ネイチャー部門3作品が水中写真 ~日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2016 受賞者・審査員スピーチ~
2017年2月6日(月)、「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2016」表彰式が開催されました。
5回目(2016年度)を迎える同写真コンテストでは、応募者数315名、597点の作品の中から、初めて水中写真がグランプリを受賞。
前編では、グランプリ受賞の峯水亮氏の受賞スピーチをお届けしましたが、後編では、ネイチャー部門最優秀賞の古見きゅう氏のスピーチや審査員の水中写真家・中村征夫氏の講評などをお届けします。
【ネイチャー部門 最優秀賞】
「白化現象の記録」 古見 きゅう(東京都練馬区)
海の中の小さな変化を
いち早く感じ取って伝えたい
水中写真家の古見きゅうと申します。
今回、私が題材とした写真は、サンゴの白化現象の記録として応募させていただきました。
サンゴの白化現象というのは、例えば、海水温の上昇、もしくは低下、それからオニヒトデの食害など、さまざまな外的ストレスがサンゴにかかると、体に共生させている褐虫藻という植物性プランクトンを放出して白骨化していく、真っ白になってしまう現象のことです。
そういった海の中での変化というのは常に起こっていまして、僕らはそれをいち早く感じ取って、見て、拡散することができます。
これからも、そういった海の中での小さな変化だったり、海の中の面白や美しさ、そういったものをコツコツと撮りためて、また皆さんに見てもらえるような形を作っていけたらいいのかなと思っています。
ありがとうございました。
審査委員講評
日経ナショナル ジオグラフィック日本版編集長
大塚茂雄氏
日経ナショナル ジオグラフィック日本版の編集長をしている大塚茂雄です。
峯水さん、おめでとうございます。他の皆さんもおめでとうございます。
私は、この写真賞が始まって今回で5回目ですが、5回ずっと審査員で見させていただいております。
私は写真を撮ることはあまりしません。いつも心がけて審査をさせていただくのは、技術的なことよりは、その写真に、どれだけ物語があるかというのを心に置いて、応募されてきた方々の作品を見させていただいています。
今回グランプリを取りました、峯水さんの写真、最初見た時に「なんだこれは」と正直思いました。
不思議な美しさに引き込まれるように見入ってしまいました。
そういう5点の写真から、海の中の不思議な物語が語りかけているような気持ちがしました。
古見さんの作品も、すごく実直な作品だなというふうに僕は思いました。
古見さんが愛している海の危機、その物語を私たちに伝えてくれようとする、そういう意気込みが感じられる作品でとても共感ができました。
三井さんの作品も、働く人たちの共感ですね。
毎日毎日しっかりと生きていく、そういう方たちへの暖かい目線、視線というものを写真から感じることができました。
そういう意味で、この日経ナショナル ジオグラフィック写真賞というのは、もちろん写真の賞ですが、私にとっては、その作品がどれだけ、普段気づかないような物語を教えてくれるかということが大切だと思って審査をさせていただいております。
今回受賞された9名の方たちの作品も、それぞれに物語があって、それを自分だけではなく、見ている人に伝えたいんだという、そういう強い気持ちがそれぞれの作品にあるのだと思います。
私は雑誌の編集者ですから、そういう物語を少しでも多くの人に届けたい。
写真家の方たちが、普段私たちでは見過ごしてしまうような事柄を独自の目で見て、それを写真という道具を通して伝えるんだというその意気込みに、私はすごく感動を覚えます。
これからも、峯水さんを始め、また皆さん、どんどん面白い物語を私たちに伝えてください。
今日はおめでとうございます。
審査員講評
水中写真家・中村征夫氏
審査員の中村征夫といいます。
この度は、受賞されたみなさんおめでとうございます。
審査の段階で、まずは第一次審査から始めますけども、できるだけたくさんの作品が最終審査に残ってほしいという願いもありまして、最初は緩めに、少し点数を多く入れさせてもらっています。
しかし、やはり最後の段階になると、非常に力強い作品が残っていくのですね。
今回はネイチャー部門の優秀賞が4点あるのに対して、ピープル部門は2点しかなかった。
これは選考の段階から、ちょっとピープル部門が少し力不足、弱いかなという気持ちを抱きました。
しかし、最後に残った最優秀賞、素晴らしい作品だと思います。
少し簡単に解説させていただきます。
ネイチャー部門は、今回水中写真が3点入りました。
これは僕がえこひいきしているわけでもなんでもなく、逆に水中であるということでかなり厳しくなってしまうんですよね。
恥ずかしくない写真が世の中に出てほしい。
そういう気持ちがありますので、そうとう厳しく判断させていただいています。
クラゲのドレスを撮った、粕谷さん。
撮影地が知床なんですね。
僕も知床で何度も撮っていますが、なにしろ水温が冷たくて、マイナス2度、あるいは0度近く。
その中で、よくこのクラゲの一瞬を捉えたなと思います。
この水のところにクラゲの一番美しいところを持っていくというのは、しょっちゅう動いているわけですから瞬間なんですよね。
クラゲというのは、動きがのろいようでも速いのです。
とにかく構成力がすばらしい。
1点の単写真なんですが、これだけでも力量がわかります。
次回も楽しみにしてます。
そして古見きゅうさんの白化現象の記録。
今年、ずいぶん世界各地で白化が起こりまして、先ほども古見さんから白化の原因というのは説明がありましたけども、今サンゴたちがSOSを発して、苦しい、助けてくれと悲鳴を上げている瞬間ですね。
3週間の間に台風なんかがきて、雨をもたらし、深い海の冷たい水とお湯のような熱い30度を超えた水が撹拌されて水温が下がらないと全部、全滅してしまいます。
3週間の間に台風なんかが来なかったから、このように死んでしまったと思うのです。
この5枚組の写真、非常にもったいないなと思ったのは、14-70ミリぐらいのレンズかなと思うのですが、このレンズを使って同じようなアングルの写真が並んでいます。
1点、イソギンチャクまで白くなってしまったけど、息をふうふう吹きかけて、クマノミが卵を一生懸命に守っている写真もあり、これはこれで効いていると思うのですが、とにかく残念だなと思ったのは、枝珊瑚の広い写真よりも、珊瑚の強烈などアップがほしい。
我々審査員が見て、まずは白化の枝珊瑚ですが、珊瑚には悪いけど、うわ綺麗だな、なにこれ! と目を引く。
しかし、よく見るとこれは珊瑚がまさに死のうとしている瞬間ではないかという写真です。
テーブル珊瑚でもいいし、そんな写真が1点欲しかったですね。
グランプリの峯水さんの作品。
これは満場一致でグランプに決まりました。
本当に驚かされました。
学術的にも非常に貴重な作品ではないかと思います。
相当長い期間かけてコツコツコツコツ誰にも知らせることなく、1人で暗い海の中に潜っていたのではないかと(笑)。
おそらくニューヨークでも多くの方たちの感動を呼ぶに違いないと思います。
本当におめでとうございます。
「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2016 受賞作品」からご覧ください
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