有名無実のバディの責任!?

ダイビング関係の会合で、バディ・システムが話題になりました。
その有用性は誰もが認めているのですが、
では、「バディの責任ってどういうものなのだろうか?」って、
あまりどこにも書かれていないことに、今さらながらヤドカリ爺も気がついたのであります。

もちろん、バディシステムを守ればダイビングがより安全に、
したがってより楽しいものになるとは、ビギナーテキストにも書いてあります。

そうは言っても、ダイビングボートに当日乗り合わせた、
初対面のダイバーがダイビングパートナーになるワケで、
気心も技量のレベルも知れぬパートナーの安全責任といわれても、
やや荷が重いと思うのも率直な気持ちでしょう。

ヤドカリ爺も、ずいぶん昔、かのグレートバリアリーフのボートツアーに参加したときに、
バディについて考えさせられる経験をしました。

このときはあくまでも、お客さんであります。
ところが、そのナイトダイブで、ボートのダイブマスター
(日本と違って、ダイブマスターの権限はズーット強うございます)が
指名したパートナーは80歳近い年齢でありました。

ヤドカリ爺も今でこそその年齢に近づいておりますが、さすがギョットしました。
もちろん元気なお年寄りダイバーはいくらでもおられますが、
このお方、水面ではほとんどフィンキックをしない、あるいはしてもほとんど進まない。
結果、引っ張って泳ぐ、ボートに上がるのに、すべての器材を外してやるのもヤドカリ爺の仕事、
といった手間のかかる御仁でした。

おいおい、そこまでやらにゃいかんのかい。
もしものとき責任はどうなるのかと、さすがに思いました。
正直申し上げて、かなり安全レベルはネガティブな状況でありました。

とまー、これは極端なケースですが、
パートナーの責任って、バディシステムが前提にダイビングが組み立てられている以上、
どうしても避けて通れない問題であります。

最近はガイドの責任が問われるケースが話題になりますが、
はっきり言ってバディが負うべき責任を、どうもガイドに転嫁されているようにも見えますな。

そんなときの知恵袋は、アメリカ海軍のダイビングマニュアルであります。
ずばりバディの責任という項目があるのですな。それを引用してみましょうな。

「アメリカ海軍のバディの責任」
U.S.Navy Manual Revision6 Volume 2 7-7.6

バディの責任。
“アメリカ海軍のスクーバ活動におけるもっともシンプルで最大の安全行動慣習はバディシステムである。
チーム行動中のパートナーは、指示された作戦目的とチームのパート-の安全の両方に責任を負う”

このバディダイビングの基本ルールは以下のとおりである。

■パートナーと常に接触を保つこと。視界がよいときには、パートナーを視野に入れておく。
視界が悪いときはバディラインを使用する。
■ハンドシグナル、ラインシグナルの意味を知っておくこと。
シグナルが送られてきたときには、そのシグナルにただちに従うこと。
シグナルにパートナーが反応しないときは、直ちに緊急事態と考えること。
■ダイブパートナーの行動と様子を監視すること。ダイビング障害の症状を知ること。
ダイブパートナーに不調や異常な行動が見られるときは、
ただちにその原因を判断し、適切な対応をすること。
■水中拘束などで、支援を得なければ解放できないときを除いて、
パートナーを離れてはならない。
水面からの支援を求めに行くときは、事故ダイバーの位置をライン、
フロートなどの標識具で明示すること。
音声連絡、ラインシグナルを使用しているときは、
水面との連絡を保ち、支援を待ち、指示を受けること。
■すべてのダイブで、ロストダイバー対応プランを用意すること。
パートナーとのコンタクトが絶たれたときは、対応プランに従う。
■チームのいずれかが ダイビングを中止したときは、どのような理由であっても、
他のダイバーはも中止し、2人とも水面に浮上すること。
■正しいバディブリージングの方法を知ること。

ずばり最大の安全行動慣習と言い切っております。
さらに、全体にああしろ、こうしろというよりも、
バディチームとしてのが心構えを書いてあるわけですが、特にパートナーにシグナルを送って、
すぐに反応がないときには、緊急事態と考えろという項目は、すごい。

パートナーの反応がないときには、仮にそれが相手がシグナルを見過ごしただけでも、
つまり一瞬でも意思が伝わらないときがあれば緊急事態と考えてアシストしろというわけです。
この緊張感という、一体行動感は半端じゃありません。

もう1つ水中拘束などのトラブルのときでも、基本的には離れてはならない。
という項目も、最大のサポーターははバディであるという姿勢が強調されているようです。

どこかのレクダイバー・チームのよく聞く嘆き、
“あいつ写真ばかり撮っていて、ちっとも一緒に行動してくれない”といったのとは、
いかに海軍さんとはいえ、だいぶ違います。

しかしながら、“行動目的とパートナーの安全の両方に責任がある”とずばり。
このひと言。われらレクリエーションダイバーにも、まさに至言。

そうです。バディはパートナーの安全に責任がある事を思い出せば、
ダイビングは遊び気分では、カバー仕切れない遊びなのでありますな。
今さらながらヤドカリ爺も反省であります。

ぜひダイビング前のブリーフィングのたびに、
このUS NAVYのバディシステムへの心構えぜひ入れておいていただきたいものです。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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