人の命を預ける

ダイビング業界で使われる言葉で、
あまり好きではない言葉がある。
それは、
人の命を預かる
これはよくリーダーシップレベルで聞く言葉だが、
これを聞くと鼻白む思いがする。


その職責の重さを表現する意味だと理解できるのだが、
いささか精神論的で傲慢な気がしてしまう。
アルコール度が高い言葉だと思う。
つまり、酔っ払いやすい言葉だ。
これを真顔で言えば気持ちいいし、
この言葉を表明するだけで、
まっとうなイントラな気がしてしまう危ない言葉だと思う。
正論と精神論と命の話は、
アルコール度が高いから警戒が必要だ。
僕がこの言葉を初めて聞いたのは、
体育会系のダイビングクラブに所属していたとき。
先輩に「俺らはお前らの命を預かっているんだ」と言われた。
率直に「預けてたまるか」と思った。
だって、“命の次に大事な〜”というぐらいだから、
命が一番大事なわけで、その命を他人に預けるほどバカではない。と思った。
イントラと話していても「命を預かる」という言葉はよく出てくるが、
果たしてゲストは命を預けるつもりで
ダイビングに参加しているのだろうか。
イントラの思いが本当だとしたら、
ゲストの思いとの乖離は大きい。
それに、そこまで真剣には考えておらず、
ただその言葉に酔っ払っているだけでは?という邪推をしてしまう。
ゲストのリスクを最小限に抑える、
最大限の努力をする。

これではいけないのだろうか。
これこそイントラの職責だと思うのだが。
僕はゲストの命を預かる気はない。
そんな立派な人間ではないし、
インストラクターが命を預かるような大層な存在だとも思わない。
しかし、ゲストのリスクを最小限に抑える努力は
惜しまないつもりだ。
そして、ゲストにもリスクは知ってもらうし、
負ってももらう。その努力もする。
命を預かるという言葉はヤクザだ。
預かっている人がトラブルに巻き込まれたとき、
自らを犠牲にしてでも助けるという意味が込められている。
これは医師の犠牲的精神とはまったく違う。
死んででもお前を助けるという杯の話だ。
イントラが内なる思いで、
それぐらいの覚悟をしてもいいかもしれないが、
少なくともコースディレクターがイントラに
そんなことを刷り込んでいいのかは疑問だ。
そんなヤクザな職業でいいと思っているのだろうか。
冷静な対処法と二次的事故の防止を教えた方が
得策ではなかろうか。
職業柄、言葉にこだわりすぎているのかもしれない。
あまり深い意味はないのかもしれないが、
深い意味がないのなら逆に使わないでほしいとも思う。
“命を預かる”という言葉には
どうしても拒否反応が起きてしまうのだ。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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