“正しい”スキンダイビングを求めて〜石垣島シュノーケリング専門店・青井さんインタビュー【前編】〜
「正しいスキンダイビングとは何かーー」
それを自らに問い続ける1人のスキンダイビングインストラクターが石垣島にいる。
まだ、「スノーケリングショップ」や「スキンダイビングショップ」という名前のお店が石垣島に無かった時代に“タンクを背負わない店”と銘打って、スノーケリング・スキンダイビングに特化したショップをオープンした青井さんだ。
本年度2月には、フリーダイバーの木下さんのBSACスノーケルインストラクター・スキンダイビングインストラクターの講習を受け持ち、個人競技であるフリーダイビングとは畑が違う、スノーケリング・スキンダイビングの講習に苦手意識があった木下さんの「教えたい!」気持ちに火をつけた。
青井さんが開業した当初は、スキューバダイビング産業はどんどん発展していた反面、スノーケリング・スキンダイビングは灯台下暗しでほとんどの人が事業として注目していなかった。
そのため、指導団体のバックアップや協会などの決まり事もなく、いわば“無法地帯”の状態からスタートをきった。
青井さんの歩んだ道を紐解きながら、未だ黎明期と言っていいスキンダイビング界の現在地を探っていこう。
正しいスキンダイビングを求めて
手探り状態からのスタート
青井さん
現在私が運営する「NEO MARINE石垣島」では、シュノーケリングからダイビングまで受け入れていますが、スタート当初は“スキンダイビング専門店”でした。
もともとカヤックの選手をやっていたこともあってか、肉体的な負担が少なく、競技性のないスキューバダイビングよりも、頑張って努力しなきゃうまくならないスキンダイビングの方に興味が湧いたし、競技性の強いスポーツでもあるフリーダイビングの世界が格好いいと思ったんだよね。
ーースポーツ的な側面がより求められるスキンダイビングの方がフィットしたんですね。
青井さん
ただね、そうしてショップを始めてみたものの、当時はまだスキンダイビングを純粋に楽しもうというゲストは、ほとんどいなかった。
一方で、素潜りやスノーケリングというカテゴリーのゲストはそれなりにいたんです。
特に、海水浴の延長で素潜りをして楽しんでいる人たちが中心。そこから、安全とか安心を考え、自分の中で試行錯誤しながら「この形が正解なのかな」とひとまず始めたんです。
あの頃は、お客様から楽しくない、面白くないって言われたなぁ。(苦笑)
そして、オープンして2〜3ヶ月で、“シュノーケリング専門店”に変えました。
ーー最初の一歩は、苦しい段階を経たんですね。
青井さん
スノーケリングのゲストを誘致していく中で、スキューバダイビングと同じ様に魚を見せるガイドをする方向でやってみたんです。すると、フィッシュウォッチングを楽しみたいゲストが入ってきてくれた。
新しくショップを始める若い子にも言いますが、お店って、ゲストが勝手に作るんです。(笑)
お店のカラーによって、どんな人が入ってくるかが決まる。それによって、自ずとお店ができあがるんですね。まずは要望に沿ってやっていって、ゲストがそこそこ入って回る様になってから、自分のやりたいお店づくりが始まります。
僕で言えば、その時点で通ってきてくれたゲストたちにお店の世界観の中で、スキンダイビングの提案をしていくわけです。
ーースノーケリングで集まってきたお客様に対して、スキンダイビングに呼び込む働きかけをされたんですね。
どうでしたか?
青井さん
もちろん、僕のやり方を知っているゲストたちなので、NGなんかはない状態の中で、スキンダイビングを提供できる様になっていきました。
徐々に見えてきた
俺流スキンダイビングの形
ーー「正しいスキンダイビング」というものも見えてきたんでしょうか?
