国内5つめの世界自然遺産登録 奄美大島は海の中も生物多様性に溢れている

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奄美大島南部の海

透明度抜群の奄美大島でダイビング

念願の世界遺産登録で話題の奄美大島。対象エリアになっているのは固有種などの生態豊かな森と山だが、海は山からの恵みを受け取る場所。世界が誇れるほど自然豊かなこの地には、水中にも間違いなく守るべき世界があるに違いない。

奄美空港でレンタカーを借り、緑あふれる景色を横目に山々をいくつも越えて約1時間半かけ最南端の町、瀬戸内町に来た。

奄美大島瀬戸内町

瀬戸内町は山に囲まれたのどかな集落が多い

島内の他地域の人も「最後のトンネルを抜けて古仁屋に着くと、港町独特の空気を感じます」と言うほど、不思議な心地よさを持つ瀬戸内町。日本で唯一「海峡」が町内にある場所で、海の中を探索してきた。

5月の奄美大島は梅雨まっただなか。撮影のために、梅雨前線が遠ざかる「梅雨の中休み」を狙ってダイビングに来たのだが、残念ながら初日は雨。初使用の撮影機材もあったので、カメラのチェックとダイビングスポットの調査を兼ねてマクロ撮影をリクエストした。

水中撮影をしつつ、午後からは別の仕事を進めないといけない状態だったので、テレワークやワーケーションに適した場所を探したのだが、せっかくなので海が見えてビーチが近いほうが気分が良いだろうと思い、瀬戸内町清水(せいすい)海岸の前にある「ゼログラビティ清水ヴィラ」に滞在した。

奄美大島ゼログラビティ

敷地内にはダイビングサービス、宿泊施設、プールがコンパクトにまとめられている

地元の人たちによって守られた奄美大島の海

翌朝、ヴィラを8:30に出発し、車で5分ほど走ったところにある古仁屋港で9人乗りのコンパクトな和船をチャーターしてダイビングへ向かう。5〜6人の1チームでちょうどよいサイズなので、フォトツアーやスキンダイビングツアーの貸し切りにも対応しているらしい。

港からボートで10分。「赤崎」というダイビングスポットで潜る。奄美大島には仕事で9回も来ているのだが、初めてのダイビングに気分が高まる。天気こそ悪いものの海はベタ凪、透視度も20mと好調。潜降して周囲を見渡し、なぜか少し不思議な感覚になる。

ここでは水深15〜20mの砂地にヤシャハゼやネジリンボウなどのマクロ撮影で人気の魚が見られる。深場へ降りていくと徐々にサンゴがなくなり、幅の大きな砂紋が広がる真っ白な水底が見えてきた。晴れていたらとても気持ちいいのだろう。

奄美大島のヤシャハゼ

真っ白な美しい砂地にヤシャハゼの姿が

狙い通りハゼを数個体見つけて撮影し、移動をしている時に最初に感じた不思議な感覚の正体がわかった。ここのスポットでは、水中生物が堂々としているのだ。東南アジアやカリブ海の一部で経験したことがある海洋保護区が持つ独特な雰囲気。漁業やフィッシング、オーバーツーリズムによる被害からまぬがれた、地元の人によって守られた海の中なのだろうと感じた。

浅場に戻ってきてからも、至るところにソフトコーラルやハードコーラルがあるのだが、ダイバーやボートのアンカーによる被害も見られない。大人数を受け入れるダイビングショップや大型ダイビングボートがないこと、早々にボートのアンカーリングを禁止したことが良い影響になっているのだろう。

何よりも、空港から2時間というアクセスの困難さが、持続可能な海に貢献していると感じた。

奄美大島のカニ(マルガザミ)

奄美大島の生物は堂々としている

港の近くに戻り、次のダイビングスポット「灯台下」へ移動。ここでは浅い水深でスミレナガハナダイが見られるらしい。ハナダイ系の魚は体色やヒレの色がとても美しく、ライティングがうまくいくと美しい写真が撮れる。しかし、10年以上住んでいた沖縄でドロップオフのいたるところで見られる魚なので正直、ふーん…という感じであまり乗り気ではなかった。

潜降してすぐ、ガイドの指差す先にはカラフルなモンハナシャコが。普段は巣穴の中から顔だけ出していることが多いのだが、尻尾の先まで全身が出ている。やはり、奄美大島の生物は堂々としている…

奄美大島のモンハナシャコ

奄美大島の生物は撮られ慣れているのか?

