「日本水中フォトコンテスト」連載(第1回)

フォトコンが人生の転換点。水中写真家・古見氏の軌跡に迫る。【日本水中フォトコンテスト連載】

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11月1日から作品の応募が開始された「日本水中フォトコンテスト」。グランプリ賞金が50万円、審査員は第一線で活躍する写真家6名という豪華な内容を、先日ocean+αの記事でもご紹介した。

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本記事では本コンテストが企画された背景に注目。そこには水中撮影を楽しみながらも、フォトコンテストでの受賞を目指し作品撮りに励んで欲しいという想いがある。かつては、フォトコンテストに水中写真を応募したアマチュアダイバーが、入賞をきっかけにプロへの道へと進む方もいたからだ。日本を代表する水中写真家・古見きゅう氏(以下、古見氏)もそのひとり。今回は、そんな古見氏にフォトコンテストをきっかけに変わったことや、フォトコンテストに対する想い、そして応募する際のアドバイスなどを伺っていこうと思う。

オンラインにて取材させていただいた

オンラインにて取材させていただいた

ダイビングガイドから水中写真家に。
きっかけはフォトコンテストへの応募

古見氏が、水中世界に大きく興味を惹かれたのは高校生のとき。ぷらっと立ち寄った熱帯魚屋の魚が美しく輝いて見え、「こんな綺麗な魚がいるんだ」と衝撃を受けたという。そこから、「ダイビングをしたらずっと大好きな魚を見ていられる」という思いが膨らんでいき、ダイビングを始める原動力へとなっていった。専門学校卒業後に和歌山県の串本のダイビングショップでガイドとして働き始め、その当時は水中写真家を目指そうとは一切考えておらず、串本にダイビングショップを持ちたいと思っていたそうだ。

では、何をきっかけに水中写真家に転身したのだろうか。まずは、古見氏が水中写真家になった背景について伺っていきたいと思う。

編集部(以下、――)

元々ダイビングガイドとして活躍されていましたが、写真はガイドの頃から撮影していたのでしょうか?

古見氏

当時22歳の頃、ダイビングショップに毎月来てくださっていたゲストの方に、『ダイビングワールド』というダイビング雑誌が主催するフォトコンテストへの応募を勧められたんです。このフォトコンテストは、審査員が自然写真家・高砂淳二さんや水中写真家・中村宏治さんなど錚々たるメンバーで、受賞作品のレベルが高いと言われていました。初めてのフォトコンテストだったこともあり、受賞を狙うというよりは、審査員の方々に「自分の写真を見てもらえたら嬉しいな」ぐらいの気持ちで、婚姻色のイトヒキベラを真横から撮影した写真で応募しました。

――

ゲストの方の勧めが、初応募のきっかけだったんですね!気になる結果はどうだったのですか?

古見氏

嬉しいことに、「アーティスティック賞」という賞をいただくことができました。以降、雑誌や図鑑の制作会社から写真の借用依頼が来て、そのときに「写真でお金をいただくことができるんだ」と知り、写真撮影をプロとしてやっていくことを考え始めました

――

初応募で受賞とは、すごいです!まさに、人生のターニングポイントになった瞬間ですね。

古見氏

加えて、受賞後はありがたいことに一緒に潜りたいとおっしゃってくれるゲストがすごく増えて。僕は、ゲストと一緒のときは、ゲストの方々に海の魅力を最大限に伝え、海を楽しんでもらいたかったので、自分はカメラを持たずに潜っていたんですね。でも一方で、自分でもっと写真を撮りたいという衝動が抑えられなくなってきてしまって(笑)。当時は、ゲストと潜る以外の時間を見つけては、カメラを持って海に入り、狂ったように撮影に没頭していましたね。そんな経緯もあり、最終的にはガイドを辞めて、プロの写真家の道に進む決断をしました。このときは、初めてフォトコンテストで受賞してから3年後ですね。

水中写真家として臨んだフォトコンテストは、“悔しい”思い出ばかり

水中写真家の道を歩み始めてから、数々のフォトコンテストに挑戦してきた古見氏。ここでは、水中写真家として挑んだ、フォトコンテストについてお話しを伺った。

――

今まで挑戦してきたフォトコンテストで、一番の思い出に残っていることは何でしょうか?

古見氏

難しいなぁ。印象に残っていることは、悔しい思い出ばかりで。たとえば『日経ナショナルジオグラフィック写真賞(※1)』では2014年に優秀賞、2016年に最優秀賞をいただいたことがあります。もちろん嬉しかったのですが、そのときのグランプリが、昔からよく知っている写真家・竹沢うるまさんや水中写真家・峯水亮さんだったので、嬉しい反面すごく悔しかったのを覚えています。

 2014年 優秀賞「マトウダイのハンティング」

2014年 優秀賞「マトウダイのハンティング」

2016年 最優秀賞「サンゴの白化現象」

2016年 最優秀賞「サンゴの白化現象」

古見氏

他にも、日本の三大写真賞のひとつとも言われる「林忠彦賞」という写真賞があり、ちょうど自分の写真集『TRUK LAGOON トラック諸島 閉じ込められた記憶(※2)』を出版したタイミングでもあったので、自薦で挑戦してみることにしました。そしたらなんと、最終候補に入っていると言われ、すごくハラハラしました。しかし、ここでも結局受賞ならず…。

