ウソ?ホント?人工エラTRITONの実現可能性はいかに!?
先日お届けした、話題となっていた人工エラに関する記事。
■ドラえもんもビックリ!? 人工エラTRITONはダイビングで使えるの?
https://oceana.ne.jp/equipment/60428
その冒頭でご紹介した、海水から酸素を取り込み呼吸を可能にするというTRITON。
TRITONをスクーバダイビングに活用するにはまだまだ多くのハードルが残る、というお話しでしたが、大前提としてTRITON自体の実現可能性について疑問が残るのではないか、というご指摘を頂戴いたしました。
確かにTRITON自体の実現が保障されているわけではなく、記事中の『開発されました』という言い回しには語弊がありました。
そこで今回は、TRITON自体の実現可能性についてを検証して行きたいと思います。
結論としては、現段階で実現可能とも不可能とも言い切ることは誰にも出来ないと考えます。
また、TRITONが現在発表されているプラットフォームのINDIEGOGOは通販サイトではなくクラウドファンディングサイト、つまりは出資者を募るサイトなので、その点に留意して読み進めて頂ければ幸いです。
黒い心で考えてみる
別に黒い、と言うのを悪い意味で使っているわけではないです。念のため。
保守的な視点から見てみましょう。
なぜTRITONに実現不可能論が噴出しているのか。
それは従来の物理化学の常識で考える、ということが根本にあります。
TRITONによると、ホローファイバーという素材によって海水中の溶存酸素を取り出すというメカニズムが説明されています。
ここで少し化学の時間です。
mol、分子量、理想気体といった言葉や数字自体にアレルギーをお持ちの方は、読み飛ばして頂いて結構です(笑)
お風呂の写真あたりから読むのを再開してください。
人間の一呼吸:0.5l
空気中の酸素濃度:21%
呼気中の酸素使用率:対空気比5%
⇒0.5l×5%=0.025lの酸素が必要(一呼吸)
理想気体は22.4Llで1mol(アボガドロの法則)
理想気体は1molで分子量に等しい重さ
酸素の分子量は32
⇒0.025l/22.4l×32=0.0357gの酸素が必要(一呼吸)
海水の溶存酸素は地域差があるが、~8mg/l程度
ここでは多くの検証記事で採用されている6mg/lとすると
35.7mg/6(mg/l)=5.95lの水が必要
毎分の呼吸数:15回
5.95×15=89.25lの水が毎分必要
必要最低限の酸素(気体中の5%)だとしても90l。
肺を膨らますために100%酸素であるとすれば20倍の1785llの水が必要。
これをあの小さいデバイスで毎分処理するというのはどう考えても無理。
という論理です。
1755lと言われてもピンと来ないと思うのでざっくりいうと、1戸建ての住宅で標準的な浴槽6杯分です。
この浴槽6杯分をわずか1分間で、
これが処理する…
確かに雲行きが怪しくなってきました。
また、騒動を受けてTRITON側は『液体酸素』の小型タンクを使用することを明らかにしました。
これについても技術的に疑問視する声が上がっています。
酸素を液体で保つためには、TRITON内部が1気圧だとして-183℃を保たなくてはなりません。
これをどの様に実現するのか。
危険物である酸素を簡単に販売することが可能なのか?
飛行機に搭載出来なければ販売も難しいのではないか?
さらに、液体酸素を使うのであれば、人工エラはどの様な役割を果たすのか?
など、明らかにしなくてはならない技術的背景はまだまだ多いのが実情の様です。
白い心で考えてみる
固定概念を抜いた視点から見てみましょう。
もちろんTRITONチームにも先ほどの溶存酸素の考え方に対するコメントが求められています。
その質問への返事をまとめると以下の通りです。
<引用>
その計算は正しい計算です。
しかし、それはあくまで現在公開している『溶存酸素を取り出すというメカニズム』だけを念頭に置いたものですね。
確かにそれだけでは実現することは不可能でしょう。
しかし、我々には未だ公開していないメカニズムがあります。
このメカニズムは特許取得の都合上、現在は非公開ですが2016年末に発売するころには、TRITONの素晴らしさを体感して頂けることでしょう。
</引用>
確かに、高校までの化学の知識だけで否定されてしまうようなプロジェクトを立ち上げるとは考えづらいような気もします。
そして、上記に出てきた『非公開技術』の一つが液体酸素の使用だということです。
液体酸素と人工エラに何かしらの相互作用があるのか、さらなる新技術の発表があるのか、これからが楽しみだと言うことが出来ると思います。
1度、あまりの批判に1億円に達しようかという出資金はすべて返還されましたが、それでもなお改めてわずか3日で2500万円の出資を集めていることからも、TRITONが夢に満ち溢れたアイデアで、その夢を多くの人が応援していると言えるでしょう。
いずれにしても現段階で全ての技術を公開しているわけでは無いと言っている以上、TRITON自体を全否定することも出来ない様に思います。
鳥になって見てみる。
俯瞰して結論づけて行きます。
確かにTRITON側にも説明不足な感があります。
一方でそれが特許取得のためであるのであればしかし、全く新しいコンセプトの商品である以上、仕方ない側面もあるでしょう。
否定派の意見には説得力がある様にも思いますが、逆に言えば最初から出来るとわかっていればすでに誰かが作っているはずですよね。
その技術的イノベーションを期待して多くの出資者が集まっているのです。
したがって、現段階で実現可能とも不可能とも第3者が結論付けることはできません。
少なくとも実際に発売されるか、特許が登録されてTRITONの全容が解明されるまでは。
これはどんなテクニカルな商品にも言えることで、その夢に対して出資を募るのがクラウドファンディングです。
出資にはリスクがつきもので、仮に実現しなかったとしても、それは仕方ないとも言えると思います。
大事なことは、その実現確率を自身で判断すること。
そして、納得できるものであれば応援する、納得できないものであればそっとしておく、ということではないでしょうか。
(構成・文/細谷拓)