ブランクダイバーへの注意喚起
新型コロナウイルスの感染者数も、日々の国民個人個人の意識によって下降傾向になってきた近頃、様々な活動を自粛されていた方々も、そろそろ趣味のダイビングを再開しようかと考えている方も少なくはないのではないでしょうか?今回はそんな長期ダイビング活動をしていなかった「ブランクダイバー」に向けての注意喚起をテーマに、DAN JAPANトレーニングディレクター矢部拡氏からお話しをさせていただきます。
※本記事はDAN JAPANが発行する会報誌「Alert Diver」2021年WINTER VOL.39からの転載です。
「ブランクダイバー」とは誰のこと?明確な対象者とは?
ある指導団体では、Cカード申請の際の注意書きとして以下のような文章が書かれており、それを了承した上で申請対象者は署名を行い認定完了となります。
多くのダイビングショップでは上記の文章をベースとして、半年以上潜ってない方を「ブランクダイバー」とくくっているところも多いのではないでしょうか。しかし、ひとくくりに半年以上といっても、それまで何十年もダイビングをコンスタントに行っていた方と、初級者講習を終えたばかりでそのまま半年潜っていない方とではきっと同じ状況ではないはずです。
あくまでもこの「半年」というのは目安に過ぎず、大切なことは「ある程度自信を持って認定ダイバーとして活動できるかどうか」が対象の基準といえるかもしれません。
では「自信を持った認定ダイバー」となるためには何が必要なのでしょうか? ここからは、器材、スキル、体調などに焦点を当てて注意点をご紹介していきます。
安全にダイビングするためには器材のチェックから
まず器材ですが、基本的なダイビング器材はたった半年のブランクでは到底故障するものではありません。ただし、あくまでもゴム、シリコン、樹脂、金属の組み合わせで出来上がっている以上、使用の有無に関わらず経年劣化は起こるもの。たまに見かけるトラブルと共にご紹介いたしますので、ご自身の器材と照らし合わせて少し確認してみてはいかがでしょう。
まずはマスクから。こちらはシリコン素材でできているものがほとんどですので、どうしても経年劣化は避けられません。ダイビングする直前、エントリー時にマスク装着する際「ブチっ」と切れてしまうダイバーの方をたまに見かけることがあります。素材自体の寿命ももちろんありますが、保管時に他の器材などに押しつけられてしまい亀裂が入っているようなことも理由として考えられます。ストラップ部分の亀裂などをしっかりとチェックし、何度か顔への着け外しをするとよいかと思います。
またレギュレーターですが、こちらはきちんとオーバーホールされていることが肝心です。各メーカーから発売されるほとんどの機種が、年に一回のオーバーホールを推奨しておりますので、それに従って行うことが重要です。
そもそもオーバーホールとは?器材メンテナンスには念には念を
よく、「使用してなかったから大丈夫でしょ?」ということを言う方もいらっしゃいますが、そもそもオーバーホールとは、故障の有無に関わらず、消耗するパーツ部品を前もって変えるという「予防メンテナンス」をすることです。また、ゴム、樹脂、金属でできている器材であるため、ゴムパーツなどは使用していなくても経年劣化をしますので、その観点からも必ずオーバーホールをすることが大切となってくるのです。
BCDは、オーラルインフレーションを使用してご自宅で膨らませ、どれくらい時間が経つと萎んでいくのかをチェックしておくことをおすすめします。可能であれば、顔馴染みのダイビングショップにチェックを依頼したり、インフレーターなどはオーバーホールを依頼すると安心です。
ウエットスーツ、ドライスーツなどの保護スーツも、ご自宅で一度試着をされる方がよいかと思います。ファスナーが動かない、大幅にサイズが縮んでしまっている、なんてことも想定されます。
いくつかの器材を紹介いたしましたが、あくまでも念には念を入れて、という事を忘れずに慎重な準備を心がけるようにしましょう。
ダイビング当日のイメージを膨らませてログブックをチェック!
