マリンレジャー事業者、カメラマン、水中写真家が語り合う 「沖縄の海から考えるレスポンシブルツーリズム」座談会

「レスポンシブルツーリズム(Responsible tourism)」という言葉を聞いたことはあるだろうか? 直訳すれば「責任ある観光」。これは観光業などに携わる“もてなす側”の人々だけでなく、観光に訪れる“もてなされる側”の私たちも、責任をもって旅をするべきという考え方だ。

今回、沖縄県が実施している「マリンレジャー魅力向上促進事業」の一環として、「沖縄の海から考えるレスポンシブルツーリズム」というテーマでの座談会を行った。県内マリンレジャー事業者代表として古郡優樹氏、沖縄在住ダイバーの立場で水中カメラマンの上地一輝氏、そして県外ダイバーとして沖縄を訪れている水中写真家・むらいさち氏に参加していただき、ざっくばらんに沖縄のマリンレジャー、観光が抱える問題点、その打開策について話していただいた。

左からむらいさち氏、上地一輝氏、古郡優樹氏

左からむらいさち氏、上地一輝氏、古郡優樹氏

沖縄のマリンレジャー業界が抱える問題点とは

オーシャナ編集部(以下、――) 沖縄は国内有数の人気を誇る旅行先ですが、多くの観光客が訪れることで、自然環境の悪化や、ごみのポイ捨てや騒音、路上駐車など、現地の方への迷惑行為などが懸念されています。

観光客の路上駐車は道をふさいでしまい、地元民が通行できない事態になることも

観光客の路上駐車は道をふさいでしまい、地元民が通行できない事態になることも

――まずは皆さまに、それぞれの立場から「今の沖縄の観光が抱える問題点」をお聞きしたいと思います。多くの観光客を受け入れていらっしゃる古郡さんから、お話しいただけますでしょうか。

古郡優樹氏(以下、古郡氏)

私は沖縄県マリンレジャー団体連合会(以下、MBF)の専務理事をしているので、沖縄各地の会員の皆さんと共通課題について意見交換をする機会があります。先日、那覇と宮古島のメンバーで環境保護・保全についてどんな取り組みをしているかを話していたときに、餌づけの話題になりました。

那覇では、シュノーケリングやダイビングのときに魚を集めるために、餌づけをしている業者があるんですよね。私は「うちはやっていませんけど、宮古島でもしているところとそうでないところがありますか?」と聞いたところ、宮古島の業者の方たちは「そもそも餌づけをするという考えがない。そんなことをしたら笑われる」と言うんです。環境保護・保全の観点から考えれば、魚の餌づけはするべきではないと皆さんわかっているはずです。しかし薄利多売の商売をしている業者には、餌づけをしているところが多い。こういったことをしないで、マリンレジャーをビジネスとして成り立たせるように、会社として取り組んでいく必要があります。

古郡優樹氏

古郡優樹氏

古郡氏

またこれからは一般の観光客に向けて、情報発信していくことが大事だと思います。一つの案ですが、沖縄行きの飛行機の中や空港などで「環境保護にしっかり取り組んでいるマリンレジャーの業者を選んでいますか?」というような情報を提示して、観光客の方が自分の予約している店はきちんと取り組みをしている店なのかチェックできる。そんなふうにできるといいですよね。また環境保護・保全の活動をしている会社には、法人税を少し値下げしていただけるなどの優遇があると、ビジネスとしても取り組んでいきやすくなります。こちらの座談会に声をかけていただいたことをきっかけに、行政の方たちと連携して問題解決に向けて進んでいけたらと思います。

―― そもそも観光客の方が、環境保護への取り組みをどのようにしているかなど、現地の情報を知らないということに問題がありますよね。上地さんはダイビングショップで働いたご経験もあるそうですが、現状のマリンレジャーの課題などをどのように感じていらっしゃいますか?

上地一輝氏(以下、上地氏)

古郡さんの前で言うのもちょっと緊張するんですが(笑)、海を案内するダイビングガイドの方たちの労働環境に問題があるように思っています。大学生のときに、ダイビングショップに研修に行かせてもらっていたんですが、夏の繁忙期だと休みが月に3、4日しかないのですが、給料はかなり安いと聞いて、過酷な条件だなと。これだとダイビングガイドを仕事とする方のモチベーションも上がらないのではないでしょうか。

また「真栄田岬」での体験ダイビングは格安でやっているお店もあり、安ければいいという考え方ではサービスの質も下がると思いますし、きちんとやっている業者が価格競争で負けてしまいます。こういった現状は行政の方にも入っていただいて、改善していかないといけないのではと思います。

――地元の方からそういった発言を伺うと、本当にそういうことが起きているんだなと実感します…。一方でむらいさんは沖縄を訪れる立場ですが、どんなことを感じられていますか?

むらいさち氏(以下、むらい氏)

僕は水中写真家になる前、今から20年前くらいになりますが、慶良間諸島の座間味島でガイドの仕事をしていました。その当時はどこでもサンゴが見られたので、今のように「サンゴポイント」という名前のポイントはなかったんです。
その後、オニヒトデが発生したり、白化現象が起きたりして、沖縄のサンゴはダメージを受けましたが、八重山諸島は復活が早かったように思います。本島周辺は20年以上かかって、やっと最近きれいなサンゴ礁が見られるようになってきました。

イキイキとしたサンゴ礁に色鮮やかな魚たちが群れ泳ぐ八重山諸島の海(写真提供:むらいさち氏)

イキイキとしたサンゴ礁に色鮮やかな魚たちが群れ泳ぐ八重山諸島の海(写真提供:むらいさち氏)

むらい氏

ただ本島周辺のサンゴの復活が遅いことは、「海の元気さ」が離島より劣っているのかなと思いました。どんどん開発されて、人口も増えたことで、海の環境に負荷がかかっているのではと感じます。沖縄本島で高速道路を走っていると、ずっと家が立ち並ぶ景色が続きます。「こんな小さい島にこんなにたくさん建物があるんだ」とちょっと驚くくらいです。海を守るエリアを決めるなどしていくことも、必要なのではないかと思います。

沖縄のマリンレジャー業界が抱える問題点

●環境保護・保全より利益を重視する事業者が多く存在する
●ダイビングガイドの労働環境の改善が必要
●開発が進むことにより、海の環境に負荷がかかっている

>>次ページ:沖縄の海を守るために、利用者にやっていただきたいこと

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