クマノミ徹底解説! 種類や特徴、驚きの性転換まで!
鮮やかなオレンジ色の体に、愛らしい顔つきでダイバーやシュノーケラーに人気の高いクマノミ。水族館などでも見られることから、老若男女に知られる生きものです。今回はそんなクマノミの種類や生態を詳しく紹介していきます。
クマノミとはどんな生き物?
イソギンチャクがマイホーム
クマノミとは、硬骨魚類(スズメダイ科)の一グループ(クマノミ亜科)の総称です(“クマノミ”という標準和名の種もいます)。最大の特徴は「イソギンチャクと共生する」こと。水槽など人工的な環境は別として、自然界では「マイホーム」とするイソギンチャクをもたないクマノミの仲間はいません。ときにイソギンチャクから遠く離れて中層に泳ぎ出ることはあっても、危険を察知すると素早く戻って触手の中に逃げ込みます。クマノミたちにとって、イソギンチャクは生き抜いていくためには必要不可欠な存在なのです。
でも、ここで疑問がひとつ。イソギンチャクは刺胞動物。触手に仕込んだ刺胞という毒針で小魚などを捕らえることもある生き物です。クマノミたちはなぜ餌食にならないのか? 実はクマノミの仲間は体表に特別な粘液をもっているため、触手に触れても刺胞が発射されることがないのです。
一方、イソギンチャクにとっても、クマノミの仲間がすみつくことでメリットがあるようです。触手内をクマノミが動き回ることで新鮮な海水が供給され、広がった触手にはまんべんなく太陽光が当たり、イソギンチャクの体内にいる共生藻類の光合成が促進されるのだそうです。また、イソギンチャクの触手をついばもうと近寄るチョウチョウウオなどの小魚をクマノミが追い払うことがあり、両者の関係は「相利共生※」と考えられています。
※相利共生…一緒にいることで互いに何らかのメリットがある共生のこと。片方だけに益がある場合は片利共生、片方に益があり片方に害があるときは寄生という。
世界にクマノミは何種類?
クマノミの仲間は、世界に400種以上を数えるスズメダイ科に属しています。そのスズメダイ科の中でも、「イソギンチャクと暮らす」というユニークな特徴から、特にクマノミ亜科として1つにまとめられています。現時点では、世界にクマノミ亜科は30種。18世紀末から報告され始め、最近では2010年に英名パシフィック・アネモネフィッシュという新種が記載されました(トンガ、フィジーなどに分布)。
ただし、30種のうち2種(英名ティレズ・アネモネフィッシュ、ホワイトボンネット・アネモネフィッシュ)は、セジロクマノミとオレンジフィン・アネモネフィッシュとの自然交雑種と推測され、「独立した種」として扱われないこともあります。水槽内の実験でも、種によって相性はありますが、クマノミの仲間は容易に交雑することが知られています。
また、同種であっても色や模様の変異や乱れはしばしば見られ、アクアリウム業界ではそうした個体を飼育下でかけ合わせ、自然界には存在しない奇抜な模様の「品種」を開発しています。特にカクレクマノミの改良種は人気があり、スノーフレーク・オセラリスなどが知られています(※)。
(※)オセラリス(ocellaris)はカクレクマノミの種小名(学名)。
クマノミの体形と模様
クマノミの仲間は丸っこい体形をしており、これはスズメダイ科に共通した特徴です。体の大きさは手のひらサイズ。比較的小型であるカクレクマノミで最大8~9cmほど、大型となるトウアカクマノミでも最大15cm程度です。
色については、オレンジや赤などの暖色をベースに、白帯や黒い縁取りが入るというイメージですね。でも、暖色部のほとんどが黒ずんでいるケースは結構ありますし、中にはもともと全身が「白と黒」という種類もいます。例えば、マックローキーズ・アネモネフィッシュ(オーストラリアのロードハウ島、ノーフォーク島に分布)やワイドバンド・アネモネフィッシュ(オーストラリア東部、ロードハウ島に分布)。どちらも局所的な分布をする、いわゆる固有種です。
また、クマノミという種類では、ほとんどの個体で体のどこかに暖色がありますが、小笠原に生息する個体群は暖色が一切なく、全身「白と黒」という配色です。
クマノミの見分け方
クマノミの仲間は分類的にも生態的にもよくまとまったグループで、「クマノミの仲間」というところまでは誰でもわかるでしょう。ただ、種の同定となると少々ややこしいというのが正直なところ。理由のひとつに、同種内でも個体によって、あるいは成長過程や環境、生息地などによって色や模様が微妙に変わるということが挙げられます。それを頭に入れた上で、クマノミの種類を調べる重要ポイントとして次のことが挙げられます。
②ヒレの色
③生息環境(内湾の砂泥か潮通しのいい岩礁か、など)
④目撃した地域
特に④はかなり重要です。クマノミの仲間は種類ごとに比較的狭く、限定された海域に分布する傾向があります。逆にいえば、「どこで出会ったか」「どこで撮影したか」は種の同定に際し有益な情報となります。
