2020年の潜水事故の傾向と考察 ~潜水救急ネットワーク沖縄 潜水事故集計より~

新型コロナウイルス感染症の全世界的な蔓延により、国内外のダイビングエリアに多大な影響が及ぼされた2020年。ダイビングや旅行を自粛せざると得なかった一年だったが、潜水事故の発生件数は2019年と比較して、意外にも増加しているという驚きの結果が。

潜水事故の集計を行い、情報発信をしている「国際潜水教育科学研究所 潜水救急ネットワーク沖縄」から発表されたデータをもとに、2020年の潜水事故の傾向、そしてこれから事故を防いでいくためのポイントを考察していきたい。

2020年は2019年の56件より多い
60件の潜水事故が発生している


2020(令和2)年の潜水事故集計が「国際潜水教育科学研究所 潜水救急ネットワーク沖縄」から発表された。これは2020年1月1日から12月末日に起きた潜水事故(日本国内外、日本人対象)の情報を集計したもので、ジャンル別にデータがまとめられている。

事故件数は多い順に、スキューバダイビング(レジャー)26件、シュノーケリング(素潜り、スキンダイビング)19件、水産関係(素潜り漁、海女さん、スキューバおよびフーカー潜水)13件、潜水作業1件、公務(水難救助隊、救難隊)1件の計60件。

新型コロナウイルス感染症の影響で国内外の旅行が制限されているため、2019年の56件より減少するかと思われたが、4件ほど増加している。

2019年との発生件数を比較してみると、シュノーケリング関係は20件から19件、スキューバダイビング(レジャー)関係は26件と同数だったが、水産関係の事故は8件から13件と2倍近く倍増。2020年10月26日には、20代、40代の2名の漁師さんがフーカー潜水で同時に亡くなるという痛ましい事故が起きている。

なお事故の発生地を見てみると、スキューバダイビング(レジャー)の事故26件のうち10件が沖縄県、7件が静岡県と、沖縄・伊豆半島といったダイバーに人気のエリアでの事故が当然のことではあるが、多くなっている。

2020年潜水事故集計データ(PDF)

2020年潜水事故発生件数の内訳

スキューバダイビングでは
インストラクターやガイドの
管理能力不足と思われる事故が増加

ではジャンル別に事故の状況を見てみよう。まずスキューバダイビングの事故は27件で(レジャー26件、リブリーザー1件)、うち死亡者数は18人、入院者数は6人、救助・搬送3件(11人)。事故状況別に見ると、①ガイド管理(17件)、②セルフダイビング(3件)、③講習(2件)、④ガイド自身(2件)、⑤単独潜水(2件)、⑥船舶火災(1件)との結果が。

1の「ガイド管理」で発生した事故例は、2019年は12件(死亡者数5人)だったが、2020年は17件(死亡者数11人)と死者数に関しては2倍以上に増加している。
「国際潜水教育科学研究所 潜水救急ネットワーク沖縄」代表で、このデータの集計・分析を行っている村田幸雄氏によれば、ゲストダイバー自身の体調の問題で病死の疑いが強い場合もあるが、それ以上に「ガイドやインストラクターの水中でのゲストダイバーへの監視対応の不備が目立つ」とのこと。

水中でゲストを見失う水中ロストや、気象海象の判断ミス等も指摘されている。またインストラクターやガイドダイバーのグループコントロール能力、水中監視能力が低いのではないか?と思われる事故もあり、今後さらに事故を未然に防ぐための知識やスキルの向上が不可欠だといえるだろう。

ダイバー自身の体調管理も
シニアダイバーは特に重要

インストラクターやガイドの管理能力の向上はもちろんだが、レジャーダイバー一人ひとりの意識の向上も欠かせない。特に最近はシニアダイバーがアクティブに活動していて、ダイバーの高齢化が進んでいるといわれている。
スキューバダイビングの事故データを見てみると、年齢が判明している23件のうち半数以上の13件が50代以上のダイバーとなっている。気になるのが、特に50代が9名と最多であること。体力が低下したり、持病がある方が増えてくる年代だけに、今までと同じように潜れると自分の体力やスキルを過信せずに、しっかり体調管理をしていく必要がある年代だといえるかもしれない。なお持病がある方などが、虚偽の健康状態を申請することも少なからずあるようだ。これも事故につながる可能性があるので、絶対にしないように徹底する必要がある。

