マリンレジャー事業者、カメラマン、水中写真家が語り合う 「沖縄の海から考えるレスポンシブルツーリズム」座談会

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沖縄の海を守るために、利用者にやっていただきたいこと

――「レスポンシブルツーリズム」の観点では、受け入れる側の事業者だけでなく、沖縄を訪れる観光客の方にも意識や行動を変えていっていただくことがポイントになると思います。たとえば、シュノーケリングやダイビングをするときにサンゴをフィンで蹴って折ってしまわないようにする。路上駐車で地元民の方たちに迷惑をかけないようにするなど、いろいろなことがあると思うのですが、具体的に観光客の方たちにこうしてほしいということがあれば教えてください。

古郡氏

旅行で沖縄に来る方は、観光地だと思っていらっしゃいますが、当然住んでいる方がいるわけです。いわゆる観光地以外の場所には、あまり行かないでいただきたいと思います。きれいなビーチがあるから行ってみようと訪れた場所が、人の家の裏にあるビーチだったなんてこともあるので、気をつけていただけたらと思います。

沖縄の人たちは、コロナ禍になってから幸福度が上がったというデータがあります。これはどういうことかというと、観光客が来なくなったことでごみが減ったり、県民の方たちが沖縄の施設や観光地を使いやすくなったりしたことが関係しているようです。例えば、スーパーの混雑がなくなった。美ら海水族館がすいているので、ジンベエザメがすごく見やすくなった。SNSで拡散されて、旅行客の方が押し寄せるようになってしまった地元民の憩いの場や遊び場が、元の地元民だけの場所に戻ったなど。アフターコロナになっても、こういった住民の方たちの憩いの場に、観光客が入っていくのは避けていただきたいです。

上地氏

地域で大切にしてきた海岸などがあるので、そういう場所には入らないでほしいですよね。インフルエンサーの方たちは情報収集力がすごくて、こういった場所を「穴場を発見!」みたいにSNSにアップしたりすることがあるんですが、そうするとものすごい数の人が来てしまう。やはりそれで、SNS上でケンカが起こったりしているのを見たことがあります。あと先ほども古郡さんからお話がありましたが、環境保全などをきちんとしている事業者やサービスを観光客の方に選んでいただきたいですね。

白砂が広がる海底に点在するサンゴの根。こんな癒しの光景は、沖縄の海の大きな魅力のひとつ(写真提供:上地一輝氏)

白砂が広がる海底に点在するサンゴの根。こんな癒しの光景は、沖縄の海の大きな魅力のひとつ(写真提供:上地一輝氏)

むらい氏

僕としては、観光客の方に沖縄の素晴らしさを改めて伝えることが大事かなと。那覇ほどの大都市の沖合にザトウクジラが泳いでいるなんて、すごいことですよね。世界のいろいろな海を見てきていますが、沖縄は世界一だと思っています。

住んでいる方にも沖縄の海の素晴らしさを伝えたいですね。僕は埼玉県出身なんですが、あまり埼玉が好きではなくて(笑)。それは埼玉県ってどういうところかを、学校でも教えてもらっていなかったんです。子どもの頃に得た価値観が、後々の人生に影響を及ぼすことがあります。「沖縄の海ってすごいんだ」と、子どもたちには誇りを持ってほしいですね。沖縄を一度離れても、Uターンしてまた戻ってくるんじゃないかな。

むらいさち氏

むらいさち氏

レスポンシブルツーリズムを実現するために必要なこと

●観光客は居住者の迷惑になる行動を慎むようにする
●観光客に環境保全などをしっかりしている優良な事業者を選んでいただく
●沖縄の海の魅力や価値を、観光客、県民の方たちにしっかりと伝える

沖縄が魅力的な旅先であり続けるために、今できること

――最後に沖縄が10年後、20年後も魅力的な旅先であるために、今どんなことができるかをお聞きしたいと思います。沖縄を訪れる私たち旅行者が意識や行動を変えていくことの大切さはよくわかりましたが、受け入れる側の事業者の方たちも意識されていることはありますか? 古郡さん、いかがでしょうか?

