夏だ!マンタだ!新艇だ! 「サンゴを守りたい」石垣島のダイビングショップのNEWボートに凝らされた工夫とは?
梅雨が明け、夏本番を迎えようとしている沖縄。そろそろ今年はガッツリ潜りに行きたいな〜なんて方もいらっしゃるのでは? Ocean+αでも沖縄の情報をもっと出していきたいよね〜なんて話していたところ、人気のダイビングエリアである石垣島でダイビングショップや宿を営むWAKE UP CALL の兼本光恵さん(以下、光恵さん)から「新しいダイビングボートが完成しました」と連絡が。しかも「環境配慮や、クラシファイド(障がい者)対応もできる船なんです!」とのこと。一体どんな船なんだ? ということで、早速取材に伺ってみた。ツアー全体のレポートを通して、石垣島の海、新艇「心丸Ⅱ」の魅力をお伝えできたらと思う。
石垣島で1、2を争うスピードが出る新艇で竹富島の海中温泉ポイントへ
取材当日は石垣島に朝8時に到着。空港からバスに乗り、9時に港近くのターミナルで光恵さんと合流。そのまま船に向かうと思いきや、この日は沖縄の伝統行事であるハーリー※のプレイベントがあるとのことで、ゲストの方々とみんなで近くの港に観戦しに。
※ハーリー:航海の安全や豊漁を祈願し、サバニと呼ばれる伝統漁船で競漕を行う行事
初めて目にするハーリーの迫力に圧倒! 「は〜、楽しかった」と時計を見ると、もうすぐ11時。これからダイビング3本って、帰りは一体何時になるんだろう?
しかし、その心配はすぐにかき消された。新しいボート、とにかく速い。それもそのはず、HONDAの船外機の中でも2番目のハイパワー、225馬力のエンジンが2つもついている。
石垣島の南端あたりから竹富島の東まで10分程度で到着。西表島「野原」までも30分程度で着けるという、高速船並みの速さ。船にあまり強くない私にとって、船の移動時間が短いのはとても嬉しい…。
そして1本目は海底温泉。水深18mあたりの海底から泡が出ていて、近寄ると確かに温かい。
水温は28度近くあったが、湧き出てくる温泉はやっぱりもっと温かい。ついつい長居しそうに。
船上で手作りランチをいただきマンタポイントへ
一本目が終わるともう12時になろうとしている。そのままそこに船を停泊し、ランチの時間。なんと毎日光恵さんがランチを手作りしているそう。
「せっかく石垣島に遊びにきているのだから、海も陸も全体を通して癒されて欲しいんです」という光恵さん。さらに「ランチはリユースできる食器で提供しています。このスタイルを20年以上続けているので、ごみの量もかなり減らせていると思います」とのこと。
石垣島の人気ポイント「マンタシティー」で7マンタ!
大満足のランチを終え、マンタが現れる石崎というエリアへ。このエリアにはマンタがクリーニングをしにやってくるそうで、人気のポイントとなっている。そのため、多くの船が集まるが、WAKE UP CALLも加盟している八重山ダイビング協会ではマンタに負担をかけないように、一度に停められる船の数を5隻までとし、ダイビング中のルールをきちんと定めている。
エントリーして5分も経たないうちにマンタが現れる。
マンタに近づきすぎないよう岩につかまり、じっくりクリーニング中のマンタを見上げる。止まってクリーニングされていたり、ゆったりと周りを泳いだりしている。最終的に合計7匹のマンタに出会うことができた。これだけ多くのマンタが同時に見られる場所は、国内外の海を見渡してもなかなかないのではないだろうか。
ダイビングのストレスを減らし、さまざまなダイバーへ対応する船
3本のダイビングを終え17時に帰港。船が速いと陸での時間もたっぷり遊べて良いですね〜。
しかし、この心丸Ⅱ、速いだけが売りではない。さまざまなダイバーへ対応しているのだ。
ダイビング前後の負担を減らす、エントリーエキジット
たとえば、タンクのセットやエントリーなどで、ストレスが少なくなるよう工夫がされている。
そしてエキジット。船の右舷と左舷どちらからもボートへ上がれるので、何人かダイバーがいても、渋滞になりづらいのが嬉しい。片方はフィンを履いたままでも上がれる仕様となっている。
フリーダイバーにも使いやすくアップデート中
