【トンガ】ホエールスイムで有名な国はどんな場所?水中写真家・越智隆治氏に取材

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世界的にも有名なホエールスイムのスポットとして知られるトンガ王国(以下、トンガ)。この国を2022年1月15日に発生した海底火山の大規模噴火が襲った。海底ケーブルの切断の影響により、未だ十分な被害情報が入ってきておらず被害の全貌が見えない状況にある。

そこで今回、ホエールスイムのツアーを自ら企画して、17年前からトンガを訪れている水中写真家・越智隆治氏に、トンガが一体どんな国なのかを改めてお話しを伺った。記事最後では、越智氏を含む、トンガのホエールスイムにゆかりのある4名の人物から噴火被害にあったトンガに想いを寄せて、写真とコメントをいただいた。

2,500年前から刻まれてきた歴史あるトンガ

南太平洋のフィジーとタヒチの間に浮かぶ、大小170を超える島々、4つの諸島群から成り立つトンガ。人類が初めてトンガに足を踏み入れたのは、約2,500年前。18世紀、南太平洋の島々が次々とヨーロッパの植民地となる中、トンガは最後まで植民地化されることはなく、トンガ人は民族的なアイデンティティ、言語、文化を独自に発展させていった歴史がある。

トンガタプ諸島、ハアパイ諸島、ババウ諸島、ニウアス諸島の4つから成り立っており、政治経済の中心は首都ヌクアロンファのあるトンガタプ諸島。年間を通じて気温は20度から30度と暑すぎず、気温の変化も日本と比べるとそれほど激しくない。温暖で雨量の多い、熱帯雨林気候の島国だ。

30年以上前から行われてきたババウ島でのホエールスイム

トンガは、ホエールウォッチングのスポットとして、世界的にも注目を集める国だ。オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、ヨーロッパ各国、そして中国からの観光客も近年は増えているという。

トンガで初めてホエールスイムが行われたのは今から30年以上前。毎年トンガの冬にあたる7~11月頃、水温が24〜25度の海には全長15mにもなるザトウクジラ(以下、クジラ)が繁殖と子育てのために集まってくる。温暖で天敵のシャチも少ない海は、脂肪が薄く寒さに耐えられない生まれたばかりの赤ちゃんには最適の場所。南太平洋の命のゆりかごとも言えるだろう。クジラはトンガ周辺海域全体で観られるが、最も遭遇率が高い場所は、トンガタプ島から国内線に乗り、1時間ほど北上したババウ島である。

ババウ島に訪れるクジラたち

2004年以降、16年間ツアーを行ってきた越智氏が「クジラが観られなかったときは一度もない」と話すほど、クジラとの遭遇率は高い。多い時には、止まっているクジラの親子が1日に20組も近海に停滞していることもあるという。過去には1頭のメスを30頭ものオスが、三日三晩追いかける光景も目にしたことがあるそうだ。滅多に観ることができないイメージのあったクジラだが、どうやらババウ島は別格のようだ。

1頭のメスを何頭ものオスが追いかけるヒートラン

1頭のメスを何頭ものオスが追いかけるヒートラン

また、クジラは、北半球で回遊する個体と南半球で回遊する個体に分けられ、南北両半球では季節が逆のため、赤道を超えて交わることはないと言われている。つまり北半球に位置する日本(沖縄や奄美大島)のクジラは南半球に位置するトンガのクジラと全く別の個体なのである。さらに、北半球のクジラは黒くゴツゴツとした体表なのに対して、南半球のクジラは白い模様が多いという特徴がある。

白く美しい体表が特徴的

白く美しい体表が特徴的

人間を受け入れているかのような、驚くほどのフレンドリーさも特徴のひとつだ。個体によっても性格はさまざまだが、逃げることなくその場にいてくれるクジラが多く、さらには人に興味を持って寄ってきたりすることも。「朝8時に出港し、湾の中に親子を見つけホエールスイムをしました。しばらく観た後、船に戻り隣でランチをしていたんですけど、ずっとそこにいて、結局16時になっても、全然動かずにそこにいました」。さすがにその時はクジラを観ていて飽きるほどだったという。なんとも羨ましい限りだ。越智氏自身も、「初めて行ったときには信じられませんでした。ザトウクジラは動き回るものだと思っていたので」と振り返る。各国を巡ってきた越智氏が言うのだから間違いないのだろう。

