フリーダイバー・HANAKOの活躍に迫る 《前編》試練を越え、世界の頂を目指す——HANAKOが語る“自分への挑戦”

深い静寂の中、ひと息で潜る——。

世界の舞台で挑戦を続けるフリーダイバー・HANAKO。

プールでも海でも数々の日本記録を塗り替え、世界トップクラスの存在である彼女だが、その道のりは決して順風満帆ではなく、輝かしい記録の裏には、静かな闘いと幾度もの挑戦があった。

本記事では、そんなHANAKOの今季の軌跡と、挑戦の裏にある心の動きを辿る。さらに後編では、彼女が長年の“相棒”と呼ぶTUSA Sportのギアへ思いも紹介する。記録だけでは語れない、HANAKOの“潜る”という生き方を見つめたい。

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今シーズンの振り返りと、奇跡のダイブ

――今季もひと段落ですね。相変わらず海でもプールでも大活躍でした。たくさんの記録を更新しているので、まずは昨年からの1年間の主な戦績を整理してみますね。

プール競技

  • ・2024年11月台湾
    2024 Asian Freediving Indoor Invitational Championship (CMAS) DYN※1 250m 日本記録
  • ・2025年3月鈴鹿
    AIDAフリーダイビングプール日本選手権2025DYNB※2 228m 日本記録
  • ・2025年7月和歌山
    34nd AIDA Freediving World Championship, Wakayama 2025 DYN 269m 日本記録・CR・銀メダル
※1 DYN(ダイナミックウィズ・フィン)主にモノフィンでプールで平行潜水
※2 DYNB(ダイナミックウィズ・バイフィン)主に2枚フィンでの平行潜水

海洋競技

  • ・2024年9月鹿児島
    AIDA Volcano Cup 2024 CWT※3 111m 日本記録
  • ・2024年10月ギリシャ
    2024 CMAS 8th World Championship Freediving Depth GreeceCWT 113m 日本記録・銀メダル
  • ・2025年10月ギリシャ
    2024 CMAS 8th World Championship Freediving Depth Greece CWTB※4 93m 日本記録
※3 CWT(コンスタント・ウエイト・ウィズフィン)モノフィンで深度を競う競技
※4 CWTB(コンスタント・ウエイト・ウィズバイフィン)バイフィンで深度を競う競技

――本当に圧倒的な記録ですね。これはおおむね目標どおりの結果だったのでしょうか?

世界のトップで戦績を上げ、挑戦を続けるHANAKO

HANAKO

いえ、必ずしも順風満帆というわけではありませんでした。ここに残っていない記録の中ではレッドカード(失格)もあります。でもプール競技については、最終的に思った以上の結果を出せて満足しています。

和歌山のDYN269mは、自分でも“奇跡的なダイブ”というか…。練習ではここまでのロングダイブをしていなかったのに、あの日は自分でも驚くような集中状態に入って、気づいたら泳ぎ切っていた感じです。

「250mの壁に届けばターンはできる」と信じていましたし、体がそれを理解してくれていた。だから泳ぎながら“できる”という確信があったんです。結果的に想定以上の結果が出て本当に嬉しかった。

「息を止めてプールを平行に泳ぐ距離を競うDYN」 photo by TakuyaTerajima

レッドカードからの再起、崖っぷちで見せた勝負強さ

――和歌山では、最初の種目のDYNBでレッドカードがありましたよね。そこからの自己ベスト更新は本当に見事でした。どうやって立て直したのですか?

HANAKO

そう、最初の失敗はショックで落ち込みました。でもそういう場面はこれまでの大会でも何度もあって、そこで「次は絶対に取る」という気持ちが湧いてくる。あの切り替えの瞬間、自分でもスイッチが入るのが分かるんです。

私はそういう崖っぷちの方が集中力が高まります。プレッシャーがある方が力を出せます。大舞台ほど、本番になるほど集中できる。緊張や怖さを含めて全部を楽しんでいる感じというのかな。失敗や悔しさがある方がいい結果につながる。そうやって、プレッシャーを力に変えるタイプなんです。

試練を乗り越えて見事にDYN269mで日本記録を樹立!

