先っぽ比べ~一つの器材で分かる、テクニカルダイビングの考え方~
今回もスプールに関しての都市伝説の続編(前編はこちら)。
ただし、この話は器材紹介じゃなくて、あくまで、器材は実践で確実かつスムーズに使えなければならない、を重視するテックダイバーの器材に対する”考え方”、器材に対する”アプローチ”の紹介が主眼だ。
テクニカルダイバーは、何かの作業を行った際、上手くいかなかったり手間取ったりしたら「とりあえず何とかなったからラッキー!」とは決して考えない。考えてはいけない。必ず原因と対策を考える。
器材に原因があるのかスキルが未熟なのか、あるいは何か別の要因が潜んでいるか。
いずれにしろ、同じ失敗や手間取りを二度と繰り返さないよう徹底的に解決策を探さなくてはダメ。
次のダイビングでもそれがストレスの元になる可能性があるのはもちろん、重大なアクシデントの引き金や原因になるかもしれないからね。
原因がスキルにあると判断したら、それを克服するまでトレーニングに勤しむ。
器材にあると思われる場合は、器材の側の改善の策を追求することが必要だ。
と、前ふりをしておいて、今回はスプールの糸巻き部分に巻かれているラインがターゲット。
ラインはあくまでただのライン。
だが、そこにはユーザーのスプールに対する意識、それはつまりテックダイブに対する意識や姿勢、ひいてはテックダイバーとしてのレベル等、様々なあれこれが現れがちだ。
例えばラインさきっぽの処理。
写真は私が愛用するスプールのラインの先っぽ部分。
ライン先端が輪になっているのは、スプールにおけるラインのお約束。
何かにラインを巻きつけて起点とする場合、この輪の部分にスプール本体を通すことで巻きつけ&固定する。
よって、スプールには通常、買った時点からこの輪がある。
だが、買った時の輪は恐らく1つ。
この写真のように大小の2連になっているのはユーザーの仕業。
ということで、まずはこの2連の輪に注目していただこう。
恐らく99.9%のスプールユーザーのラインの先端は2連輪仕様になっている。
これはテックダイバーの間では完全な常識なのだが、スプールユーザーでない、あなた、2連が秘めた意味、分かりますか?
・・5分間分の思考のためのスペース・・・スペイン系メキシカンのキレイなオーねーさんの水着姿の写真、見せちゃおっかなぁ~と思ったが、もったいないので、やめた。
いや、写真がないワケじゃない、ホント、見栄張ってるワケじゃない、断じて見せられないんじゃなくて、マジもったいかなら見せないだけ!!!
・・5分経過
そう、先端の小さな輪は、何かにコネクトしたスプールのラインを外す時のおつまみ。
このおつまみがあれば、単におつまみを引っ張るだけでコネクトが解けてスプールを通す大きな方の輪が登場する。
逆にこのおつまみがないと、締まってるラインをほどいて引っ張る必要があり、巻きつけたモノが細いラインだったり、表面の凹凸が激しい岩や錆びた鉄柱だったりすると、これはなかなかの難題。
グローブでもしていれば一種の罰ゲームだ。
よって、この小さな輪を持たないスプールは実戦での活躍経験のない、あるいはほとんどないスプールだ、と、断言して、多分、反論は出ない。
続いて注目して欲しいのはでっかい方の輪のサイズ。
このサイズが小さいスプールは、やはり実戦経験が多くはないと思われる。
何かにラインを巻きつけたり解いたりするためにスプール本体を輪に通す際、狭い車庫にクルマを入れような気苦労があっては扱いにくい。
やっぱり駐車スペースには相応の広さが必要だ。
ただし、輪を広げてスプールの受け入れ体制を作るのは指の役。
だから、輪が広すぎると指に余って安定した受け入れが難しくなる可能性がある。
つまりこの大きな側の輪は、スプール本体とユーザーの手のサイズに応じた適切なサイズであるべきなのだ。
スプールを扱う作業は、不自然・不安定な体勢・時間の制限の中で行う可能性もあるから、無造作に行っても失敗のない仕様に仕上げておくことが大切なわけ。
もう一つ注目して欲しいのは、大きな輪がいびつなこと。
両端を引っ張ると、一方の半径はピンの張るのに、もう一方の半径はだらしなくたるむ。
もちろん、これは輪を作る時の失敗ではない。
この状態にしておけば、ひっぱった時に輪に隙間が空くから、指や手を簡単に通すことが出来るのだ。
お行儀のいい、綺麗な輪は貞操観念が強く、指を通す隙間が出来にくい。
これはスムーズな作業の妨げだ。
さて次は、小さい側の輪の結び目がデカイことにも注目していただきたい。
このデカイ結び目にも当然意味がある。
スプール本体にラインが巻きついている状況からラインを解く際、このデカイ結び目は、指をひっかけるための格好の凸。
ここに指を引っ掛けてラインを引けば、本体部分に巻き付ているラインを緩めるのは超簡単。
視界がない状態でも指先の感覚だけでラインを解くことが出来る。
これが小さい凸だと存在が分かりにくかったり、ラインの峰に埋もれて引っかかり能力が低くかったり、という問題が起きやすい。
特にグローブしていると難易度の高い作業になってしまう。
結果、ラインを解いて本来の仕事にかかるまでの時間にロスが多くなったり、最悪はラインがキレイに解けなくてまごついた手がスプール本体を落としたり、変な出方をしたラインが絡んだり、というシャレにならない状態に陥る可能性も出てくる。
よって、デカイ結び目は、サイズがデカイだけでなく、効能もデカイのだ。
ということで、いかがでしょう、ラインの先っぽだけでも、実践の中で手間取ることなく、スムーズにスプールを使いこなしていけるよう手を加えてゆくと、買った時の、ただ1つのシンプルな輪っか仕様が、こんなふーに変化するのだ。
ただし、この変化には、手間らしい手間もお金もかかっていない。
改造なんて大げさなものでもない。
言ってみればほんの小さな糸細工で、素晴らしい頭脳が求められるような類のモノでもない。
しかし、ノーマルのままのスプールとこの手を加えたスプールでは、使い易さが桁違い。
大げさではなく、極限状態では、この使いやすさが命を左右する要因になる可能性だってあるのだ。
よって、初めに戻るが、テクニカルダイバー(テクニカルダイバーに限らないと思うけど)は、何かの作業を行った際、上手くいかなかったり、手間取ったりしたら、必ず原因と対策を考えて、二度と同じツテを踏まいよう、改善と進化を続けるべきなのであり、使用器材とその扱い、使いこなしっぷりで判断したダイバーのレベルはほとんどの場合、ハズれなしの正解だ。
ということで、この話の先のスプールの使い方なんかも絡めた小規模なスプール談義の会でも開いて冬の夜長の時間を潰すのも悪くないね、という思い付きは、今回もイキにしておく。
なぜなら、スクーバ都市伝説の最後は、今回もこの一言で締めておきたいから。
「この思い付き、実現するもしないも、寺編集長のイチモツ次第です」