スキューバダイビング事業で稼ぐには? ~終わったビジネスモデルを生き抜くヒント~
アジるのは得意ですが、稼ぐのは苦手な方です。
さて、とあるところから、「ダイビング事業で稼ぐには」的なテーマでクローズのレポートを書いて欲しいという依頼がきました。
※“稼ぐ”は、新規開拓して“儲ける”と既存市場の中で“ちゃんと食う”の2つの視点から。
それがわかれば自分がやっているし(笑)、わかっていても実現できるかどうかはまた別の話。
ということで、現状認識とアイデアというレベルであれば、ということで書かせていただきまいた。
その中から、ダイビング事業を考える上でヒントになればと、出せる範囲(“ちゃんと食う”方面)のことを少し抜粋して紹介します。
レッドオーシャンの先に待つ修羅の世界
どうしたら稼げるのか!?
まず、ガイド業をメインとした現地ダイビングサービス、Cカード講習や物販をメインとしたダイビングショップの、よくあるダイビング事業形態に関しては、そのビジネスモデルは、明らかにレッドオーシャン(マーケットが飽和し、競争が激しい状況)であるという前提に立つべきだと思います。
ここまで参入障壁が低く、競合がひしめくようになれば、あとは、広告合戦、価格競争、SEOガァーの修羅の世界です。
つまり、“人生何が幸せか論”を抜きにすれば、稼ぐという意味では終わっているビジネスモデルだと思います。
美しいブルーオーシャンで仕事をしているのに、マーケットではレッドオーシャンにたたずむ情景は、何とも皮肉としか言いようがありません。
ダイビング事業をメインとしたブルーオーシャン(新規開拓マーケット)を創出できる人はほんのひと握りであり、既存の事業をいきなりモデルチェンジしろというのも難しいので、では、既存の現地サービス、都市型ダイビングショップのビジネスモデルの中で、何とか稼ぐ方法はないかと考えてみました。
結果、稼ぐという視点でダイビング業界を俯瞰すると、カルテル、トラスト、コンツェルンにいきついちゃいました……。
いつの戦後かよ、みたいな(笑)
解決策は、阿吽のカルテルと高い参入障壁!?
そんな結論にいきついた時、Twitterでとても腑に落ちる論に出会いました。
(※本来どなたの論か記載すべきですが、昔にメモったもので書いた人がわからなくなってしまいました。書いた方、すみません……)
「お金を生むのが『仕事』だとすれば、世の中には大きく3種類の仕事があり、何かを創る(クリエイティブ)な仕事と、何かを操作したり作業する仕事、そして需給のバランスのギャップを抜く仕事。で、じーと見てると、一番労働量に対しての対価が大きいのは最後の需給ギャップを抜く仕事。 需給のギャップが出るには物理的に供給に限界があるか、人為的に供給が制限されている必要がある。前者は例えば土地など、後者はあらゆる規制やカルテル。クリエイティビティを持たない者にとってはこれらに絡まないと、労働価値の下落圧力に抗う術がない。」
ほんと、その通りなんですよ。
これをダイビングショップやサービスの既存モデルに当てはめて考えると、現在、ダイビング事業でそれなりに収益を上げているのは、特にスケールメリットを生かした修羅の世界を生き抜いた人たちを抜きに考えると、こんなこと言っていいのかわからないのですが、阿吽の呼吸で、カルテルやトラストを機能させ、やんわりと(笑)独禁法と付き合っているところだと思います。
例えば、スキンダイビングになってしまいますが、御蔵島のドルフィン事業。
御蔵島では、1日に出せる船の数が決まっていて、ドルフィン船の事業に参入できればそれなりにちゃんと食えるわけです。
また、伊豆などのエアタンクを供給しているダイビングセンターは、これは良くも悪くも漁協に絡んで窓口を一本化(あるいは限定)しているので、利益率の高いタンクを独占できる体制になっています。
これら御蔵島のドルフィン事業やダイビングセンターのタンク販売に関しては、もう一度、引きますが、まさに、この部分に当たるでしょう。
「需給のギャップが出るには物理的に供給に限界があるか、人為的に供給が制限されている必要がある。前者は例えば土地など、後者はあらゆる規制やカルテル。クリエイティビティを持たない者にとってはこれらに絡まないと、労働価値の下落圧力に抗う術がない」
逆に、レッドオーシャン化した都市型ショップや現地ダイビングサービスにはすでにクリエイティブ性はなく、供給過多に陥り、結果、価格競争の末、スケールメリットを活かせる大きな資本に集約せざるを得ないのではないでしょうか。
※誤解なきよう言っておくと、ガイドのクリエティブ性やサービスのクリエイティブ性は優れているショップはあり、職人として、サービス業として尊敬に値しますが、それはソフトの付加価値にしかならず、マネのねできないビジネスモデルとしてのクリエイティブ性とは別の話です。
