりません。
よく晴れている日には、我が家からも、筑波から那須、日光、赤城榛名妙技から秩父の連山、丹沢や箱根の向こうには富士山まで見えます。

私も小さいころ、海外の児童文学で「地平線」という言葉を見て、「それって何だろう」って思っていました。
そして、初めて海外に行くまでは、「地平線に沈む夕陽を見る」というのが一つの夢だったくらいです。

つまり、世界で言うところ本当の意味での「平野」といえるようなものは、大陸にあるもので、日本では見られないのです。

それもそのはず、日本の平野は、ほとんどが沖積平野。
つまり川が山を削って土を運び、それが流れ出して溜まってできた平野だからです。

それってどういうことなのか?

つまり、関東平野ですら、昔は無かったところに川が山から削りとってきた堆積物によってできあがった平野ということなのです。

別の言い方をするなら、平野といえども、山が時々くずれて、土砂が堆積していかなければでき得なかった土地。
そんなところに、私達は住んでいるということです。

関越自動車道の勾配

関越自動車道の勾配 悩み多い国土“日本”より

ベルリン-ハンブルグ間の高速道路の勾配

ベルリン-ハンブルグ間の高速道路の勾配 悩み多い国土“日本”より

※次回は、明日(2014年9月6日)アップ予定です

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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