とあるダイバーの恋バナ
ダイビングを始めてかれこれ100本。
だいぶ自信がついたので、そろそろダイビングショップを離れて一人で潜ってみようと、
今年のはじめにダイビング旅行でグアムへ。
ダイビングサービスに行くと、僕の他にゲストは2人。
一人は小太りのおじさんで、もう一人は目のぱっちりした堀北真希に似たYちゃん。
これからの1日を想像すると高揚した。
もちろん、海よりもましてやおじさんであるはずもなく、Yちゃんの存在がそうさせている。
船上に乗り込むと、おじさんがやたらとYちゃんに話しかけている。
「私もグアムにはよく来るんですよ」「このコンデジの青はいいですよね〜」
Yちゃんも楽しそうに話している。
「先をこされた……」。心の中で舌打ち。
ポイントに到着。
「潜る準備をしてくださーい」というガイドの声を合図に、
YちゃんがTシャツを脱ぎ捨てる。二度見。そして、ガン見。
南国に似つかわしくない透き通るような白い肌と
幼い顔立ちに似つかわしくないゴージャスな胸。
眩しいのは南国の強烈な日射しのせいではない。
その後のダイビングのことはあまり覚えていない。
気づけば、いつもYちゃんを目で追っていた。
潜ることに精一杯だったころの自分を思えば、
それはそれでスキルアップした証とも言えるのだろうか。
※
夜、ダイビングサービス主催のお食事会にやって来たYちゃんは、ワンピースに薄化粧。
すっぴんの海であれほどの美貌を誇るYちゃん。
女としての演出を加えれば無敵。惚れてまうやろ〜というか惚れました。はい。
お酒も入って場が打ち解けてくると、Yちゃんとも自然に話せるように。
海のこと、仕事のこと、趣味のこと……いろいろ話すうちに、
同世代ということもありすっかり意気投合。Yちゃん、性格も良い。
そして、なんと向こうから「連絡先を交換しましょう」と。ダイバーで良かった!
次の日は船上でも会話が弾み、親密度は増す。
夜の食事会でもさらに話は盛り上がり、向こうの好意も感じられるまでになったが、
残念ながらYちゃんは翌日帰国。
ホテルへの送迎の車内では、おじさんがいたこともあり、
「この後、二人で飲みませんか」の一言が言えず、彼女が車から降りるときに、
「帰ったら連絡しますね」と言うのが精一杯。
翌日もダイビングだったが、おじさんとの二人きりのダイビングは、
何とも味気ないもので……。
※
帰国後、僕はYちゃんと東京で会っていた。
メールを何度かやり取りし、「会いましょう」となり、
彼女はわざわざ千葉からやってきてくれたのだ。
映画を見て、必死に検索して見つけたイタリアンの名店で食事。
共通の趣味があるので会話には困らないが、
ダイバーとして先輩の彼女のほうがよくダイビングを知っていることが、
ちょっぴり悔しい。
やがて、彼女が「A君、彼女いないの?」と聞くので「いないよ」と答えると、
「え〜、A君モテそうなのに」と彼女。脈ありじゃなかろうか。
ナイスバディの堀北真希がこの手に入るのじゃなかろうか。
※
その後も何度かデートを重ねるも、
勇気を出せず、手をつなぐまでが精一杯。告白もできず。
俺ってば、もう30だというのに。
そこで、意を決して彼女を誘う。
「今度、僕らが出会ったグアムの海に一緒に行かない?」
彼女は、一瞬驚きの表情を見せた後、破顔して「うん。行きたい行きたい」。
間違いなく、グアムでナイスバディの堀北真希がこの手に入る。
これはすごいことになってきたぞ。人生って素晴らしい。
平日が休みだという彼女のスケジュールに合わせて、
会社に頭を下げて何とか時期はずれの有給を取り、
チケットも宿もダイビングサービスも予約し、準備は万端。
彼女もすべての手配を済ませようで、あとは成田で合流するだけ。
脈打つ鼓動。脈打つ下半……ゴホン。焦りは禁物。
告白のシチュエーションも抜かりなく考えた。
※
当日、グアム行きの飛行機の中で不安に包まれる僕がいた。
チェックインカウンター前、待ち合わせ場所に彼女は来なかった。
ひょっとしたら、チェックインを済ませて搭乗口に先に行ったのかもしれない。
しかし、搭乗口にも彼女はいない。電話にも出ない。
やがて搭乗時間になり、ギリギリまで待つも来ないので、
仕方なく一人で乗り込む。ひょっとしたら先に乗っているのかもしれない。
もしくは、時間を間違えたのかもしれないし、そもそも便が違ったのかも。
現地に到着し、迎えにきてくれがガイドさんにYちゃんのことを聞くと、
「もともと予約は入っていないけど……」。
わけがわからない。頭の中が混乱。海じゃないのにパニックダイバー。
予定を合わせて一緒にグアムへ行く計画をしていたのは幻だったのだろうか。
結局、彼女が来ないまま、3日間グアムでダイビング。
気持ちを表すように、曇天模様の空と鈍色の海。
ゲストは自分一人。「船独り占めでラッキーですね〜」とガイド。ほっといてくれ。
彼女とともに、今年唯一の有給休暇がグアムの海に泡となって消えた……。
※
帰国後、彼女とは連絡が取れなくなり。未だに彼女の行動は謎。
ひょっとしたら事件や事故に巻き込まれたのかもしれない。
Yちゃん、もしこれを読んでいたら連絡ください。
以上、取材した事実を元に、彼の声を代弁してみました。
※場所やシチュエーションなど一部事実と変えています。
■ダイビングとは出会い。
出会いをテーマにした小説「シューボコ」もよろしくお願いします!
「タイ湾のサワディ倶楽部」
http://diving-commu.jp/boco/item_5969.html
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http://diving-commu.jp/divingspirit/item_5947.html
皆さまのご厚意により、徐々にBCやレギュレーターなど器材が集まっています。
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ぜひ、よろしくお願いします。
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