古郡氏

環境保全の取り組みは継続していくとして、その次には観光客の方の満足度を上げて、リピート率を向上していくことが大事です。そのためにはお客様のニーズに合ったサービスを的確に提供することが欠かせません。たとえばファンダイブをしたい方に、体験ダイビングがメインの店を勧めてしまったり、マクロ撮影をしたいフォト派ダイバーの方がワイド撮影を得意とする店に行ってしまったり。そんなことが沖縄ではよくあるんですよね。

これは事業者側が「なんでもできます」と言ってしまうことに問題があります。私の店は「海の公園」というテーマで、子連れでシュノーケリングツアーを楽しみたいお客様をメインにしています。もちろん「慶良間2ボートファンダイブ」のようなリクエストに応えることもできますが、家族連れのお客さんの中にバリバリのダイバーの方が交じっているというのは、違和感がありますよね(笑)。「うちはこんな店です」というコンセプトをきちんと出していくことが、お客さんの満足度にもつながっていくではないかと感じています。満足度を上げていけば、10年後、20年後も、同じように沖縄の海を楽しんでいただけると思います。

お客様にも自分が沖縄の海でどんな過ごし方、遊び方をしたいのか、目的をはっきりさせていただいて、それに合った事業者を選んでいただくことが大事なのではないでしょうか。

「海の公園」をコンセプトに作られている「OPG」のマリンレジャー船(写真提供:OPG)

「海の公園」をコンセプトに作られている「OPG」のマリンレジャー船(写真提供:OPG)

――特徴や強みがはっきりしているお店だと、安心してダイビングも楽しめますよね。私たち沖縄を訪れるユーザー側も積極的に情報を得て、利用する店を選ぶようにしていきたいです。上地さん、いかがでしょうか?

上地氏

むらいさんがおっしゃっていましたが、沖縄本島は人が多すぎる感じがします。リゾートホテルも次々建っていますし…。沖縄はハワイの代わりではなく、沖縄ならではのよさを残していくことが大事だと思います。人の温かさとか、沖縄らしい風景など…。あと沖縄の人って、海に入らない人が多いんです。地元の人間が海の魅力を知ることが大事ですよね。今でも友だちを海に連れて行くと、「足がつかないところに入るのは初めて」って(笑)。これを変えるには、教育も大事かなと思います。北海道だと、小学校でスキーの授業がありますよね。沖縄でも子どもの頃から、海に親しむ授業ができたらいいですよね。

上地一輝氏

上地一輝氏

――むらいさんは沖縄を訪れる立場として、どんなことをしていったらいつまでも沖縄が魅力的な旅先であり続けられると思いますか?

むらい氏

沖縄ではいろんなリゾートに行っていますが、「どうしてこんなのを造ってしまったんだろう?」と思うことがたまにあります。それはさっき上地さんが言われていたのと同じで、「ハワイの真似をしてもしょうがないだろう」と(笑)。沖縄に誰もそれを求めていないだろうと、僕は思ってしまいました。開発に対してのお金の使い方を、もっと考えていく必要があるんだろうなと。

沖縄本島に関していえば、こんな都会の沖に、美しいサンゴ礁の海がある旅先なんて、世界中を見渡してもなかなかありませんよ。バランスよく、いいリゾートがある島になってほしいです。僕たち沖縄を訪れる旅行者も、その素晴らしさを理解しておきたいですよね。そして沖縄がいつまでも魅力的な旅先であるために、自分たちができることをしっかりしていくことが、大切なんじゃないかと思います。

沖縄が魅力的な旅先であり続けるためにすべきこと

●事業者は観光客のニーズに合ったサービスを提供する
●沖縄県民に学校教育などを介して、海の楽しさを伝えていく
●沖縄ならではのよさを生かしたリゾート開発を行う

>>次ページ:新たな気づきや今後に向けて皆さんから

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