海洋競技での試練、奄美からギリシャへ続いた挑戦の夏

――続いて海洋競技についても聞かせてください。

HANAKO

海洋は、本当にいろいろありました。結果としてCWTは目標には届きませんでした。去年の113mの手応えを感じていたので、次の目標を120mと定めていました。世界記録が123mだったので、その少し手前を自分の挑戦ラインに設定しました。照準はギリシャの世界大会。多くの人が見てくれる大舞台で結果を出せたら、と思ったんです。

練習は前半を奄美、後半を鹿児島で行いました。鹿児島は国内で唯一100mの深度を安心して潜れる練習環境が整っています。8月の上旬からそこを拠点にして深度を上げていこうと思っていました。でも、奄美での事前練習の段階で体調の違和感や不調があり、なかなか思うように進めませんでした。

奄美では医師でもあるフリーダイバーの石畠彩香さんに相談しながら、「潜りたいけれど怖い」という気持ちと向き合っていました。回復後の最初の2週間は、10mや20mでも体が震えたり、息が乱れたり。緊張で吐き気が出る日もありました。

でも、“大会があるからやめられない”。そう思って少しずつ潜っていくうちに、体が思い出してくるのを感じました。意識は怖がっていても、体はちゃんと動いてくれる。潜ってしまえば集中できて、水圧にも柔軟に対応してくれる。そのうち、「体を信じよう」と思えるようになりました。

「意識は怖がっていても、体はちゃんと動いてくれた」と試行錯誤を語るHANAKO


――ギリシャ直前まで鹿児島で調整していたのですね。

HANAKO

はい。最終週には100mを超え、110m、と伸ばして「いける」と感じていました。でも少し無理をして耳を痛めてしまって。結局ギリシャ入りしてからはしばらく、水に入らずに安静にしていました。

それでも大会には出たくて。奄美の仲間にも相談していました。ずっと支えてくれたドクターの石畠さんからは「最終的にはHANAKOさんの意志を尊重します」と言ってもらいました。共にギリシャで参戦した、奄美の仲間でもある矢部紀行選手は特に一番近くで見ていてくれて、怖かったと思うけど最後まで見守ってくれた。本当に感謝しかないです。

前日まで海に入れなかったけど、耳の状態が回復しているのを感じて、最後の競技のCWTB93m、日本記録に挑戦しました。潜った瞬間、あの水の中の感覚が一気に戻ってきて、「ああ、やっと潜れた」と。もうただただ嬉しかった。あのダイブは、技術とか記録以上に、心の底からの感謝の気持ちがこもっていました。

ギリシャで日本記録に挑む直前のHANAKO

――華やかな活躍と思いきや、まさに波乱万丈のシーズンでしたね。

HANAKO

本当にそうでした。夏はずっとトラブル続き。でも、それを全部経験できたことで、今は前よりも強くなれた気がします。奄美の仲間、鹿児島のボルケーノカップのスタッフの皆さん、みんなに支えられて、なんとか最後まで走り切れました。

帰ってきたとき、「無事でよかった」といろんな人に言われました。どれほど多くの人を心配させたか…。その言葉の重みを、これまでで一番感じました。こんな経験をした、私からもみんなに伝えたい。「フリーダイビングは安全第一で」。

国内で進化する“フリーダイバーの聖地”、奄美と鹿児島の海

――深く潜れる練習環境が日本国内にあるのは大きいですよね。

HANAKO

本当にそう。これまでは海外でのトレーニングが必要でした。日本に1か月もトレーニングベースを置いたのは初めてでした。鹿児島には深度プラットフォームがあり、信頼できる仲間たちもいて、100mを超える練習が日常的にできる。奄美も合わせれば、国内でこれだけ整った環境は本当に貴重だと思う。

海外遠征をしなくても、ここ日本でそれができるのは本当にありがたいです。鹿児島も奄美も、これから国内外からもっと多くのフリーダイバーが集まってくると思います。

桜島が見える、日本で随一のフリーダイビングスポット。この海で2024年9月に111mの日本記録を樹立した

世界のトップレベルの中で、自分との戦い

――最近は女子でも海では100m、プールでは250mを超える選手が増えています。周りの進化の中で、ご自身の現在地はどう見ていますか?