記事の後半では、日本&世界で見られる主なクマノミの種類を紹介しますので、具体的なことはそちらを参照ください。
クマノミが見られる海
クマノミの仲間が1種でも分布する海は、インド-西太平洋の熱帯・亜熱帯海域。サンゴ礁や岩礁などでよく見られます。特に種類が多いのは日本を含む東南アジアで、その一方、東部太平洋や大西洋には1種も生息していません。意外ではありますが、ダイビングが盛んなハワイ諸島やカリブ海にはクマノミの仲間がいないのです。また、非常に狭い地域だけで見られる、いわゆる固有種が多いこともクマノミ類の特徴です。
●ツーバンド・アネモネフィッシュ(紅海、アデン湾)
●モルディブ・アネモネフィッシュ(モルディブ諸島、スリランカ)
●モーリシャン・アネモネフィッシュ(モーリシャス諸島)
●マダガスカル・アネモネフィッシュ(マダガスカル島、コモロ諸島)
●セイシェル・アネモネフィッシュ(セイシェル諸島、アルダブラ諸島)
●オマーン・アネモネフィッシュ(アラビア半島オマーン)
●チャゴス・アネモネフィッシュ(チャゴス諸島)
●アラーズ・アネモネフィッシュ(東部アフリカ沿岸)
●レッドサドルバック・アネモネフィッシュ(アンダマン海~スマトラ島とジャワ島のインド洋側)
●オーストラリアン・アネモネフィッシュ(オーストラリア北西部)
●バリアリーフ・アネモネフィッシュ(オーストラリア東部~ニューカレドニア)
●マックローキーズ・アネモネフィッシュ(ロードハウ島、ノーフォーク島)
●ワイドバンド・アネモネフィッシュ(オーストラリア東部、ロードハウ島)
●スリーバンド・アネモネフィッシュ(マーシャル諸島)など
クマノミの生態を探る
「ファミリー」に血縁はない?
クマノミは一夫一婦制。同じイソギンチャクに一組のペアで暮らしています。体の大きいほうがメス、小さいほうがオスですが、雌雄差があまりない種類もいます。
ペア以外に、小さな個体が同居していることもよくあります。まだ成長しきっていない幼魚なので、しばしば「クマノミの家族」「ファミリー」と勘違いされていますが、ペアと幼魚たちの間に血縁関係はありません。彼らは別の場所で生まれ、たまたまここにたどり着いた赤の他人。というのも、卵から孵化したクマノミの赤ちゃんたちは、いったん水面へと上昇し、しばらく海の中を漂って過ごします。再び海底に戻るころには、両親の暮らすイソギンチャクからは遠く離れてしまっていることでしょう。
クマノミに性転換が起こるとき
われわれ哺乳類は母体内で胎児を育ててから出産するため、繁殖のための組織や器官、システムが非常に複雑となり、生物学的な意味で性を変えることは不可能です。しかし、卵や精子を作るだけの魚類の場合、性転換はさほど珍しくありません。ベラ科やキンチャクダイ科、ハタ科などでは普通に見られる現象。クマノミの仲間も同様ですが、多くの性転換魚類が雌性先熟(メス→オス)であるのに対し、クマノミは雄性先熟(オス→メス)という少数派です。
クマノミの生殖腺には精巣部分と卵巣部分があり、いわゆる両性具有の魚です。「ファミリー」の中で最も体が大きい個体は卵巣を成熟させメスとなり、2番目の個体はオスとして性成熟するのです。残りの幼魚たちは、ペアが存在する限り精巣も卵巣も未成熟のまま。つまり繁殖に参加できません。
ところが、ある日突然ナンバーツーであるオスがいなくなったとしましょう。すると幼魚たちの中で最も体の大きな個体がオスとして成熟し、ナンバーワンのメスと新たにペアを組みます。また、ナンバーワンのメスが消えたときは、オスがメスへと性転換し、幼魚たちの中から新たなオスが生じます。つまり、「体の大きさ」という社会的地位が性転換、性成熟のトリガーとなっているのです。ただ、周囲にイソギンチャクがたくさんあって、個体の生息密度が高いようなケースでは、オスはオスのままで別のメスとペアを組むこともあるそうです。
クマノミ夫婦は子煩悩
タツノオトシゴやダンゴウオのように、卵が孵化するまでの間、オスが保護するという習性の魚類がいます。スズメダイ科も同様なのですが、クマノミの場合はペアが同じ場所に暮らしているため、メスも育児に関わっています。
イソギンチャクの好き嫌い
クマノミの仲間が共生するイソギンチャクは約10種類。サンゴイソギンチャクの仲間やシライトイソギンチャク、センジュイソギンチャク、ハタゴイソギンチャクの仲間、ジュズダマイソギンチャクなどがよく知られています。
興味深いことに、特定の1~数種のイソギンチャクにしか共生しない種類もいれば、選り好みをしない種類もいます。前者の代表はハマクマノミとスパインチーク・アネモネフィッシュで、サンゴイソギンチャクの仲間でしか見られません。後者の代表はクマノミで、約10種すべてと共生します。その理由としてはイソギンチャクとの生化学的な相性、イソギンチャク及びクマノミが好む生息環境の関係、クマノミの種間競合など諸説あるようです。