青井さん
当時は、指導団体のハンドブックすらない・・・つまり、ルール自体がまだない状態でした。どの形でやれば正しいか、どんなスキンダイビングを提供していきたいかなどを手探りで探していったんです。
先輩のスキューバダイビングのコースディレクターに相談して怒られたりしながら、ね。
ーー経験を積みながら、情報交換をして正解を探っていったわけですね。
青井さん
そう、様々な方とコミュニケーションを図っていく中で、自分なりの正解が見つかり、俺流スキンダイビングっていうものが、徐々に形になり、当たり前化していきました。
でもね、本当の意味での正解はないんですよ。
だって、ルールがないんですから。
当初、ゲストから様々な要望がありました。
そのゲストの希望は、全部正しいと思うんですね。でも、一方で、全部正しくないとも言える。
ーー全部正しいとは言っても、安全からは軸足をずらすことはできません。
青井さん
スキンダイビングに限った話ではありませんが、私たちアウトフィッターって、水面上に楽しいってことをもってこようとすると、危険な部分は見えにくい水面下にもってくるものなんです。
安全って、目の前に見えないもの。
だから、ガイドさん自身が、どう安全をコントロールするのか考えていないと安全じゃないんです。
そのためにインストラクターやガイドがいるわけなので。
ゲストの価値観が時として安全とは言えないことや一緒に泳ぐメンバーへの配慮のなさとかで、最初はよく揉めましたね。
スノーケリングで集まったゲストを
スキンダイビングに導いていく
青井さん
一番最初にスノーケリングする時って、ドキドキ、ワクワクという気持ちより「大丈夫かなぁ」と心配が先に立つことが多いです。
ーードキドキ、ワクワクすらできない。
青井さん
はい。
そのゲストが1回目で楽しいって思えたら、2回目は「次は何を見せてくれるんだろう」ってドキドキ、ワクワクできますよね。
でも、何回か遊びに来るとマンネリ化してくる。そこで、スキンダイビングを提案していくんですね。
例えば、「水深○mに何々があるから見に行ってみよう」とか「こんな遊び方があるんだよ」など。
実際のところ、スキンダイビングの遊び方にも色々ありますが、息を止めて潜降したら、スキンダイビングと言っていいと思っています。
スイムスキン、シャローウォータースキン、ディープスキン・・・など、全部違うんですね。
泳ぐだけで遊びたい人もいれば、フィッシュウォッチングがしたい人もいるし、写真を撮りたい人もいる。また、深く潜りたい人も集まります。
様々な遊びの提案ができないといけないなと思います。
青井さん
僕自身は、最初は写真を撮るのが好きだったけど、今はいろいろ好き。
これも、ゲストがいろんなスキンダイビングの形を僕に押し付けてくれたから、幅が広がったんだと思います。(笑)
最初は、「そんなのはスキンダイビングじゃない」と否定していたんですけどね。
でも、冷静な目で見てみると、あれもこれもスキンダイビングという言葉でくくれるだろうと、ある時、発想を変えました。
フリーダイビングの世界は、一般の人が想像しているより、深く潜る。トレーニングを積んだ方だけが参加できる競技だと私は思っています。
一方で僕は、みんなの手が届く、いっぱいの人が楽しめるレベルの提案からしていきたいと思っています。
ーーゲストのニーズを聞いて、志向に合ったものを提案することで、スキンダイビングに導いているんですね。
青井さん
自分がやりたかった形に、ゲストの方が付いてきてくれた。そして、信じて付いてきてくれたスタッフたちにも感謝しています。
また最近では、お店を始めた当初よりも、健康に対する意識が向上したことで、ゲストのニーズにも変化があったと思います。
世の中的に、自転車通勤とか、ジョギングとか、様々なフィットネスとか。健康管理を兼ねて、体を動かす遊びが好まれるようになってきたんですね。
スキンダイビングって、練習が必要なんです。
頑張らないと上達できないんですが、その一見ストイックな世界観が受け入れられる様になってきました。
ーーフリーダイバーたちの活躍も追い風となりましたね。
青井さん
フリーダイビングを競技として行う方々が大会で活躍し、インタビューを受けたりなどで裾野が広がってきているように感じています。
