水中写真がグランプリ! 〜日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2017 表彰式&受賞者スピーチ〜
2018年2月19日(月)、「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞 2017」表彰式が開催されました。
6回目を迎える同写真コンテストでは、応募者数315名、636点の作品が集まり、昨年度に引き続き、水中写真がグランプリを受賞。
また、ネイチャー部門の優秀賞にも1点入賞しました。
グランプリを獲った粕谷徹氏のスピーチ、また、審査委員である写真家・中村征夫氏の講評などを、受賞作品とともにお届けします。
2度目の挑戦でグランプリ!
粕谷徹氏の受賞作品・スピーチ
グランプリを受賞した作品は、昨年に引き続き水中写真。
受賞した粕谷徹氏は、昨年も優秀賞に入賞し、2度目の挑戦でグランプリ受賞となりました。
「命をつなぐ」 粕谷徹
以下、粕谷氏のスピーチです。
この度はこのような大きな賞をいただき、ありがとうございます。
昨年ネイチャー部門で優秀賞をいただいてこの場に立たせていただきましたが、そのときのネイチャー部門は、最優秀賞の1人が古見きゅうさん、グランプリが峯水亮さんでした。
このお2人がとても高い山の頂に立っているように感じ、また、そんな高い山にいつか登ってみたいと思っておりました。
そんな記憶が新しい去年12月、グランプリ受賞の連絡をいただき、とてもびっくりしたのを覚えています。
「一歩一歩険しい山道を足を踏み外さないよう下を向いて歩いていたら、いつの間にか山の頂に立っていた」。
そんな風に思っている今現在であります。
私が写真を始めたのは、ダイビングのライセンスを取ったのがきっかけです。
その前までは、水上バイクやサーフィンなどで海に親しんでいました。
朝焼けで真っ赤に染まり、日中は日の光を浴びてキラキラと光る、海はそんな風に美しくて、スポーツをする場所だと思っていたんです。
ですが、ダイビングで海に潜り始めてからは、今までのイメージが一変。
真っ青な海、どこまでも見渡せるような透き通った海に、ゆったりと泳ぐ大きなウミガメや、魚の群れ、サンゴの周りの色とりどりな魚たち。
一生物の趣味を見つけたと実感するとともに思ったことが、「これを誰かに伝えたい」。
そして行き着いたのが写真でした。
始めは小さなデジタルカメラで撮り始めたんですが、なかなか思うように撮ることができず、1年も経たずに一眼レフカメラを一式購入。
何年かすると思うような写真がボチボチ撮れるようになってきたんですが、周りの仲間に写真を見せるとどうも評価が芳しくなく、友人に聞くと「ヒレの一部が切れている、周りの環境がわからない、図鑑に載っているような写真が撮れないのか」と、厳しい評価。
そんな時に一冊の写真集に出会いました。
審査員である中村征夫さんの『海中顔面博覧会』(情報センター出版局)です。
写真集には、魚の怒った顔、優しい顔、笑ったような顔、かっこよくてイケメン顔、おばあちゃんのような顔。
私も、こういったダイビングをしない人にも伝わる素晴らしい写真を撮りたかったんだと感じると同時に、周囲の仲間のダイバーの目を気にすることはないんだと実感。
ますます写真を撮ることが楽しくなり、訪れる地域もどんどん広がっていきました。
あのとき写真集に出会っていなければ、きっと海に潜ることも辞めていただろうし、写真を撮り続けることもなかったです。
そういった意味では、中村征夫さんへの感謝の気持ちがいっぱいです。
私はこれまで写真学校に行ったり、誰か師匠について教わったということはありません。
構図やライティングなどの多くを、絵画から勉強しています。
最近は日本画、特に浮世絵が好きで、大胆な構図や色彩などを、なんとか自分のものにできないかと思いながら作品を撮り続けています。
2年後の2020年には東京オリンピック。
世界中が日本を見て注目を集める、そんな時期になります。
ぜひ世界中の人に日本の良さや素晴らしさ、感動を伝えられるような写真をこれから撮っていけたらと感じています。
この度は誠にありがとうございました。
審査委員講評
ナショナル ジオグラフィック日本版編集長
大塚茂夫氏
本日写真賞を受賞された皆さん、おめでとうございます。
今年は組み写真での受賞作品が多く、審査がとても楽しい年でした。
