ファンダイビング中に洞窟でロストした事故に関する裁判(和解)事例
ファンダイビングでのロスト事故
今回は、ファンダイビングでの洞窟内で起きた事故に関する裁判事例です。
ガイドダイバー2名、ゲストは6名だったのですが、ガイドのうち1名は、エアが少なくなったゲストがいたため、そのゲストと共に先に浮上していました。
残された1名のガイドダイバーは、他のゲストの残圧も少なくなっていることや、そのポイントでのダイビングに慣れていなかったことなどから、かなりの焦りがあったようです。
ゲストの先頭になって案内役を務めるものの、後ろを振り返る余裕などもなく、そして、行きと帰りで同じルートを通るはずだったのですが、誤って予定と違う洞窟に入ってしまいました。
しかし、通り抜けができる洞窟のつもりで入ったのに、入るととすぐに中が急に狭くなり、光も入ってこなくなるため、誤った洞窟に入ってしまったことに気づきました。
ガイドは回れ右をする形で後ろを向き、今度は自分が一番後ろになる形で、自分の後に続いて入ってきたゲスト達を洞窟から押し出しました。
ガイドは洞窟から出るとゲストの人数確認をしましたが、その時点で1名がいなくなっていることに気づきました。
しかし、洞窟に入っていたゲストは確実に洞窟から出したはずで、また、洞窟内は狭いため中にダイバーが残っていれば見落とすわけがないと考え、いなくなってしまったゲストは誤って他のグループについて行ってしまったのだろうと思いました。
そして、エア切れに近いゲストもいたため、その場所で一旦浮上することにしました。
ゲストを海面のブイで待機させた後、ガイドは再度潜降し、いなくなったゲストを探しました。
間違って入ってしまった洞窟にも入りましたが、この先はすぐに行き止まりだろうと思っていたため、自分たちが引き返した地点より先は探しませんでした。
海中で見つからないため、港に戻っているかもしれないと考え、ガイドは他のゲスト共に港に戻り、港でも探しましたが、やはり見つかりません。
とうとう地元のダイバーに援助を求め、捜索隊が結成されました。
いなくなったダイバーが見つかった場所は、ガイドが誤って入った洞窟の一番奥で、ガイドはすぐに行き止まりだと思っていたのですが、実は洞窟はもっと奥まで続いて、行き止まりになっていたのです。
裁判での争点
非常に不幸な事故であり、ガイドに落ち度があることは明らかでした。
ガイドも事故者の遺族に真摯に謝罪をしました。
ただし、ガイドからは「自分が洞窟を出るときは、ゲスト全員を洞窟から出したはずで、洞窟内に置き去りにしていない」「事故者は他のダイバーよりスキルがあり、皆から離れて行動するなどするため、注意を与えていた。事故者は皆から遅れて一人で洞窟に入り、皆がUターンしていることを知らず、皆が先の方にいると思って奥まで入ってしまったのではないかと思う」という話もありました。
事故の発生原因に事故者の責任が存在する可能性があり、裁判となりました。
裁判でも事故者がいつこの洞窟に入ったのかが重要な争点となりました。
もし、ガイドが主張するように、ガイドがゲスト全員を洞窟から出し、事故者が皆から遅れて一人で洞窟に入っていたのであれば、集団から離れてしまった事故者にも一定程度の責任があると考えられます。
現場の状況を確認するため、現地のインストラクターの方などにお願いして、私自身もこの洞窟に入ってみました。
ガイドが引き返した付近の状況を説明するために写真やビデオを撮影し、裁判所に証拠として提出しました。
裁判所も事故の発生原因などを判断するための資料として、洞窟内の写真やビデオには非常に興味を持ったようです。
ガイドの証人尋問などが終了した後、裁判所から和解勧告がありました。
ガイド側も遺族側側もこのような事故は二度と起こしてはならないという強い思いがあり、その思いを入れた内容で和解が成立しました。
訴訟を通じて考えること
明らかにガイド側に複数の過失が認められる事故です。
ただし、それでも「事故発生の原因に事故者が関与しているのか」、関与していた場合、「その割合はどの程度になるのか」が争点になりました。
「自己責任の原則」が根幹にあるダイビングでは、ガイド側の責任が明白でも、事故者側の落ち度(責任)も問題になりうるのです。
ファンダイビングの事故では、ゲストがガイドの指示を聞かなかった、カメラに夢中でグループから離れた、バディシステムを守らなかった、明らかなスキル不足があった、器材の基本的な操作ミスがあったなどのゲスト側の落ち度が指摘されることがままあります。
確かにこの事故のガイドの方は、ガイドとして未熟であったと思います。
しかし、ゲストもガイドに人任せにするのではなくて、「自分の身は自分で守る」という意識を持つことが、事故防止の観点からも重要ではないかと思います。