オニダルマオコゼ 大事なのは予防と対応

話題になったオニダルマオコゼの死亡事故のニュース

ダイビング歴50年を超えるダイビング界のパイオニア。
そして、ダイビング事故撲滅をライフワークとする《潜酔亭》の慶松亮二氏に
今回のオニダルマオコゼ事故について「予防と対応」というテーマで寄稿いただいた。
※詳しいプロフィールは末尾
※本文の強調の赤字は編集部

大事なことは予防と対応(毒の除去と失効)
海洋刺毒生物について1970年代前半に調べ、
また実験した経験があるので記憶をたどってみます。

ほとんどの刺毒魚の刺毒は多くの芳香性アミノ酸を含む蛋白毒です。
従って複数回の刺傷によって取り込まれた毒に対する抗体ができ(蛋白毒の特徴)、
その後の受傷時にアナフィラキシーショックを発現する可能性があります。

しかし、死因をアナフィラキシーショックだけの様に思ってしまう、
つまりそのことから毒そのものへの警戒感が薄れることを危惧します。

僕が調べたのはハナミノカサゴ、クラゲ(カツオノエボシ)、ハオコゼ、アカエイでしたが、
文献や実験からの結果ではカサゴ、オコゼ類、エイ族などの海洋性刺毒魚の毒は
種々の混成毒ではありますが共通部分が多く、
実際の現場では個々の毒の違いを気にするより毒の除去と失効を心がけ、
また毒の廻りを遅くする手段を講じて医師に引き継ぐことが肝要
です。

オコゼに刺されたら熱い湯(低温やけどに注意)が有効
オコゼ類ほか多くの刺毒魚の粗毒は熱に対して不安定であり、
アカエイ/ハナミノカサゴではどちらも60℃/数分で失活しています。
50度以下では失活に時間が掛かり過ぎるため55℃以上の熱い湯を使えば(低温やけどに注意)
15分程度で失活します。(これはクラゲ毒も同じ)

文献によれば、オニダルマオコゼの毒の分子量は150,000、
PH4程度で直ちに失効すると言われることからワインやビールも有効かもしれません。
(実験はしていません)

ハブの○○倍という報道について
蛇毒の成分の多くは蛋白質です。
精細な毒の成分については専門書にやって確認してください。
ここでは作用の異なる毒について簡単に述べます。

■血液毒(または壊死毒):器質的障害因子
出血(毛細血管壁破壊)、溶血(赤血球崩壊)、凝固(血栓)、凝固阻害(不完全凝固)、
壊死(組織や細胞の部分的死)などを起こす成分はそれぞれ異なるものと考えられるが
実際には同じ粗毒の中に存在する。

■神経毒:機能的障害
前シナプス型と後シナプス型の神経毒素(詳しい説明は省く)、
その他中枢神経に作用するものや心筋に作用するもの、
痛みや血圧の低下などを起こすヒスタミンなどを分泌させる成分

このように一口に蛇毒といっても多岐にわたる作用別の成分が複合しており、
また蛇の種類によって粗毒の構成や種類が異なります。
(毒の熱処理に関する研究については、僕は知りません。)

生物による毒の強さは、
成分の差(化学反応の強弱と反応の速度)によるものと毒量によるものがあると考えられ、
異なる毒間の強弱はあまり意味がなく感覚的なものであるといえます。

そういう意味から、蛇毒とオコゼの毒を何倍と言う比較は
「オコゼの毒は強いぞ!」と言う警告以外の意味はないでしょう。

蛇より強い毒のオコゼがアナフィラキシーでのみ死亡するかのような
記述も多少違和感を感じてしまうのは僕だけでしょうか?

重症と軽症を分けるものは?
さて、刺毒魚の中で死亡例が見られるものとして、
ウンバチクラゲやエイ類、ストーンフィッシュ(オニダルマオコゼ)等があげられます。
これらはどれも毒量が多く受傷範囲が深い/広いと言う特徴を持っています。
ハオコゼの毒も十分に強いのですが毒量(毒棘が短く細い)の点で
オニダルマオコゼに敵わないのでしょう。

つまり軽症/重症の差は……

■軽症/運良く少量の毒ですんだ、又は運良く受傷部位が循環や主要臓器から遠かった。
■重症/運悪く毒量が多かった、又は受傷部位が悪かった。

したがって今回の受傷者は、前回2回は運がよく、今回は運が悪かった
しかも(受傷位置は足裏ですから)毒量が多かった?と考えられます。

常に警戒と予防を心がける
オコゼの刺棘は背中に12本(もしかして13本?)、
他に胸鰭に左右各1本、(他にあったかどうかは忘れた)です。
過去事例で多いのは足裏に2本〜4本程度の刺し傷があるものと記憶していますが、
縦方向に魚を踏みつけると12本(13本?)の毒棘が
全部刺さる可能性があります
(毒量が多くなる)。

万一そのようなことが起これば、オコゼの毒には明瞭な致死因子が含まれますから、
アナフィラキシーショックと言わず、
1回目の受傷と言えども命にかかわることになるわけです。

つまり、過去に踏んだことがないから死なない…などとは考えないほうが良いし、
「講習でもそんなことを言ってはいけない!」と考えるのですがいかがでしょう?

そもそも、毒の作用そのものに呼吸筋の麻痺などが考えられるのですから
アナフィラキシーとの見分けは特に現場ではほとんど不可能です。
アナフィラキシーの可能性を排除せず、
しかし毒そのものによる重大事故も想定した対処が必要です。

気をつけるだけでなく対策を!
そこでフェルト底の靴やブーツですが、
小生が南方での工事の際に実際にやった方法は、
釣具屋で渓流シューズの張り替えようフェルトを購入してブーツに貼り付ける。
作業は至極簡単です。
ブーツ底をサンドペーパーで削り、ボンドで圧着するだけです。

ダイビングブーツを履く
ダイビングブーツは棘が刺さることの予防には全く役に立たず、
ほとんどのフィンも棘を通す可能性があります。
しかし、これらのゴム製品を突き通して刺さった棘は、
毒供給の構造から考えて相当程度に毒を擦り取られて毒の量が少なくなると思われます。
ですから受傷対策にはならなくても、毒に対する多少の防御には有効だと思われます。

ぜひ、裸足はやめて3㎜で

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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