HANAKO

大会中は自分の記録を更新することだけに集中しているので、あまり周りを意識していません。でも結果を見て世界のレベルを実感します。全力で潜っても金メダルに届かない。その差を痛感するたびに、「世界は進化している」と感じます。

でも、それが面白い。そういう中でも最終的に競争相手は自分自身。私は挑戦している自分が好きなんです。失敗も悔しさもたくさんあるけど、それも含めて全部好き。練習環境、一緒にいる仲間、失敗から学ぶこと、記録に挑むこと。そのすべてが私にとって大切で、潜ること自体だけでなく、その過程やライフスタイルも含めて、「これが自分なんだ」と思えるんです。

「最終的に競争相手は自分自身」と語るHANAKO

フリーダイビングの原点と今

――フリーダイビングとともに生きているHANAKOさんのルーツについても聞かせてください。

HANAKO

祖父母が住んでいた伊豆七島の御蔵島が私のルーツです。子どもの頃からイルカと泳いで海に親しんでいました。最初は遊びの延長でしたが、高校生の時に映画『グラン・ブルー』を観て、「もっと深く潜りたい」と思って。そして何故か「世界記録を取る」と根拠のない自信を持って、すぐにスクールに問い合わせました。

そのときに、フリーダイビングの第一人者である松本恵さんに出会い「世界で戦うには語学も必要」と教わり、海外での挑戦を意識するようになりました。

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奄美大島の海とともに生きる暮らし

HANAKO

今の奄美大島での生活も海と切り離せません。奄美はプールもジムも海もそろっていて、仲間もいる。天気を見て海に行く、体調で調整する。フリーダイビングが“日常”の中にあるんです。トレーニングだけではなくて、綺麗なサンゴ礁の海が日常の遊び場です。

それに食も大切。練習している海で美味しそうな魚が泳ぐ姿を見ながら、「生きている海」を実感します。家の片隅で野菜を育てたり、オフシーズンにはタンカンとか、パッションフルーツとか、野菜とか・・畑のお手伝いをしたり。自然がいっぱいの島では、潜ることと食べることが密接で切り離せないものになっています。

サンゴ礁の海で泳ぐことも日常の延長

HANAKOから読者へ

――まだまだ聞きたいお話もたくさんありますが、そんな中で、これからもさらにトップを目指していくHANAKOさんから、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

HANAKO

フリーダイビングってエクストリームで危険なものと思われがちだけど、実は「自分と向き合う時間」なんです。ぷかぷか浮かぶだけでもいい。深さや記録だけがすべてじゃない。私もただただ、海で自由に泳ぎ回ったり、ぷかぷか浮かぶ時間も大切にしています。自分の心地いい範囲で潜ることが一番。

競技として記録を目指す人もいるけれど、それだけがフリーダイビングの魅力じゃないと思っています。自分を知ったり、表現したり、創造的で自由な時間。誰かのやり方を真似するのではなくて、それぞれが“自分の潜り方”を見つけていってほしい。

それぞれのスタイルを大切に、楽しんでもらえたらと思います。

「それぞれが“自分の潜り方”を見つけていってほしい。」と語るHANAKO

――ありがとうございました!後半はそんなHANAKOさんが選ぶ、素潜りと器材についてお話をお聞きします。
(続く)

聞き手:武藤由紀

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HANAKO
HANAKO
フリーダイビング日本代表選手。幼少期から御蔵島でイルカと泳ぎ育った原体験から、フリーダイビングの世界へ。ダイビングインストラクターとして働きながら、フリーダイバーとしての競技活動をはじめる。2017年に世界大会(バハマ)でCWT103mに成功し、世界記録樹立。2018年には、世界大会(バハマ)にてCWT106m、2度目の世界記録を樹立。今年も数々の日本記録を更新し、世界トップクラスの競技者として挑戦を続けると同時に、インストラクターや水中モデルとして海の魅力を伝えている。

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世界80ヵ国以上で使われている総合ダイビング器材メーカーのTUSAが、今年から本格的に展開を始めたスキンダイビングブランド。HANAKO選手がアドバイザーとモデルを務める。

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PROFILE
神奈川県葉山町を拠点に活動するフリーダイバー。Apnea AcademyAsia,AIDAフリーダイビングインストラクター。素潜りスクール「リトルブルー」代表。子供から大人まで幅広い層に素潜りを通じて海や自然との関わりを伝える活動を展開している。2011年より日本代表選手として世界大会に出場。現在も選手として挑戦を続けている。公式記録はCWT-70m。
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