生物多様性に溢れる奄美大島の海

潮の流れが当たる場所なのだろう。真っ赤で大きなイソバナが咲き乱れている。浅場では、干潮の時間には水面から飛び出してしまいそうなほどサンゴが成長している。なんて元気な海なんだ。魚やサンゴが豊富に見られるダイビングスポットは「癒し」のイメージが強いが、この島の海は、沖縄のオニヒトデ食害やグレートバリアリーフの白化現象などを全く感じないほど「パワフルでエネルギーに満ち溢れた」印象を受ける。

スミレナガハナダイ1種に目を向けても、その生態がユニークだった。まず、通常は水深20m程度に住んでいるのだが、ここでは水深5〜6m程度で目にすることができる。どこかからはぐれて来たのだろうと思っていたが、水中で実際に見てみるとメスが数匹、オスが1匹の群れができている。魚類によく見られる生存戦略のためのハーレムなのだが、オスの色が通常と違うことに気付く。

奄美大島のスミレナガハナダイ

性転換中のスミレナガハナダイ(♀→♂)

スミレナガハナダイのオスは深い場所で見ると青に近い紫色で、光を当てると美しいヴァイオレット〜濃いピンクの体色のはずなのだが、ここのはオレンジ色にピンク模様なのだ。これは、過去に3回ほどしか見たことがないのだが、体色の黄色いメスがなんらかの都合でオスへ性転換する際に見られる色で、通称オカマちゃんだ。ゼログラビティのガイドいわく、ここでは紫色のオスは見たことがないらしい。

そういえば、那覇空港の大型水槽にいるスミレナガハナダイもずっとオカマちゃんだった。もしかすると普段やや深い場所に住む魚が浅い水深を住処に選んだことで、体の色に変化が出るのかもしれない。お魚1匹でも存在感の大きな海。おもしろいぞ、奄美大島。

2ダイブを終えて港に戻り、ランチを取った後に再び出港。今度は、奄美大島をドライブ中に展望台から見た景色が美しすぎて絶対に潜りたかった「嘉鉄」をリクエストした。

奄美大島瀬戸内町の嘉鉄湾

奄美大島のマネン崎展望所から望む嘉鉄湾

“嘉鉄”と聞くと、なんだか重厚で切れ味が素晴らしい日本刀をイメージしてしまうのだが、真っ白な砂地にターコイズブルーの海が絶景のビーチを持つ嘉鉄集落の湾である。

ここでは、夏が近づくと魚の数が増え、白い砂地に点在する根を覆い尽くすらしい。沖縄でもよくある景色だ。正直、見飽きているのであまりワクワクしない。海の色がきれいという理由で潜りに来たので特に期待もしていなかったのだが、やはり生物多様性に溢れた奄美大島はレベルが違った。

まず、沖へ向かって泳いで水深20m付近まで潜降する。瀬戸内町のある奄美大島側と加計呂麻島の間は海峡なだけあって潮の流れがとても早く、水中でも沖へ行けば行くほど流れが強い。流れあるところに漂流者あり。海が運ぶプランクトンを上手にキャッチするチンアナゴの群れが現れた。食事に夢中でダイバーに構っている場合ではないのだろうか、普段は臆病な彼らにかなり近くまで近づくことができた。

奄美大島のチンアナゴ

ダイバーにすぐ慣れてくれて引っ込まなくなった。

浅い場所に戻ってくると、ポツンと1つのサンゴの根にケラマハナダイの鮮やかな群れが集っていた。子作りに励む婚姻色のオスも多く、こちらはハーレムというよりも、オスが集まってホバリングしながら「お前どの娘が好きなんだよ?いってこいよ!告白してこいよ!」と、話し合っているかのような状態だった。

根の割れ目には、アクアリウムで人気のタテジマキンチャクダイの幼魚がいた。すぐに岩の隙間に逃げていく習性だが、わざわざ右・左・正面と向きを変えて撮らせてくれた。もしかして奄美大島の水中生物はダイバーのことが好きなのか…。

タテジマキンチャクダイの幼魚

タテキン幼魚の後ろに捕食者のシルエットが…

メインの根は、砂地とサンゴとスカシテンジクダイという夏の風物詩が見られる場所。まだ生まれたてくらいのサイズの群れだったので、これから6月・7月の成長に期待したい。魚の子どもたちの成長を見に、また帰って来たい海。都会で暮らすおじいちゃんおばあちゃんが、遠く離れた島に住む孫と会う嬉しさ。そんな感覚。孫のためなら、旅費も食事代もダイビング代も気にならない。

たった1日のダイビングで、奄美大島の生物豊かな海を感じることができた。

大物、地形とドキドキ・ワクワクのアドベンチャーダイブも気になるが、海の環境保全や生物多様性を守ることが叫ばれる今、「サステナブルなダイビングとは?」を考えるには最高の場所かもしれない。

次回は奄美大島でしか見ることができない固有種の魚。ミステリーサークルを作ることで世界中で話題になったアマミホシゾラフグを探しに行こうと思う。

過去記事はこちらから

  • 濃密なる奄美。奄美大島南部

     

  • アマミホシゾラフグのミステリーサークル。奄美大島龍郷

     

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PROFILE
福岡県出身。18歳からスキューバダイビングを始め、翌年にプロ資格を取得。
22歳でPADIマスターインストラクターとなり、宮古島・沖縄本島・東京都内と拠点を変えつつダイビングスクールで15年間働いた後に観光業専門の広告代理店として独立。

現在はWebサイトのディレクション、Web広告運用、SNSの運用サポートなどデジタルマーケティングを主な生業としている。

オーシャナでは、取材時の写真撮影を担当。
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