女性洞窟ダイバーが見る魅惑の世界。波瀾万丈な生涯を描いたノンフィクション書籍

南極の氷山の下、ユカタン半島の地下の空洞、ケイマン諸島の小さな泥沼。そこに広がっているのは、酸素も光も届かず、人間の侵入を拒む空間、水中洞窟だ。頭上が閉鎖され緊急浮上ができず、かつ光が届かない暗闇で方向感覚が失われるような、死と隣り合わせの危険な水中冒険。そこに挑む女性洞窟ダイバーの先駆者であるジル・ハイナースが自身の生涯をスリリングに描いた一冊が販売中だ。

洞窟ダイビングに命懸けで挑む女性ダイバーの物語

洞窟ダイビング(ケーブダイビング)は、鍾乳洞や溶岩洞窟、地底湖など天井がある環境で潜るダイビングを指し、専門的な器材や技術、知識が必要となる高度なテクニカルダイビングの一種である。ダイビングの中でも最も危険で究極のダイビングとされているが、その危険とは裏腹に世界中の洞窟ダイバーを魅了している理由がある。普段私たちが潜る開放的で穏やかなダイビングエリアとは全くの別世界がそこには広がる。大地の裏側に広がる宇宙とでも例えられるだろうか。

「イントゥ・ザ・プラネット―ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅―」は、そんな魅惑の世界を私たちに届けてくれる一冊だ。

洞窟ダイバーで水中探検家、作家、写真家、映画監督という多彩な才能をもつ著者ジル・ハイナースが自身の生涯を描いたその物語には、幼少期や学生時代についての波瀾万丈な人生も描かれているが、特に注目すべきは洞窟ダイビングを始める転機となった20代後半のエピソードだ。

当時ジル氏は、仕事に明け暮れるだけの日々に疲れ果て、幸せを見いだせずにいた。そんな中、ふと人生に大切な何かが欠けていると気づいたとき、子どもの頃から興味を抱かずにはいられなかった水の世界に戻ることで、自分を取り戻すことができたような気がしたそうだ。しかしただの水の世界ではない。水中に存在する洞窟の内部を潜るという究極の探検の世界だったのだ。そこから、まったく未知の世界とされていた水中洞窟での数々の命がけの冒険が始まった。

洞窟では、水底にある粘土が舞い上がり、視界が全く無くなった状態で酸素ボンベの容量が減っていく。減圧症になり身体中がビリビリと痛くなったり、命綱が切れたりしたこともある。経験豊富なプロのダイバーであっても、わずかな気の緩みで命を落とす危険なダイビング。そこには一体どんな世界が広がっているのだろうか。

また、ダイビングを通して多くを経験したジル氏が感じたヒューマンストリーも描かれている。裏切り、友人の死、愛する人との別れ、挫折、そして新たな出会い。どんなに業績を上げたとしても完全な男社会のケーブダイビングという世界では、女性というだけでそれを認めてもらえない苦しみ。まさに波瀾万丈な人生だ。

タイトルにもあるように「ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟」が、ジル氏の目にはどのように写り、洞窟ダイビングに対してどのような想いを抱き、臨んでいるのか。本書を通して、垣間観てみてはいかがだろうか。

イントゥ・ザ・プラネット―ありえないほど美しく、とてつもなく恐ろしい水中洞窟への旅―

ジル・ハイナース/著 、村井理子/訳
定価:2,420円(税込)
発売日:発売中
電子書籍 配信開始日:発売中
ジャンル:ノンフィクション
購入はこちら(新潮社WEBサイト)

ジル・ハイナース(Heinerth,Jill)

洞窟探検家、水中探検家、作家、写真家、映画監督として活躍。ナショナルジオグラフィック・チャンネル、BBCなどのテレビシリーズにも出演すると同時に、ジェームズ・キャメロン監督などの映画の技術指導も務める。フロリダとカナダを行き来しながら活動している。ジル氏本人のインスタグラムには、実際にどのような器材で洞窟に潜っているのかわかる写真もアップされている。

村井理子(ムライ・リコ)

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)ほか。訳書に『エデュケーション』(タラ・ウェストーバ一著、早川書房)、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン著、きこ書房)、『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(共にトーマス・トウェイツ著、新潮社)、『黄金州の殺人鬼』(ミシェル・マクナマラ著、亜紀書房)、『捕食者』(モーリーン・キャラハン著、亜紀書房)ほか多数。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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