近い距離で泳ぐことができる

近い距離で泳ぐことができる

ストレスを限りなく与えないためのホエールスイムの方法

世界有数のホエールスイムのスポットとして、クジラに敬意を払うことも大切にしている。国で定められたルールがあり、たとえば、クジラと一緒に海に入れるのはお客様4人+ガイド1人まで、1組のクジラと泳げるのは基本1時間半まで、離れていくクジラを追わない、など日本で行われるホエールスイムのルールと違う点もある。さらにクジラに船を寄せられるのは1隻までで、決してクジラを取り囲むような状態はつくらない。観たいクジラが他の船と被った場合は、順番待ちをして、船長たちが無線で連絡を取り合い、クジラを譲り合う。ホエールスイムを持続可能なものにするためにも、クジラにストレスを与えないよう、最大限の配慮がされているのだ。

ホエールスイム以外の観光情報

ババウ島には、「スワーローズケーブ」という透明度が高く、魚が多い洞窟や、「マリナーズケーブ」という洞窟の入り口が海の中にあり、くぐり抜けていくとエアドームになっているようなシュノーケリングでも楽しめるスポットがある。また、ダイビングはショップもいくつかあり、雄大な自然が作り出す地形や南太平洋独特の珍しいサンゴ礁をじっくり楽しむことができる。

スワローズケーブ

スワローズケーブ

その他、首都のあるトンガタプ島には、ハワイ諸島を発見したことでも知られるイギリス海軍士官ジェームズ・クック(通称キャプテンクック)が1773年に上陸したことを記念して建てられた記念碑や、古い歴史を持つ石造りのハアモンガ・ア・マウイ遺跡、そして由緒ある王宮なども見どころだ。

最後に。トンガで発生した噴火被害に想いを寄せて

噴火したのはトンガの海底火山「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」。首都ヌクアロンファのあるトンガダプ諸島の北におよそ65km、日本からはおよそ8,000km離れた場所にある。大規模な噴火が発生したのは、日本時間の2022年1月15日午後1時ごろ。噴煙が一気に立ち上り、米海洋大気局の人工衛星が撮影した画像では、噴煙は半径260kmに達した。

噴火に伴い世界各国で津波を観測。噴火によって発生した高さ1mを超える津波はトンガの島々を襲い、海岸沿いの村や建物が破壊された。ババウ島への被害は少ないものの、ババウ島の南部にあるハアパイ島は海抜0mが故に、未だに現地と連絡が取れないほど打撃を受けた。

1月24日現在、トンガ政府は人口10万5,000人の約84%が影響を受け、3名が亡くなったと発表している。特に被害を受けているマンゴー島では、62人が家と所有物全てを失い、ノムカ島に移動したという。医療施設も破壊され、救助隊が現地に野外病院を設置している。外国からの救援隊や多数のボランティアらによって国際的な支援が始まり、飲み物や食べ物、シェルターなどの支援物資を運んでいるが、今もなお食料や支援物資不足は続いている。

トンガに通じる唯一の海底ケーブルは今も切断された状態で、インターネットを含めた通信回線を完全に復旧させるためにはまだ時間がかかるとされている。

以下、トンガのホエールスイムにゆかりのある4名の人物から噴火被害にあったトンガに想いを寄せて、写真とコメントをいただいた。

写真家・岡田裕介氏

過去7年間、越智氏が主催するInto the blueホエールスイムのスタッフとしてトンガに訪れていた。


コロナ禍前までは、ザトウクジラの撮影を目的に2013年から毎年1ヶ月ほど滞在していたトンガ。トンガでは日々、クジラを求めてトンガ人クルーと共に海へ出るのですが、休みの日には家族や仲間の集まりに混ぜてもらうことがあります。みんなで火を囲み、お酒を飲み交わしながら穏やかに語らい楽しい時間を過ごしてきました。トンガ人は大柄な体で陽気で穏やかな人が多く、毎日を実にゆったりと大切に生きています。そのおおらかさは、日本人の僕からすると”生き方の自由”を感じて羨ましくもなります。クジラだけでなく、そんな彼らと過ごす時間を楽しみに僕は毎年トンガに通っていました。まだ現地の詳細は分かりませんが、この先しばらく火山灰などの影響はあるでしょう。しかしきっと彼らの陽気でおおらかな人柄で、トンガは希望を失うことなく立ち直っていくと信じています。