そしてダイバーを受け入れる側のインストラクターやガイドも、個々のゲストの健康状態や体力をよく把握して、安全な潜水計画を立てることが欠かせない。水中でも残圧管理や体力面で負荷がかかりすぎていないかなどをチェックして、きめ細かな安全確認をしながら潜るようにすることで、事故は防いでいけるのではないだろうか。

2020年スキューバダイビング事故者の年齢内訳

シュノーケリングの事故は
2019年とほぼ同数起こっている

次にシュノーケリング関係の事故データを見てみよう。事故は19件発生していて、死亡者が18人、行方不明が1人となっている。事故原因別には、①離岸流(リーフカレント)、強い流れ(4件)、②浮力帯なし(4件)、③密漁(4件)が同数で、⑤ガイド管理(1件)、⑥飲酒(1件)と続く。また詳細不明の事故が5件となっている。

シュノーケリング事故原因の分析

シュノーケリングの事故原因で特に目立ったのが、レジャーとは無関係の「密漁行為」中の事故が増えていること。静岡県で4件発生しているが、いずれも死亡や行方不明という結果になっている。夜間にシュノーケリングや素潜りで潜り、貝や甲殻類などを捕る「密漁行為」は違法行為であって、事故の危険も伴うことをしっかり周知して、少しでもこういった行為が減るようにしていく必要がある。

浮力帯(ライフジャケットやスーツ)未着用が原因の事故は、装着していたら助かっていたはず。器材の正しい使い方などを啓蒙するリーフレットが配布されたりして、「シュノーケリングには浮力帯が必要」と認識している方も増えてきている一方、「自分だけは溺れない」と過信している人も多いようだ。改めてシュノーケリング器材の取り扱い方、スキルの基本を啓蒙していく必要性を感じる結果となった。

離岸流(リーフカレント)、強い流れについては、地元側では海岸線に立て看板を設置して、注意を呼び掛け、また季節によっては、警察や海上保安部がパトロールを行っている。観光客に対しても、ホテルや空港、港などで安全啓発のリーフレットを配布しているが、事故は起こってしまっている現状が。離岸流の危険性を、よりわかりやすく訴えていくべきだろう。

潜水事故を防ぐ、安全に海を楽しむための
ルールを今一度、徹底することが大切

2020年の事故報告を受けて、今一度、安全に海を楽しむためにスキューバダイビング、シュノーケリングで心がけておきたいルールをおさらいしておこう。

1.スキューバはもちろん、シュノーケリングもバディが基本

スキューバダイビングの基本はバディダイビング。シュノーケリングもバディで行うようにして、スキルに自信がない場合や、初めて訪れる場所ではシュノーケリングのインストラクターやガイドと一緒に楽しむようにしたほうが安全だろう。

2.日頃から体調管理を万全にして、決して無理はしない

シニアダイバーはもちろん、若いダイバーも疲労が溜まっていたり、無理なダイビング計画を立てたりしてしまうと、事故に遭遇する危険性が高まる。健康診断を定期的に受ける、日頃から運動の習慣をつける、コンディションが悪いときは無理に潜らないなどの、基本的なことをしっかり実践していこう。

3.その海に精通した経験豊富な信頼できるガイドと潜る

そのダイビングエリアの海に対して十分な知識があり、安全ダイビングへの取り組みをしっかり行っているダイビングサービスやショップを選ぶようにしよう。

4.新型コロナウイルス感染症に罹患した場合は、専門知識のある医師に相談を

村田幸雄氏はレポートの中で「新型コロナウイルス感染症に罹患した後に回復したダイバーやダイバー予備軍がダイビングの現場に復帰、あるいは体験ダイビングや講習を受けに来ることが予測される。ダイバーへの新型コロナウイルス感染症の後遺障害についての調査研究が欧米では盛んに始まっているが、日本では海外の資料の翻訳情報を流す程度となっている。実際に現場での混乱に拍車がかかるのではないかと思う」と述べている。
コロナにかかって回復した後は、ダイバーの体に詳しい医師にダイビングを再開していいか、気をつけることはどんなことか?などをしっかり確認してから復帰するようにしよう。

2021年は、少しでもダイビング関連の事故が減ることを願いたい。そのためにもより一層、安全ダイビングを心がけて、海を楽しんでいただければと思う。

情報提供:国際潜水教育科学研究所 潜水救急ネットワーク
代表:村田幸雄氏

PROFILE
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