ダイビング黎明期は、ダイビングショップというビジネスモデル自体がクリエイティブであり、目の前に広がっていたのは美しいブルーオーシャンであったことでしょう。
※日本の都市型ショップのモデルは、海外ならむしろ新しいモデルになりうる国がある気も………
供給過多の現在では、なおさら規制とカルテル的な枠組みは必要なんじゃないかなぁと思ったりもするわけです。
ダイビングの安全のためにも。
ここでもう一度エクスキューズしておきますが、あくまで、レッドオーシャンの中でビジネスを成り立たせようという前提です(クリエイティブなビジネスモデルを構築するか、レッド―シャンからは逃げるのが正解ですが、みんながみんなできるわけじゃないですからね)。
そういう意味では、本質的ではないですが、カルテル的な枠を作る“知恵”としては、イルカであれば「イルカの保護のための制限」という名目はありですし、沖縄などでは環境や安全という錦の旗を立てて、そういう仕組みを作るのもありかなと。
実際、イルカの保護に役だっていますし、沖縄でいえば、例えば、僕の大好きな多良間島なんかはお店が一件しかないおかげで海はめっちゃフレッシュです。
あとは、ちゃんと参入障壁を上げるしかない。
それが、先日書いたガイドラインであり、資格なのでしょう。
海外のクイーンズランド州とかメキシコなんかみたいに、法律でガチガチに決めてしまうのも、特に沖縄のようなマリンレジャーが盛んなところではもう仕方ないかもしれませんが、抵抗があるなら、業界でまとまるべきですが、これは険し過ぎる道のりなので、せめて、各エリアのダイビング事業組合なんかにがんばってもらうしかありません。
行政や外から見て、窓口のわからない業界はウィークポイントでしかないですからね。
バディ潜水(セルフダイビング)を後押しする規定とは
例えば、とあるダイビング事業組合では、加盟するのに「納税証明書が必要」とか、スタッフの社会保障をケアし、最低賃金を払わないと加盟できない、というアイデアを聞きましたが、とてもおもしろいと思います。
都市型ショップなどでも、こうしたマインドが最近は感じられます。
つまり、ケアがいいとかガイドの腕がいいとか言ってないで、社会に貢献しているところだけ残れってことです。
理念を共有するブランディング
ここまでは、レッドオーシャン前提の話なので、“制限”、“参入障壁を高くする”という、受け止め方によってはネガティブにも聞こえる話でしたが、その中で新しいマーケット作りに成功している(ように見える)例をご紹介します。
それは、“理念を共有するブランディング”の成功モデルケースの“ガイド会”。
加盟できるガイドは1つのエリアに1ガイドと制限し、加盟条件には写真やガイディングの一定基準をもうけ、推薦を必要とし、会としてクオリティを維持。
外からはわかりづらいガイドの価値のブランディングに成功しているように見えます。
ただ制限するのではなく、そこには理念があり、クオリティー維持の機能があるので美しい着地点に見えます。
カメラを持ってどこかの海へ行くとき、お店がいっぱいあってよくわからないとなれば、「とりあえず、ガイド会の店に行っときゃ大丈夫だろう」と思いますからね。
以前のインタビューなんかを読み直すと、そこまで俯瞰したマーケティングを考えているというより、熱いガイドという職業に対する思いから結成されている印象を受けますが、個人的には、マーケティング的には敷居は下げない方がよく、下げるのであれば、ガイド業全体を代表するような組織になって欲しいと期待していたりします。
先述した御蔵島ドルフィンの制限も、自由競争との兼ね合いが微妙ですが、御蔵島観光協会のアカデミズムによって、「イルカとの共存」「イルカを守る」が単なる制限のための言い訳を超えて、理念に昇華し、説得力あるものになっているので是だと思います。
ブルーオーシャンを生みだせないまでも、価値を見いだし、理念を共有し、レッドオーシャンの中に、緑茂る美しい小島を作っていく発想がひとつの打開策かもしれません。
まあ、あとは猫も杓子ものインバウンドをどうとらえるか……(これはこれで大きなテーマで、自分も絡んでいるのでいずれ……)。
ちなみに、自分たちが個人向けのバディ(セルフ)ダイビングを推奨し、仕組みを作ったのも(Buddydive)、上記のようなマーケット的な掘り起こしが、ひとつの理由になっています。
※
というか、社会学部でただダイビングをしていただけの自分があーだこーだ言っても仕方ないので、経済やマーケティング専門の方、教えてくださいよ、本当に……。
それにしても、自分も若い時は「自由競争だろ! 組合とか知らん!」って思っていたはずが、なんだか、コメの保護政策みたいな話をしちゃって、ジジイになったな~としみじみ(笑)。