「日本水中フォトコンテスト」連載(第5回)

高砂淳二氏(日本水中フォトコンテスト審査委員長)に聞く
フォトコン開催とダイビング雑誌復刊への想い

この記事は約10分で読めます。

第2回「日本水中フォトコンテスト」(以下、JUPC)は2024年1月10日まで応募作品を受付中だ。そこで、第1回に続き審査委員長を務める自然写真家の高砂淳二氏に、日本水中フォトコンテスト開催への想いや復刊するダイビング専門誌についてインタビューさせていただいた。記事後半には応募のアドバイスもいただいているのでお見逃しなく!

想像以上にハイレベルだった第1回

編集部(以下、―――)第1回と第2回で大きく変わった点はありますか?

高砂(敬称略)

入賞数が25から34へ増えました。背景には、第1回で集まった作品が想像以上に素晴らしかったことがあります。第1回は様子を見ている方も多いのではないかと思っていましたが、蓋を開けてみると、すばらしい作品ばかりでした。一次審査の段階から、いい意味で選ぶのがかなり大変でした。やむなく落とす作品も多かったですね。審査終了直後から、審査員の間で「次回は賞の数を増やしたいですね」と話していました。

―――それだけハイレベルなフォトコンテストだったということですね。

高砂

候補がない状態から絞り上げてグランプリを選ばざる得ないフォトコンテストもありますが、JUPCはグランプリ候補がいくつもあって、どれが選ばれてもおかしくありませんでした。私自身、審査をしていて、ワクワクしてとても楽しかったです。他の審査員からも「アマチュアもここまできたか…」という声があがるほどレベルは高かったように思います。

ダイバーと泳ぐマンタ

第1回でグランプリを受賞した「求愛」 撮影/吾川真之

―――第2回も楽しみですね。

高砂

第2回は、賞の数が増えましたので、ますます盛り上がるのではないでしょうか。
新しい審査員の顔ぶれを見ても、第1回に引き続き、実力のあるしっかりした作品が選ばれていくのではないかと楽しみにしています。もちろん、審査員賞は審査員によって好みが分かれると思いますが、それ以外の賞は審査員全員で話し合って決定します。第2回も感性豊かな作品がたくさん選ばれるようなフォトコンテストにしていきたいですね。

「作者の気持ちが乗っている」写真に期待

―――高砂さん自身はどのような作品が集まることを期待されますか?

高砂

今回は、海外で撮影した作品が増えてくるのではないかと楽しみです。昨年は海外渡航が制限される中で日本の海と向き合って撮影した作品が多いと感じましたが、そういう方々が改めて海外で撮影すると、どんな作品になるのか見てみたいところですね。

もうひとつは、 “作者の気持ちが乗っている写真”ではないでしょうか。カメラの性能が向上したことで、パッと見てきれいで上手な写真というのは、たくさん撮れるようになってきました。しかし、単純にきれいなだけの写真からは、作者がどこに感動したのか、どこを見せたかったのか伝わってきません。これでは審査員の気持ちを動かせません。「この作者はこういう面に感動したのだな」とか「この魚のこういう面が好きなんだな」、とか、そういう思いが乗っている写真は別格で、審査する側もそれに応じて気持ちが動きます。ですから、ぜひ自分の気持ちがこもった写真を応募して欲しいですね。

第2回「日本水中フォトコンテスト」の入賞作品は、
ダイビング雑誌『DIVING WORLD magazine』で発表予定

第1回に引き続き、受賞作品は雑誌の企画としてもまとめられ全国の書店やamazonなどで流通する予定だ。その媒体が2024年4月発売予定の雑誌『DIVING WORLD magazine』(仮称)。ダイビング歴の長い方は記憶にあると思うが、1975年から2008年まで出版されていた『ダイビングワールド』の復刊版である。
高砂氏は『ダイビングワールド』の専属カメラマン出身で、新雑誌にもキャプテン(監修役)として携わっている。

―――まず、『ダイビングワールド』誌の思い出からうかがえますか?