船尾には、フリーダイバーがロングフィンやモノフィンでもエントリーエキジットしやすい台も。
実は、光恵さん自身も大会に積極的に出場するフリーダイバーで、フリーダイビングのコースも実施している。最近は、飛行機搭乗前でダイビングができない日は、フリーダイビングをするというお客様も増えているんだとか。
車椅子でそのまま乗り込めるデッキ
さらに陸からボートへの乗り口を見ると、とても広くなっている。なぜこれだけ広いスペースを取っているのかというと、車椅子の方がそのままスロープを使って船に乗り込めるようにとのこと。
「子どもが超低体重未熟児で生まれた時、多額の保険を国から支援していただきました。その感謝の気持ちから、私がダイビングでできる恩返しを、と思って障がい者のダイビングを2年間無償で行ってきました。今後も続けていくためには無償でとはいきませんが、少しでも快適に障がい者の方もダイビングできるように、こういった仕様にしました」と光恵さんは言う。
人気エリアのサンゴの回復を目指したマリントイレ
ボートをマンタポイントへ走らせる間、光恵さんはこんな話もしてくれた。「大崎というエリアは人気があって、そこには一日30隻とかすごい数の船が来るんです。水中生物が多くて人気のダイビングエリアなので人が集まるんですけど、他のエリアに比べてサンゴの回復が遅いんです」
石垣島はサンゴが美しいポイントが数多く存在しており、昨年水温が上がり一部のサンゴは死滅してしまったが徐々に回復しつつあるそう。しかし、大崎というエリアは人がたくさん入るのに加え、陸地からの排水の関係でサンゴが回復しづらいのではとのこと。
そこで今回光恵さんは、船のトイレに汚水タンクを設置した。
船のトイレは排泄物がそのまま海に垂れ流されてしまうケースも多く、それが水質汚染に繋がり、サンゴへ悪影響を与えてしまう。特に停泊する船が多いエリアはサンゴへのダメージは大きいのだろう。それを避けるため、心丸Ⅱのマリントイレは排泄物を直接海へ放出するのではなく、停泊中は専用タンクに一時的に溜め、ポイントから離れるためにボートが高速走行に入ると少しずつ排出される仕組みとなっている。少しでも水深のある広いエリアに入ってから放出することで、サンゴなどへの直接的な影響を軽減しようという試みだ。今回、この船のデザイナーも製造チームも光恵さんの想いに賛同し、他の船でも搭載するためのモデル艇になればと、無償で汚水タンクを設置してくれたという。
海中、海岸清掃への活用も
光恵さんは、海中や海岸清掃にも船を活用して行きたいと話す。陸からは行きづらい海岸にも漂着ごみがあることも多く、そういった場所へ船で清掃に行くそうだ。
海中にごみがあることもあり、今回の取材時にも、フリーダイビング中にサンゴに覆いかぶさる大きな漁網が発見され、光恵さんは一度船に戻りスキューバで漁網を取り除く作業を行なっていた。
「アオサンゴの上に被さっていました。そのままにしていると死んでしまうので、早めに撤去できて良かったです。以前もダイバーさん6人で御神崎灯台下でサンゴを覆っていた網を回収しました。みなさん自然と手が動いていました。」と光恵さんは話す。
普段のダイビングでごみを見つけたら拾うのはもちろん、今後イベントとしても実施していくそうだ。
今後もパワーアップ予定の心丸Ⅱでダイビング旅行を楽しもう
4月にできたばかりの新艇・心丸Ⅱで十分に遊ばせてもらい、思わず取材ということを忘れかけるほど楽しんでしまいました。海が楽しいのはもちろん、陸の時間もゆっくり取れて旅全体を満喫できた。
今後は船のトップにドローンステーションを作ったり、フリーダイビング練習用のカウンターを導入したり、ますますパワーアップしていく予定。環境保全活動として、今まで行けなかった陸地まで行って清掃活動も行っていきたいとのこと。次に訪れるときには、どんな姿になっているのか楽しみだ。
- ◎定員:15名
- ◎長さ:37フィート
- ◎速度:〜35ノット(時速約65km)(航行時は25~30ノット)
- ◎設備:温水シャワー、水洗トイレ、車椅子対応、ドローンステーション(予定)、フリーダイビング用カウンター(予定)