スキンダイビングの現状と課題、そして未来へ〜石垣島シュノーケリング専門店・青井さんインタビュー【後編】〜
「正しいスキンダイビングとは何か」を追い求め、石垣島という地でスノーケル・スキンダイビングの啓蒙を続けてきた青井さん。
“無法地帯”の状態から「スノーケリング・スキンダイビングのショップ」というカテゴリを確立し、BSACスキンダイビングインストラクター資格の整備にも携わり、安全なスキンダイビングの普及に努めてきた。
その中で立ちはだかる現状の課題とこれから目指す未来についてお話を聞いた。
スキンダイビングにおける
Cカードの存在意義を問う
青井さん
今年に入って、スキンダイビングのCカードを発行しているお店の方とお話しする機会がありました。
そこでも話題に上がりましたが、スキンダイビングのCカード認定の規準は指導団体によってバラバラというのが現状です。
しかし、僕は、統一化していくべきだと思っています。
ーースキューバダイビングも歴史を経て、特定のランクの規準が統一化されてきた背景があります。
青井さん
スキューバダイビングの場合、初級Cカードだったら、「ここまで修了していること」「潜水は水深18mまで」などと細かな規準が設けられていますし、どこの指導団体でも同じです。
スキンダイビングもスキンダイビングコース、フリーダイビングコースなどが設けられていますが、Cカードは「最低限ここまでのスキルは理解できています」という証明になるためのカードとして活用した方がいい。
そのためにも、最低限の基礎スキルを教えるランクの統一化は必要なんですね。
ーースキンダイビングのサービスを提供しているお店が、Cカードの提示を求める事はあるのでしょうか?
青井さん
僕は、お店に来たゲストにはCカードの提示を求めます。
所感ですが、現状では、提示を求めるお店の方が少ないでしょう。
提示されたものの規準がバラバラなんで・・・。
それだと、Cカードを発行している意味がない。
ハンドブックがあり、講習をして、申請をしないとCカードを手にすることはできません。ゲストにとって、“取得してよかった”って思える環境を指導団体が作り続けないといけないなと思います。
安全・安心にスキンダイビングを楽しむためにはインストラクターから講習を受けようという風潮に持ってこないといけない。
もちろん、現時点でそういう高い価値観の方も多くいます。
また、体験スキンダイビングなどを導入するのは、スクールへつなげていくための遊びの提案ですし。
スクールはスキルよりも手前にある
「意識」を作っていく場
ーー青井さんは、基礎が大切とおっしゃいますが、具体的にはどんなことでしょうか?
青井さん
基礎というとスキルを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、詰まるところ初める頃に教わった、安全が大切だという「意識」を持つことです。
正しいスキルって、最初に教わります。
教わった前提で僕のお店に来ても、「マスクの装着それで大丈夫?」「ウエイト合ってる?」など、指摘して「あっ!」となるゲストは、注意しなきゃいけないってこと自体は分かってるんです。
指摘しても、「あっ!」とならないゲストの方は、その「意識」を持つことの大切さを教わっていないんですね。
正直、スキル不足は経験をしていくことでカバーできるでしょう。でも、安全に対する意識を持っていないと、教わったこともすぐに忘れてしまい、せっかく取得したCカードもただの“お飾り”になってしまいます。
ーースキル面では、どういったところになりますか?
青井さん
スキンダイビングは、水深3mまでにほとんどのスキルが集約されていると言っても過言ではないと私は考えています。
このスキルこそ、僕自身がゲストに学んで欲しいことです。
・潜る前の準備ができること
・エントリー時にやること
・水面に浮かんでいる時にやること
・ダイブスケジュールの管理
・バディコントロールについて
・潜水開始→足先が水没→ワンキックまでの動き
そこまでできれば、あとは息堪えの我慢比べと言っても・・・。
青井さん
水深3mといえば、1.3気圧かかりますね。水深3mまでの耳抜きがきちんとできていて戻せていれば、あとはその繰り返しです。水深3mで1からスタートして水深6mでまた1.3気圧がかかる。そこでまた1気圧に戻し、9mへ。
耳抜きが100%できていれば、息が続く限りどこまででも潜れるよね。
1.3気圧までの世界で何かのスキルに問題が残ったまま水深6mまで潜ると、ツケが回ってトラブルになる。
水深5mで耳が痛くてそれ以上潜れない場合、水深5mでのスキルが問題ではありません。ツケが回ってきただけなんです。
ツケが回らないようにするためには、水深3mまでで正しいスキルを身につけることに尽きます。浅い水深で反復練習を繰り返すことで、上達が望めますよ。
スキンダイビングは、上半身のスポーツなんです。フィンキックも腰でするものですからね。
「上半身の力がいかに抜けた状態でアプローチするか」が肝になるんじゃないかと。
それってすべて3mまでの世界にあるから、そこに集約されていると考えています。
スキンダイビングの
明るい未来に向けて
ーーさて、スキンダイビングの未来をどう捉えていますか?
