中村卓哉 “写真絵本”発売記念インタビュー
第8回:辺野古・大浦湾の“写真絵本”に込めた思い(3/3)
いぬたく
今回収められている写真というのは、沖縄に住んでた時の他に、その後に撮られた写真もあるんでしょうか?
中村
はい、ありますね。
撮り始めたのが7年くらい前ですね。一昨年の春ですね、売り込みに行く中である編集プロダクションに伺いまして。その時に大浦湾の写真もファイルの中に入ってたんですけど、「これはどこの海なの?」って訊かれて、「実は一番伝えたいのはこれなんです」という話をしたんです。
「他の沖縄の写真っていうのはダイバーだったら知ってるようなポイントですけれど、大浦湾っていうのは、沖縄本島でもこんなに豊かな海はないと思ってるし、見た目には砂地だとか海の色もモスグリーンだけど、ここには意味があるんです」っていう話をしました。そこから「じゃあ見てもらうターゲットはどうしようか」と考えるようになって、そこでちょうど辺野古に行く機会があったんです。
いぬたく
写真集の発売は決まっていなかったけれど、中村さんの頭の中で構想は進み始めていたんですね。
中村
はい、まだ発売が決まる前ですね。それで沖縄に行った時に、ミナミコメツキガニが干潟の上を軍隊のようにたくさん歩いてるんですね。そのカニが食事をする時って、砂をこしとって食べるんですけど、それを撮りたいなぁと思って。
でも望遠レンズで寄って行ったら、ナーバスなカニなので、足音ですぐ巣穴に逃げ入っちゃうんですよ。どうしたらいいかなぁと思って、そのカニは潮が引いた時に出てくるので、潮が完全に潮が引き切る前から、ウエットスーツ着て三脚カメラ備えて、ずっと腹這いで待っればいいんだ、じゃあ1時間くらい待ってよう、と思ったんです。
すると、潮が引いてきて、だんだんカニが出てくるんですよ。自分は気配を消してるので、どんどん寄ってくるんです。いいぞいいぞと思った時に、地元の子どもたちがね、「わぁ〜」って走り回り始めたんですね、干潟を。どんどんどんどん、カニを引っ込めていくんです(笑)
中村
もう僕が撮影してるのなんてお構いなしですよね、子どもたちは。最初はね、「ちょっと待って〜」って言いたかったですけど、やっぱり自分が部外者なんで。
いぬたく
優しいですねえ。
中村
子どもたちが日常から干潟で遊んでるんだなあって分かって、「じゃあ一緒に引っ込めよっか(笑)」みたいな感じになっちゃって。その時、ふっと「あ〜なんかいいなぁ」と思って。子どもたちに「この海はすごいんだよ」って話をしたいな、と。
例えば大人が辺野古の海のことを話すと、まず基地の問題だとか今までの歴史というところから始まるんですよね。ただ、子どもたちにそれは伝わりにくい。もちろんその子どもたちが大人になって、地元の海のこと・歴史を知る必要はあると思うんですが、まずは純粋にこの海がすごいっていうことを伝えたい。それで、その子たちが大人になった時に「地元の海はこんな素敵な場所なんだよ」というプレゼンができるような、そういう知識を子どもに与えてあげたいなという思いがあって。
それで「この写真集を出せないですかねえ」という話をするようになりました。
いぬたく
中村さんが辺野古で潜ってすごいと思った原体験があって、そこにそういう地元の子どもたちとの交流エピソードなどが加わって、写真集の輪郭がハッキリしてきた、ということでしょうか。
中村
そうですね。
あとは、子どもってすごく素直じゃないですか。写真展やっても、例えばマンタの写真を見て、大人は「どこで撮ったの?」ってなるんですよ。
子どもって「あぁ〜、でっかい!」とか、でっかいイソバナの写真見て「赤い!」とか(笑) なんかすごい素直だなぁ、と。
そこで「じゃあなんでこんなに赤い色になるのか教えてあげようか?実は海ではこういう色は見えないんだよ、海の中で見るとちょっと紫色してるんだよ」って話すと、「はぁ〜」ってすごく興味深そうに聞いてくれるんですね。
ですから、そういう子どもたちの純粋な心のフィルターでこの海を見てほしいと思いますね。
中村
実際に大人になった時に、中には地元を離れて那覇に来たり、内地や東京に仕事で来たりとかいろいろあると思うんですけど、でも子どもの時に感じた地元の海の素晴らしさっていうのはずっと残ってると思うんですよね。自分もそうだったように、子ども時代の体験っていうのはずっと残りますから。
ですから、まずは子どもの時に、地元の海の素晴らしさを知ってもらいたいですね。
いぬたく
そうですね。 もちろん地元の子どもだけじゃなくてもいいわけですよね。都会の子どもが辺野古の写真を見て「ああ、日本にはこんなに綺麗な海があるんだ」ということでも。
中村
はい、そうですね。
いぬたく
よく分かりました!