さまざまな賞にノミネートしていただいているのですが、毎回最終選考まで残って、グランプリを逃し、次点ばっかりなんです。

――

プロの水中写真家として挑んだフォトコンテストは、悔しい思い出が多いのですね。

古見氏

そうですね。嬉しい思い出が多かったのは、むしろアマチュアの頃ですかね(笑)。当時は無欲でしたし、水中写真を始めて数ヶ月しか経たないうちに撮った写真が、フォトコンテストで日の目を浴びたりしたので純粋に嬉しかったです。

――

ずばり、古見さんにとって、フォトコンテストとはどういった存在でしょうか。

古見氏

お祭りと言えるかもしれません。そして、何より楽しむことを考えています。エントリーをする前はドキドキするし、エントリー後は「もしかして…」とハラハラしたりと、さまざまな感情を味わうことができます。僕自身がそうであったように、人生が変わるきっかけにもなり得るイベントだと思います。かつてダイビング雑誌主催のフォトコンテストがあったときは、それに入賞することが写真を撮る者にとっては名誉だったので、この日本水中フォトコンテストが今の時代に即した格式あるフォトコンテストとして、お祭りのように楽しめる舞台になるといいですね。

※1国際的に活躍できるドキュメンタリー写真家を発掘し、日本から世界へ送り出したいー。そんな願いを込めて創設された写真賞。プロの写真家、プロに準ずるハイアマチュアに応募資格があり、応募写真は自然や人々、社会、文化などさまざま。
※2 商船として生まれながら、徴用され軍用船となり、米軍のトラック大空襲で沈んだ40隻余。そのすべての現在を撮影した渾身の写真集。2015年発売。

日本水中フォトコンテストに応募をしようとしている方へ

――

最後に本フォトコンテストへの応募を迷っている方へアドバイスをお願いします。

古見氏

やっぱり応募しないことには、ドキドキ感もハラハラ感も何も味わうことはできないので、余計なことは考えずに、まずは一歩踏み出して、ぜひ応募してみてくださいチャレンジしてみることで、人生が変わるかもしれません

――

挑戦してみることが大事ですね。あとは、応募には費用がかかり、さらに枚数も10枚と限られていることから、どの写真で応募しようか迷っている方もいると思いますが、いかがでしょうか。

古見氏

どの写真で応募するかは、すごく悩むと思います。でも、悩みながらも絞ることで、自分の写真を見る目が養われることにも繋がるので、じっくりと悩んで納得のいく写真で応募してください。応募枚数は最大10枚までなので、類似カットで応募するのはお勧めしませんが、たくさん応募してみるのもいいかもしれないですね。

――

最後に、応募者の方に期待することはありますか?

古見氏

僕に限って言えば、“すごくストレートな力強い”写真を期待しています。具体的に何とは言えませんが、やっぱり僕は“写真はすべてドキュメンタリー”だと思っているんです。自然の中で魚がありのままに力強く生きている姿などを美しく切り取る。そこにはストーリーがあり、さらに素晴らしい写真には、撮影者の生き様や想いも反映されて見えてくると思うんです。たくさんの応募、楽しみにしています!

――

どのような応募があるか、楽しみですね。古見さんありがとうございました。

フォトコンテストへの応募をきっかけに、ガイドからプロのカメラマンの道へと進んだ古見氏。フォトコンテストでの悔しい経験も多いが、この道を選択したことに対して「最高によかった」と語る。きっと、今回の日本水中フォトコンテストも誰かの人生を変えることになるのかもしれない。ぜひ、一歩踏み出して挑戦してみよう。

古見きゅう氏プロフィール

東京都出身。本州最南端の町、和歌山県串本にて、ダイビングガイドとして活動したのち写真家として独立。現在は東京を拠点に国内外の海を飛び回り、独特な視点から海の美しさやユニークな生き物などを切り撮り、新聞、週刊誌科学誌など様々な媒体で作品や連載記事などを発表している。著書には写真絵本「WAO!」(小学館)、「THE SEVEN SEAS」(パイインターナショナル)、「TRUK LAGOON」(講談社)などがある。

◯2017年
写真展「海の旅人ワオと巡る7つの海」(渋谷東急本店)
日経ナショナルジオグラフィック写真賞2016最優秀賞 受賞

◯2018年
写真展Creative space HAYASHI

◯2020年
写真展「JAPAN’S SEA」品川キヤノンギャラリーS

プロとして、20年間以上活躍。20,000時間を超える潜水取材のキャリア。
撮影コンセプトは【Pay Respect】自然と生き物とそれらを見守り関わる人々に対し、常に敬意を払うことを忘れず撮影し、被写体となる全ての事象の魅力を最大限に引き出せるよう全力で取り組んでいる。

 
詳細や応募については以下をご覧ください。
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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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