青井さん
スノーケリングって、マーケットとしては大きいんです。
その人たちに、スキンダイビングの提案をしていければ・・・。スキンダイビングはこれから伸びていく世界だからこそ、今のうちに整備しておかないといけないと思うんです。
ーーかねてより、青井さんは水着だけで潜っているスキンダイバーに対しても、警鐘を鳴らされています。
青井さん
はい。
インスタグラムに水着でスキンダイビングをしている写真を上げる女の子たちが増えてきていることには、危機感を覚えています。
スーツを着るよりかわいく撮れて、写真映えするのも理解できるし、それを見て感動する人がたくさんいる事も理解できる。
けれど、僕から見たら、「潜在的なリスクは理解できているの?」「緊急時に助ける事ができるの?」など、気になる点がたくさんあります。
でも、彼女たちは、そんなこと考えてもないと思うんです。
青井さん
しかも、色々なメディアで、水着でスノーケリング・スキンダイビング・フリーダイビング等をする写真が採用されていることも少なくありません。
リスクがあることを知らずに世の中に発信されていて、それを真似する人が数多くいる、という現状があるんですね。
僕は知識も技術もない人が、水着で泳ぐことを推奨はできません。
“耳が痛い”発言することで、うるさい人だなあと嫌がられることもあります(苦笑)が、恐れずに突き進んでいるところです。
ただ禁止するのではなく、業界全体で考えていい方法を導き出せたらいいんですけどね。
いろんな人と会って、話して、世界観を広げていきたいと思っています。
スキンダイビングで描くビジョン
目指すは「世界一安全な石垣島」
ーースキンダイビングインストラクターをどういう形にしてきたいですか?
青井さん
指導団体の垣根を越えて、みんなが正しいスキルを指導していける環境を作れるようにしていきたいです。
インストラクターは、指導者。読んで字の如く、“指して導く”ものです。
また、インストラクター指導は、“教え育てる”部分も多く出てくるため、教育も入っている指導だと私は考えています。
だからこそ、「正しい」を知っておかないとダメなんですよ。
「正しい」へと導くためなので。
インストラクターの役目って究極のところ「死なないこと、殺さないこと」、そして、「ゲストたちでバディを組んだ時にちゃんと帰ってこれるスキルを身につけてもらえること」だと思うんだよね。
ーー万が一の事態が起こらないようにする。
青井さん
僕、2018年の12月31日時点で、累計6万8000人のゲストを案内しています。
文字通りだと、6人は死んでいる計算になりますね。(笑)
つまり、安全を語るときには、億が一、兆が一の話をしているんです。
時として、控えめなガイディングに物足りないと思うゲストもいるでしょう。
しかし、人の身体的な能力ってそんなに高いものじゃないので、無理したら亡くなってしまいます。
たとえ、事前の申告で「潜れるスキルあります!」と言われても、それを証明するものもないし・・・。初めて会うゲストの方では、無理はしたくないです。
「ギリギリのところで大丈夫だった」は、僕の世界観にはありません。
みなさんの「遊びたい」という気持ちは分からなくないですが、無理をしたら、いつかトラブルが起こりかねません。
こういうリスクヘッジの取り方って、バディ制度にも通づるところがあるんじゃないかな?
