海藻アーティスト・亜紀が語る、海の森とも呼ばれる「海藻の美しさ」とは
ブルーエコノミーといった海洋産物事業が注目を集めはじめている今、これまで見向きもされなかった海藻や海草が話題になっている。海藻や海草は、地上にある森林と同じように光合成をし、二酸化炭素を酸素へ変換して排出してくれる。その過程で貯蓄される炭素をブルーカーボンと呼び、持続可能なエネルギーとして、ビジネスモデルに活用する企業も増えてきている。
これらのことから、海藻が育つ藻場は「海の森林」とも呼ばれており、その神秘的な空間と美しさに感動を覚える。そこで今回は、海藻をアートとして生まれ変わらせる海藻アーティスト・亜紀さん(以下、亜紀)をご紹介させていただく。
なぜ、彼女が海藻に魅了され、アーティストとして活動しているのか。彼女の作品とともに追っていきたいと思う。
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海藻に興味を持ったきっかけを教えてください。
亜紀
私は昔から海の物を集めるのが好きで、貝殻やサンゴなどをコレクションすることが趣味でした。とはいえ、海藻でできたアイテムに興味を示すことは一切なかったんです。海藻に惹かれはじめたのは、友人と訪れたレストランで、大きな海藻の標本が額縁に飾られていたことがきっかけです。それはもう本当に美しくて。その素晴らしい作品を自宅に飾りたいといった気持ちにもなりましたが、海外のアンティークで手に入れるのはきっと難しいのだろうと諦めていました。
けれど、数日が経っても海藻の標本が頭から離れなくて。そしたら、偶然にもそのレストランの方から連絡をいただき、お店に飾られてある海藻の話をしました。
話をしているとその作品は海外のアンティーク商品ではなく、海藻おしば協会会長・野田三千代さんという海藻の辞典や学者さんの標本を手掛けている方の作品だということが判明しました。身近にこんな素敵な作品を作られた方がいらっしゃることにとても感激したのを覚えています。
私は女子美術短期大学という大学を卒業しているのですが、その卒業生の展覧会が沼津で行われると聞いて伺いました。すると会場には、野田先生の作品が飾られていて。早速連絡をとり、野田先生にお会いする機会をいただきました。野田先生の作品は本当に素晴らしく、もっと世界中の方々に見ていただきたいと思っています。
海藻おしば協会(会長 野田三千代)
http://kaisou048.jp/
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巡りめぐっての出会いだったんですね。
亜紀
はい。そんな経緯から海藻をアート作品の対象として見るようになり数年が経ちます。海藻は奥が深く分からないことばかり。私はダイバーでもないので、余計謎が多いと感じているのかもしれません。
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種類も多そうですよね。
亜紀
そうなんですよね。海藻をよく観察しながら、何冊かの辞書と睨めっこしていますが、個体差があまりないため判別が難しい種類もあります。駿河湾の海は特に、世界的に見ても海藻の種類がすごい豊富で。北海道だと200種類って言われているんですが、伊豆近辺は400種類もあると言われているんですよ。
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伊豆ってすごいですね。
亜紀
そうなんです!はじめは『本当かな?』と思っていましたが、今Instagramで世界の人と繋がって海藻の投稿などを見ていると、世界的にも伊豆界隈は、やはり種類が多そうだという事にきづきました。また、地球上に色々な海藻が分布しているんだということも知りました。海藻はいつも海岸に落ちているものではないため、一期一会の出会いを大切にしています。
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そこから海藻をアートにするようになったんですか?
亜紀
私は海藻を押葉や標本にするというよりか、なんでもアレンジできたら楽しいなという対象として見はじめました。
例えば、海藻をドライフラワーのようにできないかな、なんて考えていました。プリザーブド(※)も挑戦してはみていますが、湿気を物すごく吸うので除湿がうまくできず、作品がうまく仕上がらないんですよね。冬は乾燥した状態を保っているんですけど、その辺は思考錯誤しながらです。
(※)プリザーブドとは、生花や葉を特殊液の中に沈めて、水分を抜いた素材。「プリザーブド」の馴染み薄さから、一時期はブリザードフラワーという誤った呼称も広がった。
参照:Wikipedia
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乾燥させるだけでも、難しいんですね。
亜紀
紙の素材にも気を使いますし、始めの頃はカビてしまうこともありました。作品や海藻の厚みによっても変え、工夫しながら、基本的に紙や布の間に海藻を挟んで押します。厚い海藻だときれいに乾きにくいし、くたってしまうので難しい部分もありますが、天草のような細い海藻だと一晩干せばきれいに乾きます。
亜紀さんの作品
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作品を通じて伝えたいことはありますか?
亜紀
海藻に触れはじめてから、海に関わるたくさんの人たちが『昔に比べ海藻が激減している』と口を揃えて言うのを耳にしてきました。日常生活に関わる資源に比べたら、人があまり干渉しないところで危ない状況になり、その現状に気づくのが遅れてしまうんですよね。例えば、ミツバチが減ってしまっているという問題もその一つ。
そこから「視野を広げて地球環境に目を向けたら良いかな」という発想になり、考えるきっかけになったのが海藻でした。釣り人から見た海、ダイバーから見た海、魚を食べている消費者から見た海、みんな同じ海を見ているようで、全然違う景色を見ているような気がしています。良い・悪いとかではなく、いろんな価値観があることを海を通じて考えさせられることがあります。
また、より多くの人に海藻の美しさを知っていただき、少しでも海に恩返しのできる活動をしていけたらと思い、売り上げの1%を海を守る団体へ寄付することも始めました。これからも、海を守っていくために作品を作り続けたいと思います。
ー亜紀さんありがとうございました。
ブルーカーボンといったエネルギーとしてではなく、海藻本来の美しさに惹かれた亜紀さん。海藻が持つ可能性は広がるばかりで、その世界観に興味を抱く人もいるのではないだろうか。未来の私たちの生活を支えてくれるかもしれないブルーカーボンを、オーシャナではこれからも注目していきたいと思う。
成澤亜紀
kia.seaweedは海藻の宝庫とも呼ばれる静岡県の駿河湾を拠点に活動。駿河湾に漂流した個性豊かな海藻達を丁寧に採取し、アートピースとして再生している。海藻との出会いは一期一会、この出会いがあなたにとって素晴らしいものとなりますようにと願う。
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