高砂

私が『ダイビングワールド』のカメラマンになるきっかけが、まさにフォトコンテストでした。大学在学中にダイビングと写真を始めてからダイビング業界で水中カメラマンとして仕事をしたいと思っていました。どうやったらダイビング雑誌社に潜り込めるか考えた結果、まずはフォトコンテストに入賞することだと思い至って雑誌社主催のフォトコンに応募を始めました。そして、そのうちのひとつだった1985年の『ダイビングワールド』フォトコンテストで初めて入選に選んでいただきました。

それをきっかけに、『ダイビングワールド』を出版していた(株)マリン企画に自分の写真を持って行って「働かせてください」とお願いし、アルバイトとして携わらせていただくことになりました。最初はカメラマン業務ではなく、雑用ばかりでした(笑)。しばらくすると、カメラマンが足りないということで、ダイビングショップの撮影に始まって、徐々に海外のダイビングポイントの撮影にも行かせてもらえるようになりました。

マリン企画社へ持ち込んだ写真のひとつ。ニコノス(フィルムカメラ)で撮影されたもので、初めてダイビングワールドに見開き掲載された記念すべき写真でもある

(株)マリン企画へ持ち込んだ写真のひとつ。ニコノス(フィルムカメラ)で撮影されたもので、初めてダイビングワールドに見開き掲載された記念すべき写真でもある

ダイビングが盛り上がっていた時代で雑誌も売れていましたから、旅行会社と組んだ特集のために世界中を回りました。当時はインターネットもありませんでしたから、雑誌を通じて情報を日本に発信できていることが本当にうれしかったですね。

高砂氏が大きく特集された2004年6月号の『ダイビングワールド』

高砂氏が大きく特集された2004年6月号の『ダイビングワールド』

―――復刊について率直な思いを教えていただけますか?

高砂

やはりうれしいのひと言に尽きますね。私は『ダイビングワールド』という雑誌で育ったといっても過言ではありません。アルバイトで入社し、あらゆる撮影をそこで覚えました。最終的には『ダイビングワールド』主催のフォトコンテストの審査をする側に入らせていただきました。私自身の大特集も組んでいただきました。ですから、同名の雑誌の復刊に対しては、喜びもひとしおです。

『ダイビングワールド』の高砂氏の特集の中では、ダイビングを始めたきっかけから専属カメラマンになるまでの経緯も詳しく語られている

『ダイビングワールド』の高砂氏の特集の中では、ダイビングを始めたきっかけから専属カメラマンになるまでの経緯も詳しく語られている

―――ネットで情報を得る時代に、どのような雑誌にしたいと思われますか?

高砂

やはり、紙の本でしか味わえない、濃い情報や貴重でおもしろいストーリーがぎゅっと詰まった読み物にしたいですね。地球や海に想いを馳せられるような、海に関する深い話が入ってもいいかもしれません。雑誌を作るということは、木を切って、紙を作って、雑誌になるわけですから、無駄にならないように購入してくださった方が長く大切にできるような本になったらいいなと思います。

今改めて思い返すと、『ダイビングワールド』の編集部は根っからのダイビング好きというよりは“編集好き”の人たちが制作をしている印象がありました。読み物としておもしろい雑誌になるよう、真剣に考えて創り上げている雑誌でした。その特色を踏襲して、ダイバーでなくても海好きの人であれば、うなるような本になるといいですね。『DIVING WORLD magazine』の制作には、元『ダイビングワールド』編集メンバーだけでなく、競合誌に関わっていた方たちも加わると聞いていますのでさらにパワーアップするのではないでしょうか。かつての『ダイビングワールド』を手に取ったことがない方も楽しみにしていてください。

フォトコンに応募する方へアドバイス

最後に、高砂氏からこれからフォトコンに応募される方へメッセージをいただいた。

―――上位を狙うカギは何でしょうか。

高砂

単純に綺麗な写真ではなかなか上位には入れません。繰り返しになりますが、自分の想いがこもった写真であること。そして、ドラマを感じる作品ですね。写真のよさのひとつに「1枚でドラマを感じさせる」ことがあると思います。映像は時間かけていろいろな場面を見せることでドラマを感じさせますが、写真はたった1枚で、いろいろなことを想像させることができるわけです。それが写真の醍醐味でもあります。そういう想像を掻き立てる奥のあるドラマを感じる写真は強いですね。

―――応募を避けたほうがいい作品はありますか?