日本で見られるクマノミ6種
日本は6種ものクマノミが見られる世界でも珍しいエリア。沖縄や奄美諸島など亜熱帯のサンゴ礁がメインですが、温帯の南日本でもクマノミという種類が見られます。
国内で見られるクマノミを覚えるための標語に、「1ハマ、2クマ、3カクレ」があります。これは「体側の白帯1本はハマクマノミ、2本はクマノミ、3本はカクレクマノミ」という特徴を表しています。ただ、海外では通用しないのでご注意を。
クマノミ~最も分布が広い普通種
標準和名クマノミは、クマノミの仲間を代表する種類。西はペルシャ湾あたりから東はメラネシアまでインド-西太平洋に広範囲に分布し、日本では房総半島以南から見られます。体側に2本の白帯があり、一般に2本めの白帯は1本めと同じ幅かやや太め。
体色や模様は個体や地域、あるいはホストとするイソギンチャクによって様々な変異が見られます。また、地域によっては尾ビレの色で雌雄の識別が可能ですが、南日本と沖縄では微妙に異なることに注意。大きさ10cm程度。
ハマクマノミ~雌雄の区別が簡単
眼の後ろに、黒で縁取られた1本の白帯があることが特徴(小さな幼魚は2~3本の場合あり)。オスや若魚は鮮やかなオレンジ色をしていることから、英語圏ではトマト・アネモネフィッシュと呼ばれます。西部太平洋に分布し、日本では沖縄や奄美諸島でよく見られます。主にサンゴイソギンチャクと共生。大きさ11cm程度。
カクレクマノミ~シュノーケリングでも観察可能
クマノミの中でも一番人気。明るいオレンジに白帯が3本あり、中央の白帯が頭部方向に膨らんでいることが特徴。浅場の穏やかな海域を好み、イソギンチャクからもあまり離れないようです。インド洋の東端~西太平洋に生息し、容姿が酷似するクラウン・アネモネフィッシュの分布とは重複していません。また、稀に自然界でもオレンジの部分が黒化した個体が見られます。大きさ9cm程度。
ハナビラクマノミ~眼の後ろと背に白線
ピンクまたは淡いオレンジという地色で、眼の後ろと背中に白いラインが入ることが特徴。潮通しのいい岩礁などでも見られ、イソギンチャクから離れてプランクトンを捕食することもあります。インド洋の東部~西部太平洋に分布、日本では沖縄や奄美諸島で普通。大きさ8cm程度。
セジロクマノミ~背中に白線がクッキリ
濃いオレンジの地色で、背中に太い白帯1本という独特の模様。日本では奄美大島以南で見られ、フィリピンからパプアニューギニア、インドネシア、オーストラリア北西部に分布。イソギンチャクから離れることはほとんどありません。大きさ11cm程度。
トウアカクマノミ~6種の中では最もレア
日本で見られる6種のうち最も個体数が少なく、本種が見られるダイビングポイントは海洋生物や魚好きのダイバーに人気。 眼の後ろに白い太帯が1本、「腰」のあたりにスダレ状の白い斑紋があることが特徴ですが、個体や地域によって様々なバリエーションがあります。イソギンチャクから遠く離れて行動することもあり、強気な性格なのか抱卵中はダイバーをも攻撃してきます。沖縄からフィリピン、インドネシア、パプアニューギニアにかけて分布。大きさ15cm程度。
ダイバーが出会う世界のクマノミ10選
日本産6種以外にも、海外には20種以上のクマノミが生息しています。その中から10種ほど紹介。なお、海外には日本の標準和名に相当する名称がありません。複数の種を同じ英名で呼んだり、同じ種に複数の英名があるケースが多々あるのでご注意ください。
①オレンジフィン・アネモネフィッシュ
②スパインチーク・アネモネフィッシュ
③モルディブ・アネモネフィッシュ
④クラウン・アネモネフィッシュ
⑤スカンク・アネモネフィッシュ
⑥レッドアンドブラック・アネモネフィッシュ
⑦レッドサドルバック・アネモネフィッシュ
⑧ツーバンド・アネモネフィッシュ
⑨セイシェル・アネモネフィッシュ
⑩アラーズ・アネモネフィッシュ
クマノミの周辺に見られる生き物たち
イソギンチャクと共生する生き物はクマノミだけではありません。次回のダイビングでは、こんな生き物も探してみてはどうでしょうか。
ミツボシクロスズメダイ
幼魚のときは頭部と体側に合計3つの白い点がよく目立ち、イソギンチャクの触手内に身を寄せています。成魚になると10~15cmほどとなり、白星は目立たなくなります。英名スリースポット・ダムゼルフィッシュ。
アカホシカニダマシ
イソギンチャクエビ
クマノミについて詳しく紹介したこちらの記事、いかがでしたか? クマノミは国内でも6種類が見られ、さらに海外では固有種もさまざまなダイビングエリアで見られます。ぜひダイビングやシュノーケリングを楽しむ際には、その海にすむクマノミをチェックしてみてくださいね。