バショウカジキスイムweek4 激しい雷雨を突き抜けて3時間のスイム

メキシコ、バショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

4日目、風もさらに強くなり、空は厚い雲で覆われていた。
島はまだ雨が降っていなかったけど、向かう先には、怪しげな雨雲が広がり、時に稲光が走った。

(この状態でバショウカジキ出ても、泳げないよな〜)
そう思いながらも、この雨雲に囲まれているおかげで、波が多少弱まってくれていることも確かだった。

他のフィッシングチャーターボートも次々に海に出て行った。
同じ会社のボートに乗るゲストと仲良くなり、他の海ではこんな魚が撮影できるよという話をしてもらった。
大物撮影になってくると、ダイバーからよりも、こうしたフィッシャーマンから情報を得ることが多くなってくる。
その彼に、「もしバショウカジキの群れ見つけたら連絡して下さいね」と伝えて、お互い港を後にした。

昨日群れを見た、島から8マイルのエリアを捜索。
その周囲は雨雲で覆われていて、この範囲しか捜索できそうにない状態だった。
グンカンドリはいるものの、バショウカジキの鳥山は立たない。

しばらくして、先に出た同じ会社のボートキャプテンに、ロヘリオが無線で連絡を入れる。
すると、鳥山が立っているとのこと。
僕が「場所は?」と訪ねると、ロヘリオが笑って指を指す。
その先には、激しい雷雨を伴ったどす黒い雲の塊が・・・。

「え?あっち?」
そう訪ねる僕に、「あの向うだ4マイルくらい北。いくつか鳥山が立ってるそうだ」と答えながら、伝えられた方位を、船の舵輪の脇の部分に、鉛筆でいつものように殴り書きをする。

「あっちか〜」と思いながらも、この天候では、確実に鳥山が立っている現場に早く行って、早く見せて引き上げた方が良い。
フィッシングもあの雷雨の下ではやってないだろうから、抜けるまでの辛抱か。と同意した。

しかし、雨は思っていた以上に激しかった。
周囲が見えないくらいの豪雨。
GPSが無ければ方向もままならない。
たまに、GPSと船の前にある羅針盤を見比べる。
GPSが北に進んでいるはずなのに、羅針盤は違う方向を差しているように思えた。

おまけに、すぐ近くで何度か雷が落ち、思わず金属部分から手や足を離した。
ロヘリオを見ると、彼も苦笑いしている。
「あと、30分くらいで抜けるよ」と言うロヘリオに「30分?」と聞き返すと、「多分ね、多分」と言ってまた呆れたように笑う。

空を見上げた。
そんな激しい雨の中、グンカンドリたちが飛んでいるのを見つけた。
「こんな豪雨の中でも飛んでる・・・」しばらく見ていると、身体をぶるぶるっとふるわせて、ずぶぬれの全身から水気を払っていた。
どうせすぐにまたびしょ濡れになるのに。

少し、明るくなってきた。
雨も小雨になり、前方に3隻の船が見えて来た。
同じ会社の船もそこにあった。
しかし、相変わらず周囲は厚い雨雲に覆われた状態。青空の一かけらも見えない。
それでも、空には沢山のグンカンドリたちが翼を広げて悠然と飛び続けていた。

(なんか、青空の下で飛んでる時より、かっこいい)
そう思いながらも、(この鳥の群れに雷が落ちたら、すごい焼き鳥になっちゃうのかな)と、上空を舞う何羽ものグンカンドリを目でなぞりながら、バリバリと雷が落ちるルートを想像したりした。

メキシコ、カンクン沖のグンカンドリ(撮影:越智隆治)

3隻の船のうち、一隻の前に巨大な鳥山が立っていた。
少し入れさせてもらえないかと連絡を取ると、譲ってくれるという。
その船の名前はリーサルウェポン。
(この天候のときに、群れ譲ってくれる船の名前がリーサルウェポンね)とちょっと笑ってしまった。
皆には、フロートの付いたベルトを携帯してもらい、「もし群れが移動していて、付いてこれない人がいたら、その人のペースに合わせます。船に上がるときは、一度に上がらないで、気をつけて下さい」と伝えて、鳥山に接近してエントリー。

メキシコ、バショウカジキスイム(撮影:越智隆治)

バショウカジキの数は40匹程度。
まだ微妙に移動していた。
4名中、3名はその移動速度に付いて行ける泳力があった。
僕は顔を上げて、高波の中、もう一人に声をかけた。
「大丈夫ですか!」という問いに、「ちょっと無理!」と返事が返ってきたので、「じゃあ、一旦上がりましょう」と声をかける。
リピーターの女性が気づき、戻ろうとしたが、「3人は群れについていていいから!」と伝えて、追いつけない女性と一緒に船に戻る。

戻ると自分はすぐに群れの方へ。
しばらくすると、完全に止まった。
船の方を見ていると、止まったのを確認したのか、その女性がまた海に入ってきて、全員でバショウカジキの捕食シーンを撮影し続けた。

しかし、雲が厚く、シャッタースピードを上げるには、ISO4000まで上げなければ行けない程の暗さだった。
空を見上げ、あの雷雨がこちらにやってこないかをチェックしながら撮影を続けた。
もし、こちらに来るようなら、すぐに船に戻るよう、皆に伝えなければいけない。
しかし、雷雲はこちらから徐々に遠ざかって行った。

止まったイワシ玉に付いて、捕食に来るバショウカジキを撮影し続ける事、3時間。
激しく海面を舞っていたグンカンドリもいなくなり、バショウカジキの数も10匹くらいに減った。
一人の女性が、波酔いして、船に引き上げる。

船を見るとロヘリオとウヮンが(下はどうなってるんだ?)というゼスチャーをしていた。
僕は、下にまだいるよという合図を返す。
(そろそろ終わりにした方がいいかな)
そう思い、イワシについて撮影を続ける皆の前に出て、「イワシの群れからちょっと離れて下さい」と伝える。
皆に後退してもらった直後、僕らが側にいたので、警戒しながら捕食をしていたバショウカジキたちが、一斉にイワシ玉に群がり、あっという間に食い尽くした。

この状態で、3時間のスイム。
時間はまだ12時くらいだったけど、引きあげる事にした。

これで、week4は4日間で4日間の遭遇。
合計で、19日間で、13日間の遭遇。
最終日、もし見れれば、7割の大台に達する。

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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