水中写真家、フリーダイバー・篠宮龍三氏

過去3年間、ホエールスイムのスタッフとしてトンガに訪れていた。


初めてトンガを訪れたのは2017年。30頭以上のオスが1頭のメスを巡って争うヒートランを目にすることができ胸が打ち震えるような感動を覚えました。興奮したオスたちが大きな噴気音をあげながら暴走列車のように次々と目の前を通り過ぎていく。トンガならではの一生忘れられない体験です。「クジラたちは人類にとって従兄弟兄弟である」ジャック・マイヨールはかつてそう語っていました。一息で100m以上潜り、数千kmも泳いで海を旅する彼らは我々にとって憧れの存在。20年近く競技をしてきましたが、世界の海で競い合ったフリーダイバーたちとトンガで再会するのもまた楽しみのひとつなのです。ババウ島は今回の津波の被害は幸い限定的だったとのことですが、トンガタプ島やハアパイ諸島は、平坦で津波と火山灰の被害がかなり甚大だそうです。微力ながらできる限りの支援をしていきたいと思います。

水中レポーター・稲生薫子氏

トンガのホエールスイムガイド資格所有者・8年間Into the blueのスタッフガイドとして訪れた経験がある。


毎年、クジラだけでなく現地の人々との再会を一番の楽しみにしていました。ガイドを始めて4年目になる頃にようやく、名前も覚えてもらいました。「また来年もくるのか?」と船長たちに声をかけてもらい、「この土地にまた帰ってきてもいいんだ」って思えるようになり、第二の故郷のように感じていました。クジラとの忘れられない出逢いは、母と子+エスコート(母子を守る傍ら、母クジラと交尾のチャンスを狙うオスクジラ)の3頭に遭遇したときのこと。ボートの真下に子クジラがいて、少し離れたところに母クジラとエスコートが仲良さそうにいました。急に母クジラの目が私の方をぎょろっと向いて、「その子をよろしくね」というような目線を送ってきて、声が聞こえた気がしたんです。気づいたころにはトンガの虜に。それが今回の噴火により、音信不通が続く中、ババウは大丈夫という連絡が入った時には自分の家族同然の安堵を覚えました。トンガに一日でも早く平和が戻ることを願って。ババウ、その他の地域のみんなが無事でありますように。

水中写真家・越智隆治氏

2004年よりババウでのホエールスイムツアー開始。ツアー情報はこちら


ホエールスイムツアー開始以降、毎年トンガに長期滞在する生活が16年程続きました。いつの間にか、知らない人から、「ハイ!タカ!」、「フェフェハケ(トンガ語で「元気?」)?タカ!」と声をかけられるまでに。初めて水面に止まっているクジラの親子と泳いだときの感動は、今でも鮮明に覚えています。日本のテレビのロケでコーディネーターを務めるほど、この国に惚れ込んでいる自分がいました。それは、クジラだけでなく、人々のおおらかさや、優しさ、素朴さが大好きになっていたからだと思います。そんなトンガでの噴火。ババウ島にいる友人たちの無事は、確認できましたが、首都のトンガタプで、送迎や観光ガイドなどをしてくれるスタッフや、中華料理店のオーナー兄妹など何名かの安否情報はいまだに入ってきていません。命に別状が無かったとしても、元の生活に戻るまでには、相当な時間がかかるに違いない・・・。何よりも、音信不通の友人たちの安否が少しでも早く確認できることを願っています。

クジラが訪れる国、トンガ。その魅力はホエールスイムだけでなく、土地、文化、人など多岐に渡る。今まで特段注目されることなく、ダイバーでも訪れたことのある人はそう多くはないだろう。海底火山の大規模噴火の被害状況が未だ把握できない状態ではあるが、この記事がトンガを知るきっかけになれば幸いだ。

トンガ基本情報

首都:ヌクアロファ(トンガタプ島)

公用語:トンガ語、英語

アクセス:日本からの直行便はなく、通常第三国を経由する。週1便程度運航しているシドニーやオークランドを経由するほかに、日本との直行便があり太平洋島嶼国のハブ空港となっているフィジーのナディを経由する便が週4便、スバを経由する便が週2便運航している。フィジーからの所要時間は約1時間30分。

パスポート:滞在期間にかかわらず入国時に6カ月以上の有効期限が必要。滞在31日以内なら観光ビザは不要。

時差:日本より4時間早い。日本が正午の時、トンガは午後4時。

通貨:一般にはトンガ・ドル。現地の空港でも日本円からの両替が可能。トンガタプとババウにはビザ(VISA)やマスター(MASTER)カードでキャッシングができるATMが数カ所に設置されている。

電圧:240V、50Hz。オーストラリアやニュージーランドと同じ3本ピンのOタイプ。

休日:国民的な休息日となる日曜日は一切の活動が中止になる。飛行機・マリンスポーツアクティビティもすべて運航、催行されないため注意が必要。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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