今、スキンダイビングでも、スキルをつけてゲストを送り出してくれる都市部のお店も出てきています。
こういった連携をとる様な動きって、近年までスキンダイビングの世界ではあまりなかったのでうれしいです。
基礎をちゃんとやる
レッスンプロとしてのポリシー
青井さん
海沿いのサービスを運営されているには聞きなれない言葉かもしれませんが、スキンダイビングやダイビングでも「ゲストのスキルアップをお手伝いする」という仕事は、「レッスンプロ」という概念で捉えています。
そして、このレッスンプロとして大事にしないといけないことは、「基礎をちゃんとやる」ということに尽きると思っています。
そのためには、ルールがないという状態に限界が来た。
カリキュラムで言うと、ダイビングで行われるの学科講習の7割程度の時間が、スキンダイビングでも必要だと考えています。もちろん、それだけでは足りない部分も出てくる。
様々なところに働きかけをしましたが、なかなかスキンダイビングのハンドブックの整備を進めるのは難しかったです。
ーーそこで、BSACからオファーがあったわけですね。
青井さん
2015年だったと思いますが、スキューバダイビングの指導団体のBSACから、当時使用されていたスノーケルインストラクターのハンドブックを見せてもらったんです。
僕はそれを見て「これじゃダメ」と突き返しました。
その時の僕は、「指導団体はルールありきで、どうせ現場の意見は一切反映してくれないだろう」と思っていたんです。
ところが、BSACは「一緒に改善していきませんか?」と言ってくれた。
自分が石垣島で本気で取り組んできたことを認めてくれ、その意見を汲んでくれるのは本当にうれしく思いました。
こうして、現行のスキンダイビングインストラクターハンドブックが完成したわけですが、まだまだ納得のいかない部分はあります。マニュアルなんで、最低限の要素に絞ってあることは仕方ないかな。(笑)
青井さん
BSACには、感謝しているんです。
スノーケリングとかスキンダイビングって、まだまだ黎明期です。そこに、早い段階で目を向けて着手してくれたことで、安心して指導できる環境が整いつつあります。
まぁ、諸問題もあるので、まだまだですけどね。
〜後編に続きます〜
▶︎スキンダイビングの現状と課題、そして未来へ〜石垣島シュノーケリング専門店・青井さんインタビュー【後編】〜
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沖縄県石垣島のスノーケリング・スキンダイビング専門店をしていた青井さんとダイビング専門店の丸山敦さんが2022年にオープンしたダイビングサービス。
それぞれ約二十年間ショップを運営してきたプロフェッショナルが同じ思いを胸に二人での運営を開始。
2008年3月就航の「miss.isana」と2019年3月21日に就航した「miss.isana2」は、船外にプロペラがなく、スノーケリング・スキンダイビングに適したウォータージェットボート。この2隻のボートで石垣島の海を案内する。
代表の青井さんは、安全・安心に強い思いを持って、日々のガイドやトレーニングを行っている。長年の経験に基づいた指導力は折り紙付き。スキルを高めていく楽しさをゲストに提案している。
初心者からベテラン、また、子どもから高齢者まで幅広いゲスト層に、それぞれに見合った“楽しみ”を提案している。特に、初めて海に入る方から、久しぶりでちょっと不安な初心者・中級者向けに、ゆったりとした時間配分でサポート。
そのストイックな姿勢が信頼を得て、リピーターも多く訪れる。
NEO MARINE石垣島
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Special Thanks
協力:BSAC JAPAN
撮影:杉森雄幸
■「BSACスノーケルインストラクター&スキンダイビングインストラクター」に関する過去記事はこちら
※通常オーシャナでは、シュノーケリング・シュノーケルと表記していますが、今回の記事では、BSACの表記に合わせ、スノーケリング・スノーケルで統一しています。