青井さん
その中でも、スキンダイビングを引率する者は、プロとして賠償責任保険に加入している必要があります。
BSACをはじめ多くの指導団体は、事故が起こった際に保障するため保険制度を整えてあります。これに加入することは、お店を運営している以上、必要不可欠です。ある意味、マナーと言っても言い過ぎじゃないと思います。
残念ながら、安全への意識が低く、無法地帯のままのお店も見受けられます。
僕は石垣島でお店をオープンしてから、色々なお店を見てきました。その中には見過ごすことができないようなお店もたくさんありました。
昔は自分のお店が良ければそれで良かったのですが、今は、他のお店の従業員のトレーニングも受けるようになり、石垣島全体のスノーケリングやスキンダイビングのことを考えるようになってきました。指導団体の課題や、新しくできては消えるお店など、ハードルはたくさんあります。
でも僕は、諦めたくない。
「世界一安全な石垣島」っていうのを謳えるようになりたい、「世界中で安全意識の強いスポーツ」として発展してほしいという思いです。
ーーありがとうございました。
正直なところ、青井さんに始めてお会いした時には、圧倒的な熱量で「スキンダイビングの安全」について語る姿に面くらいました。(笑)
一方で、その奥行きのある言葉に、この人の歩んできた歴史の厚みを感じ、その背景や考えていることをインタビューという形でじっくり話を聞きたい・・・と編集魂が疼いたのを覚えています。
2019年4月より、週に一回のペースで、スノーケリング、スキンダイビング関連の記事を発信してきました。
最初に、ダイビング指導団体BSACの「安全なスノーケリング普及のための取り組み」連載全3本。続いて、「フリーダイバー・木下紗佑里さんBSACスノーケル&スキンダイビングイントラ取得」1本、そして今回の「青井さんインタビュー」全後編です。
なんだか壮大になってしまいましたが、次から次へとご縁が重なり、この形になったので、ちょっと振り返ってもいいでしょうか。
まずは、BSACと企画化に向けて話していた段で、石垣島でスキンダイビングに真剣に取り組んでいる方がいると青井さんをご紹介いただきました。そして、前述の通り、衝撃の初対面を果たし、意気投合。インタビュー記事の作成に動いていました。
そんな矢先、別件でフリーダイバーの木下さんとご挨拶をする機会があったんです。たわいもない話をしている中で、「私、スノーケリングとかスキンダイビングの資格取りたいんですよね。保険とか気になってて・・・」との言葉が!
フリーダイビングの選手活動を現役でされている世界トップクラスの方の口から、同じ課題感をもった言葉が出て、正直驚きました。そして、即座にBSACと青井さんにご相談。快く協力をいただき、木下さんはイントラCカードを手にすることができました。
木下さんは、インタビューの中で、「講習を受け、“スノーケリングを教えたい”っていう気持ちが高まっています」と目を輝かせました。
木下さんの目を開かせた青井さんの指導力。
この前後編に渡る青井さんのインタビューをお読みいただけた方は、その高い意識の持ちようを感じ取っていただけたことかと思います。
前編では、スノーケリングやスキンダイビングというアクティビティを手探りしながら育て上げ、軌道に乗せるまでの道筋が語られます。
スキンダイビングの需要がない中で、自らのゲストに遊びの提案をしながらスキンダイビングに導いていくのは、並大抵のパワーではありません。今では、指導団体のハンドブック(指導マニュアル)の作成にも携わり、プロの指導を請け負う立場になられています。
そんな青井さんが現状と未来について語る後編。「スキンダイビングCカードの統一化」「安全の意識を作るスクールのあり方」「水着スキンダイバーへの警鐘」など、刺激的な言葉が踊りますが、根底に流れるのは安全への真摯な思いです。
記事中でも幾度かふれましたが、スノーケリング、スキンダイビングは、マリンスポーツとして、まだ黎明期にあると言えるでしょう。一方で、膨らんだつぼみが、今まさに花開いていく時期にも感じられます。
青井さんがおっしゃる通り、「安全は水面下にあるもの」だと思います。見ようとしなければ、見えてこないものです。
今回の一連の記事を通して、全体として意識が高まることを期待しています。
オーシャナ編集長
山本晴美
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沖縄県石垣島のスノーケリング・スキンダイビング専門店をしていた青井さんとダイビング専門店の丸山敦さんが2022年にオープンしたダイビングサービス。
それぞれ約二十年間ショップを運営してきたプロフェッショナルが同じ思いを胸に二人での運営を開始。
2008年3月就航の「miss.isana」と2019年3月21日に就航した「miss.isana2」は、船外にプロペラがなく、スノーケリング・スキンダイビングに適したウォータージェットボート。この2隻のボートで石垣島の海を案内する。
代表の青井さんは、安全・安心に強い思いを持って、日々のガイドやトレーニングを行っている。長年の経験に基づいた指導力は折り紙付き。スキルを高めていく楽しさをゲストに提案している。
初心者からベテラン、また、子どもから高齢者まで幅広いゲスト層に、それぞれに見合った“楽しみ”を提案している。特に、初めて海に入る方から、久しぶりでちょっと不安な初心者・中級者向けに、ゆったりとした時間配分でサポート。
そのストイックな姿勢が信頼を得て、リピーターも多く訪れる。
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協力:BSAC JAPAN
撮影:杉森雄幸
■「BSACスノーケルインストラクター&BSACスキンダイビングインストラクター」に関する過去記事はこちら
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※通常オーシャナでは、シュノーケリング・シュノーケルと表記していますが、今回の記事では、BSACの表記に合わせ、スノーケリング・スノーケルで統一しています。