次にスキル面です。ダイビングスキルをリフレッシュする上では、まずログブックを見返し、適切なウエイト量、位置をチェックしておきましょう。ダイビングを快適にする第一歩はまずは「ウエイト」といっても過言ではありません。
また、ハンドシグナルや、Cカードを取得した際の教材を見返したり、DVDなどで視覚的に復習をすることもおすすめします。
器材、スキルなどをしっかりと確認していただいたら、最後は持ち物を忘れず確認しましょう。Cカード、ログブックはもちろん、インナーや日焼け対策もしっかりと準備をしてください。
新型コロナウイルス感染症への対策として、以前よりもダイビング前の体調チェックを入念に行なっているダイビングショップも増えておりますので、器材、スキル、持ち物以外にも、ご自身でしっかりと体調の管理を行なってください。UHMS(Undersea and Hyperbaric Medical Society)から新しく発表された「ダイバーメディカル/参加者チェックシート」がDANジャパンのホームページにも掲載していますので、そちらをご覧いただけると具体的なチェック項目がお分かりいただけるかと思います。是非、活用してください。
はじめにお伝えしたように、ブランクダイバーの方は各指導団体の指示にもあるとおり、基本的にはブランクダイバー向けの講習、リフレッシュ講習などを受ける必要があります。
行きつけのショップがある方はそちらに聞いてみるのもいいと思いますし、もし馴染みのショップがない場合は、インターネットでも「ダイビング リフレッシュ」や「リビュープログラム」などと検索すると色々なショップからの案内が閲覧できると思います。
これからの季節は海水温も年間をとおして最も冷たい時期となってきます。そのような場合の注意点もいくつかお伝えしておきます。
まず、ドライスーツなどのインナーは水温に合わせた適切なものになっているでしょうか?グローブやフードなどもこれからの季節は必須アイテムとなるかもしれませんね。減圧障害の観点から見ても、体が冷えてしまい体内循環、基礎代謝が低下することはおすすめされませんので、体温をしっかりと維持できる装備をすることが大切です。また、「トイレに行きたくなってしまうから」と気にされてあまり水分を取らない方も見受けられますが、これは本当に良くないことです。
ダイビングでは想像以上に水分を消費し、汗をかきますので、代謝を落とさないようにするためにも適度な水分補給は必須となります。トイレに行きたくならないようにするためには、カフェインの含まれていないものを少しずつ飲むのがおすすめ。
また、一気に飲まず、少しずつ飲むことも有効です。こういったことを考慮しながら、安全なダイビングを楽しみましょう。
事務局から
DAN JAPANでは、この間「コロナウイルス感染症とダイビング活動」に関する様々な情報をブログなどで提供してきました。また、「コロナワクチン接種後のダイビング」や「コロナウイルス罹患後のダイビング」に関するヨーロッパからの情報についても掲載していますので、ダイビング前に必ずご確認ください。
「巣ごもりダイバー」は基礎体力をつけましょう
このコロナ禍で「巣ごもり」していたダイバーのみなさんは、体力が落ちている(もしかしたら、体重も増えている?)かもしれません(もちろん、復帰に備えてトレーニングを怠っていない方々もたくさんいらっしゃると思います)。ダイビングは、中程度の運動を必要とする活動ですが、状況によっては(たとえば、強い流れなど)、かなりの体力を要する場合もあります。DAN JAPANも協力した、UHMSの「ダイバーメディカル/参加者チェックシート」には、
という質問に「はい/いいえ」のチェックを入れる項目があります。「1.6kmを14分」というのは、早歩きといえますし、「200mを止まらずに泳ぐ」のも、そこそこ体力を使います。久しぶりにダイビングに行く場合は、こうした体力があることを確認することをおすすめします。「昔鍛えたから大丈夫」ということではありません。DAN JAPANのダイビング事故調査(2021年秋号)でも、中高年世代の事故が目立っているのは一目瞭然です。
この間、運動していないという方は、ダイビング復帰前にまず、基礎体力をつけましょう。「1.6kmを14分で歩いて、息切れがしないか」確かめるとよいかもしれません。
メンタルの準備もおこたりなく
しばらくダイビングをしていないと、ダイビングすることになんとなく「不安感」を感じることもあります。自然相手の活動は、とくに「謙虚さ」が必要です。「自分は、本当にこの活動(ダイビング)がしたいのか」虚心坦懐に自らに聞いてみてください。そして、ダイビングをするならば、少しずつ負荷を高めるようにしてください。久しぶりのダイビングでは、ダイビング前に心拍数が高まることが指摘されています。ダイビング前に、ご自分の呼吸が十分に落ち着いているか確認することも重要です。
もし、「ドキドキしている」と気づいたら、バディやインストラクターに、「ちょっともう少し落ち着かせてください」と伝えましょう。そして、無理のない水深でダイビングするようにしてください。浅い海でも、ダイビングは十分に楽しめます。ダイビングは肉体運動であると同時にメンタルが非常に重要な活動です。
心身ともに健全て安定した状態でダイビングに復帰してください。やっぱり、海の中は素晴らしい世界ですから。
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