高砂

連続カットを2枚、3枚と出すのは、避けた方がいいかもしれません。審査員からすると、自分の目で作品を選び抜けなかったというマイナス評価の要因になります。ぜひご自身でこれこそは、というものを応募して勝負してほしいですね。

―――フォトコンを目指して撮影する方にアドバイスをお願いします。

高砂

これだ!という被写体に出会ったら、状況が許す限り時間をかけて、撮れるだけ撮ってほしいですね。「撮れた!」といってすぐに次に行かないで、時間を費やすと、「あ、こんな場面になった!」とか、予想もしなかった進展が意外とあります。被写体に迷惑をかけない程度に、じっくりと自分の子どもを最高に可愛く撮るようなイメージで向き合っていると、「自分はこの被写体のこういう面が撮りたいんだな」ということが徐々にわかってきて、ライティングやアングルを変えながら完成型に持っていくことができるはずです。撮影者の想いは、フイルムにも、印画紙にも、そして写真データにも気持ちがしっかり乗り、見る側にもその気持ちが伝わってくるものになると思います。

―――高砂さん、ありがとうございました。第2回「日本水中フォトコンテスト」、そして新雑誌を楽しみにしています!

高砂淳二
高砂淳二

写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て、1989年に独立。地球全体を仕事の場として、水中から陸上、空まで、自然の瞬間を捉え、野生生物、風景、自然現象、星を撮影しながら、世界中を旅している。著書多数。ニコンTHE GALLERY、東京ミッドタウン富士フイルムスクエア、渋谷パルコ、阪急百貨店、コニカミノルタプラザ、ザルツブルク美術館などで作品展を開催。2008年、外務省主催の太平洋・島サミット記念写真展「Pacific Islands」を担当。テレビ、ラジオ、雑誌、トークイベントなど幅広いメディアに出演し、自然への思いや自然と人間との関係を伝え続けている。2018年には宮城県の「みやぎ絆大使」に就任。海の環境NPO法人「OWS」理事を務める。また2022年、世界で最も権威のある写真賞のひとつであるロンドン自然史博物館が主催する「Wildlife Photographer of the Year」の自然芸術部門で最優秀賞を受賞。

Website:https://junjitakasago.com/

日本水中フォトコンテスト概要

応募期間:2023年11月1日(水)〜2024年1月10日(水)
発表:2024年4月6日(土)(東京・池袋サンシャインシティで開催される「マリンダイビングフェア2024」会場内特設ステージにて授賞式および懇親会を実施予定)
審査員(敬称略)
・名誉顧問:中村征夫(写真家)
・審査委員長:高砂淳二(自然写真家)
・審査員:阿部秀樹(写真家)、中村卓哉(水中写真家)、むらいさち(写真家)、上出俊作(水中写真家)


・グランプリ:1点
・準グランプリ:1点
・審査員賞:6点
・優秀賞:6点
・入選:20点
*授賞は1人1賞(審査員賞との重複は除く)

副賞
・グランプリ:賞金50万円、賞状、トロフィー、記念品
・準グランプリ:賞金10万円、賞状、トロフィー、記念品
・審査員賞:賞状、トロフィー、記念品
・優秀賞:賞状、トロフィー、記念品
・入選:賞状、記念品

応募資格
アマチュアの方に限ります。プロの写真家はご応募いただけません。
・応募者の居住地は問いませんが、サポートは日本語のみです。
・応募者が未成年(18歳未満)の場合、保護者の承諾が必要です。
※プロの写真家とは、
-水中、陸上問わず、写真撮影、撮影された作品を販売することなどを生業とされておられる方
-自身が「写真家」と公にわかる形で自称し、活動しておられる方など
(ダイビングインストラクター・水中ガイドなどを生業とされておられても、上記に当てはまらない方は、ご応募いただけます)

対象作品
水中写真(半水面も含む)
・撮影地は、日本国内、海外、問いません。
・使用撮影機材の種類、メーカーは問いません。
・撮影年月日は問いません。

応募方法
「日本水中フォトコンテスト」公式サイトより、応募フォームに必要事項を入力して応募。

応募点数
1人、最大5点まで

応募費用
・1点につき1,000円(税込)。
・クレジット決済になります。
・決済後の返金はありません。

主催:日本水中写真コンテスト実行委員会

日本水中写真コンテスト実行委員会が新たにスタートする水中フォトコンテスト。より多くの方々に水中撮影を楽しみながら、受賞を目指し作品作りに励んで欲しいという想いから、日本を代表するフォトコンテストを目指し、企画された。

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▶︎昨年の受賞作品、授賞式の様子はこちら
▶︎第1回日本水中フォトコンテストの発起人・審査員へのインタビューはこちら(日本水中フォトコンテスト連載)

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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