なぜ、プラスチック(ビニール)バッグでイルカと遊ぶことを容認しているの? ~御蔵島・ドルフィンスイムで感じた疑問~

御蔵島のイルカ(越智隆治)

御蔵島ドルフィンスイム1日目、午後からの2本目は、予期していた通りに、天気も崩れ、風も吹き出した。
イルカたちも、午前中よりは遊びモードで無くなってきていて、ほんとんどが通過イルカ。
ちょっと不完全燃焼のまま港に戻ろうとしたそのとき、港の目の前でイルカの群れが見えたので、最後に入ってみることに。

すると、一頭のイルカがテールにプラスチック(ビニール)バッグを引っ掛けて泳いできた。

その通過する瞬間をカメラで撮影したのだけど、急にUターンして戻ってきて、僕の目の前でクルクルと回り出し、最後には、そのプラスチックバッグを尾から離して、僕に渡すような仕草を見せた。

御蔵島のイルカ(越智隆治)

プラスチックバッグをテールに引っ掛けてやってきたイルカ

御蔵島のプラスティックと遊ぶイルカ(越智隆治)

踵をかえして、迫ってきて、目の前でプラスチックバッグを渡して来ようとした

バハマでも、イルカたちとはよく海藻でパスキャッチをする。

一時期、バンダナでパスキャッチすることもブームになったことがあるが、最近ではあまりしていない。
なぜなら、イルカたちが持ち去ってしまうこともあったから。

バンダナでのパスキャッチに関しては、クルーが奨励していても、自分で持って入ることは多分ほとんどしなかった。

まったくしなかったとは言わないけど、とにかく抵抗を感じていたので積極的に行うことは無かった。
だけど、海藻でのパスキャッチは自然のものだし、特に抵抗を感じることなく楽しむことができる。

バハマのイルカ(越智隆治)

海藻をテールに引っ掛けて遊ぶ、バハマのタイセイヨウマダライルカ

バハマのイルカ(越智隆治)

海藻を使ってイルカとパスキャッチを楽しむ

プラスチックや釣り糸が、海洋生物や海鳥の体に食い込んでしまったり、体内から見つかり、大きな被害をもたらしていることは、海の自然環境に関わって生きている人間からすれば、当然知っていてしかるべきことだと自分は思っている。

だから、今回、イルカがプラスチックバッグを持ってきたときには、回収できたら、船に持ってかえろうと思っていたから、目の前で渡されたバッグを握りしめて撮影を行った。

すると、そのイルカ、最初は、まるで枝やボールを持っている飼い主が、いつそれを投げてくれるのかを尻尾を振って待って犬のように、僕の回りをクルクル回り出した。
はっきり言って、「可愛い」のである。

しかし、返すわけにはいかない。

すると、「返してくれない」ということに気がついたのか、今度は、僕に向かって、「返してよ〜〜〜!!」と言わんばかりに口を開けて主張してきた。
そして、その後も僕の回りをグルグル、グルグル側にいる皆の回りもグルグル。

御蔵島のイルカ(越智隆治)

他の人がプラスチックバッグを持っているのを探るかのように、他のスキンダイバーの周囲も回り続けた

「返して!」、「だ〜め!」、「返して!」、「だめだったらだ〜め!」というようなやり取りが、かなり長い間繰り返された。

御蔵島のイルカ(越智隆治)

私のおもちゃかえして〜!と僕に抗議を続けるイルカ

そして、とうとう他のイルカたちに促されて、そのイルカも渋々と泳ぎ去って行った。
ちょっと可哀想だったかな〜、申し訳無いな〜と思いつつも、僕はプラスチックバッグを握りしめて船に戻った。

加藤君に聞くと、「ビニール袋はイルカのお気に入りのおもちゃなんですよ〜」とのこと。
まあ、そうだろうね。
まるで、スヌーピーに登場するブランケット症候群のライナスみたいだったから。

と宿に戻り、観光局協会を訪れてパンフレットなど覗いていると、御蔵島村役場の出すパンフレットに、「好奇心が強く知能の高いイルカはよく遊ぶ生きもの。・・・・・海中にただようビニール袋は定番のおもちゃです」と書かれているのを見つけた。

「……まじか」

自分がfacebookにアップした投稿にも、先週ビニールで遊びました〜、という書き込みもいくつか。

疑問に思い、いろいろ調べてみた。

「御蔵島 イルカ ビニール」で検索すると、出てくる、出てくる。
動画やブログがたくさん出てきた。

中には、遊ぶことに対して否定的なコメントもあるけど、多くの場合、「楽しかった」とか「うらやましい」と言ったコメントが多く、「回収した」というような内容は正直、あまり見つからなかった。

疑問や多少の抵抗があっても、たくさん遊べるからってことなのかもしれない。

これだけ肯定的な内容のものがあったら、否定的なこと書くことの方が罪悪感があり、「イルカも人も、皆が楽しんでるからいいじゃん!」という多数派の意見に圧倒されて、自分もこの記事も書くのどうしようかなとか、確かにイルカがあんなに楽しんでるんだから、とか思う気持ちも無くはなかった。

でも、多くの時間、海で過ごし、海洋生物が被害にあっている現状を目の当たりにしてきた身としては、どうしても「ごめんね、楽しいかもしれないけど、だめなものはだめだよ。自分たちや、他の生き物たちに迷惑がかかるかもしれないし」と思わざるをえない。

もしかしたら、穴が空いているプラスチックバックであれば、そこに顔を突っ込んで抜けなくなる可能性だってあるわけだ。

プラスチックバッグの被害とはちょっと違うけど、以下に過去に自分が見てきた、海洋生物たちが被った被害を目の当たりにしたときの写真を何点か掲載してみた。

バハマのイルカ(越智隆治)

プラスチックバッグではないけど、釣り糸がテールに巻きついて、テールがボロボロになってしまったバハマのイルカ。次に会ったときには、釣り糸は無くなっていたけど、テールはご覧のような状態に

網がひっかかったクジラ(越智隆治)

長い釣り糸が身体中に巻きついているトンガのザトウクジラ。フィンや身体に食い込んでしまって取れなくなり、胸ビレを広げることもできなくなっている。弱っているからか、この後ろには、タイガーシャークをはじめ、無数のサメが付いてきていた

小さな子供たちが、してはいけない危険なことをしていたら、いくら楽しんでいても、その子のことを思ったら、「だめだよ」と叱れる大人にならなければいけないと思う。
いくらイルカたちに嫌われることになっても。そう思うんです。

御蔵島だけでなく、今でも、どこの海に行っても、大きなプラスチックバッグを海中で見つけたら、極力回収するようにしている。

願わくば、海中で溶けるような、ペットの糞を処理する用のプラスチックバッグなどが普及してくれればそんな心配もせずにいられるのになとも思ったり。

無理してまでイルカから奪って回収することまではしなくてもいいとは思うけど、生き物たちのことを考えたら、していいこと、よくないことは、しっかり判断して海洋生物たちと遊べる人になってもらいたいと思った、久しぶりの御蔵島再訪となった。

何か良い方法は無いのかな。

皆さんはどう思いますか?

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
  • facebook
  • twitter
FOLLOW