編集者というのは、いろいろな写真の中から、どう組み合わせれば私たちが伝えたいメッセージが伝わるかというのを考えて、写真を選びます。
写真家の方たちが組み写真をが構成するのも、まさに同じような作業じゃないかと感じました。
グランプリの粕谷さんに先ほどお伺いしたら、今回の作品で登場している魚たちは、それほど珍しい魚ではないとのこと。
ただ、「卵を守る」という共通した点があり、それを写真で伝えたかったと伺いました。
粕谷さんの作品を見て感じたのは、いずれも水中写真ですが、必ずしも海の生き物だけでなく、より広く地球上の生き物たちに通じるメッセージが込められているように感じました。
ぜひこれから先も、その広がりを撮り続けてもらえると嬉しいなと思います。
他の方々の受賞作品についても、幅の広いテーマで撮られている作品を選べたことがとても嬉しかったです。
ロヒンギャの難民達の苦しい惨状を撮影されている作品や、珍しい光るキノコをずっと追い続けている、ザンスカールの厳しい冬に挑んでいって撮影した作品。
「どうしても見てみたい、どうしても撮ってみたい」。
そういった強い好奇心が、みなさんの作品に共通しているように思います。
まさに好奇心こそ、私たちナショナル ジオグラフィックも、この130年間ずっと追い続けてきたもので、共通するところでもあります。
ぜひこれからもみなさんの好奇心を、写真という形で多くの人に伝えていってください。
今日はおめでとうございました。
審査員講評
写真家・中村征夫氏
第6回 日経ナショナル ジオグラフィック写真賞の受賞者の皆さん、おめでとうございます。
今年もネイチャー部門から審査が始まりました。
机の上に一堂に並べられたさまざまな写真に、「とてもレベルが高いな、かなりの作品が上位に入り込むんじゃないかな」と、そう思いました。
そのあとピープル部門の審査でしたが、例年よりもはるかに優れていて、これはネイチャー部門といい争いになるな……と感じたのを覚えています。
世界の秘境に挑まれていたり、貴重なものを撮影したり、あるいは一瞬を捉えるなど、皆さんさまざまな駆使をされて頑張っておられました。
その中で今年も水中写真がグランプリとなったわけですが、この結果は、僕自身、相当緊張します。
本当にこの作品を世に発表して、我々が選んだと言っていいのかどうかと、責任も非常に感じるわけです。
ましてや、昨年のグランプリも水中写真だったのでなおさらその責任を強く感じますが、やはり「いいものはいい」。
その一語に尽きると思います。
粕谷さんの作品は非常に感銘を受けましたが、まず命というものを非常に丁寧に捉えているなと思います。
このクマノミ、日本には何種類もいますが、この作品を拝見したときにどきっとくるものがありました。
それだけ強い作品だったと思います。
どこにでもいるような、プロもアマチュアもみんなが撮っている作品を、いっぱい撮ったからいいやじゃなく、粕谷さんなりに作画をして、ライティングや照明を非常に凝っているなと感じました。
僕が始めた頃から現在に至って、カメラ、ハウジング、水中ケースももちろんのことですが、水中ライトの発展が非常に大きいと思います。
恐らく、こちらの写真は全部水中ライトだと思うんですが、ライティングしながらバックライトに使ったりですとか、いろいろと光を工夫して撮っているのが非常に素晴らしいと思いました。
ガラスハゼの写真も、ただ一灯のライトだと真っ黒になってしまうので、暗いところを補うように柔らかい光を逆から当てているなど、まるで商品写真を撮っているような感覚で捉えているんじゃないかなと思います。
また、カサゴの仲間でしょうか。これも普通のストロボだと全体が赤くなってしまうところを、ライティングによって、大事な部分だけにポッと光を当てて、そういう光の使い方がとてもうまい方だなと思いました。話に聞くと彼は去年、優秀賞を受賞したのち、プロになったそうです。
これから非常に茨の道が続くかしれませんが、頑張っていってほしいなと思います。受賞された皆さん、本当におめでとうございました。
その他、受賞作品は以下からご覧ください。
「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞」表彰式より(連載トップページへ)
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