マリンハウスシーサー・稲井代表に聞く、ダイビング業界の未来vol.3

マリンハウスシーサー・稲井代表のインタビュー連載企画第三段。最終回となる今回は、サンゴ礁保全をメインテーマにお話いただく。
マリンハウスシーサー・稲井代表に聞く、ダイビング業界の未来vol.1
マリンハウスシーサー・稲井代表に聞く、ダイビング業界の未来vol.2

MBFが目指す、「沖縄ブランドの確立」は実現するのか

マリーナ建設、整備の必要性

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MBFの目的の一つには沖縄ブランドの確立を目指すこともありますが、具体的にはどんな部分を強化してく予定なんですか。

稲井さん

まずは環境。沖縄の私のショップの近くには、赤灯台というコンテナだらけの場所があります。
そこを、大型トラックフォークリフトが走り回ってる。汚い廃車もたくさんあって、観光客はそこの間を抜けて入っていきます。体験ダイビングをしたくて1日2万円近くお金を払ってきているのに、すごく汚い場所なんです。

だから、まずはマリーナを整備していくこと。車をとめられて、清潔で出発前・出発後に暑い時は冷房が効いたところで美味しいものを食べたり、寒い時は暖房の効いたところでゆっくり休んだりできる場所が観光業には必要なんです。

観光客のみならず、労働者にとっても整備は必須

稲井さん

実はこれはお客さんだけではなく、働く人にとっても重要なこと。
日本では、ガイドはエアチャージや20kgほどする重いタンクの運搬をしなければいけないんだけど、本当に大変な仕事なんです。それで腰痛になる人が多い。でもこれは職業病ではなく、働く環境が劣悪なのが原因。

25年くらい前からタヒチではボートを横付けしたところに充填ホースがあって、船上でチャージしていたから、ガイドはタンクを運ばずに済むんです。
沖縄では忙しい時には1番大きなボートに150本も積むこともあります。怪我や事故の原因にもなりかねません。
積みやすくて下ろしやすい、そしてタンクチャージは全て船上でやるーーそうするだけで、労働環境はすごく良くなります。

だから、観光客の居心地の良さはもちろん、働く人にとっての環境を整備してこそ初めてMBFを作った意味があると思うんです。
マリーナ建設には莫大な予算がかかるので、今はいろんな分野の人たちと相談している状態です。

生物多様性に大きく関わるサンゴを守って行くために

MBFによるサンゴ礁保全協力金について

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オーシャナにとっても興味深いポイントとして挙げられるのが、サンゴ礁保全協力金。23年の4月から徴収がスタートするということが目標ですね。

稲井さん

はい、ショップを利用するお客様から500円徴収する予定です。海の環境を守るには、あちこちにブイを設置する必要があります。漁業者にも迷惑をかけてしまうので、設置料の何割かを納めなければなりません。

また漁協には各離島の港にも船を停めさせてもらうこともお願いしています。今はお客様が体調不良になっても、島に勝手に上がってしまっては法律条例違反になってしまいます。これが許されるだけで、お互いに気持ちよく仕事ができるはず。

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なるほど。一方でブイを設置してダイビングのためのエリアができた場合は、反社会勢力がそれを活用して無法地帯になるのではないでしょうか。

稲井さん

当然その対策も必要になります。船が島に停まるための許可を得るには団体でMBFから旗を買い、それが「この船は入ってもよい」という指標になります。
旗以外にもMBFルールをきちんと作り、SDOによる保全活動をきちんと行っている、などを基準としています。同様のルールはもうすでに座間味や阿嘉島などでは実施していて、すでに海外では、比較的当たり前になっている仕組みです。

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サンゴ礁保全協力金により、消費者にとっては500円とはいえコストアップがハードルとなると思うのですが、顧客が減る心配はありませんか。

稲井さん

私はあまり心配していません。良い環境を作ろうとすると、どうしてもお金はかかるもの。
500円をケチって危ないところに行くなら、500円払ってでもちゃんとしっかりしたところで潜った方が良いと判断するお客様の方が多いでしょう。
あくまでもお客様が判断することですが、宮古島はすでにこれを始めて10年以上経ちます。

人工的なサンゴ礁の植え付けは、本当に良いものなのか

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ちなみに、最近は「サンゴの植え付けダイビング」といったプランを提供しているショップもよく見かけますが、生物学的に問題はないのでしょうか。

稲井さん

どうなのかな。昔、慶良間のサンゴがボロボロになった時に、八重山からサンゴを持ってこようかって話がありました。でも「そんなことをやったら遺伝子が狂ってしまう」と反対する人も多いんです。

例えばだけど、水温が高いフィリピンのサンゴは28~30度の水温でも育ちます。だから、水温上昇が原因でサンゴが減っているのならフィリピンのサンゴの遺伝子を持ってきて増やせばいいのでは、と素人的には思ってしまいますし、僕は賛成ですけどね。

つまりは異なる遺伝子を持込む事になると反対する方も多いのですが、実態は熱帯の魚やサンゴが黒潮に乗って四国に行って、千葉県に行って繁殖して、昔はいなかった魚やサンゴが今はたくさんいるんです。
自然が変化しているのを、人間が完全に元どおりにできるとは思えません。強い者が生き残るのではなく、環境に適応した者が生き残るんだと思います。

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「自然本来の生態系が壊れてしまう」というのが反対派の主な意見かと思いますが、これについてはどう思いますか。

稲井さん

正直、「散々壊すだけ壊しておいて、今更それはないだろ」と思ってしまいます。
私が今いる事務所、このエリアは40年程前、海だったんです。土持ってきて埋め立てたんですよ。
沖縄の海だけではなく、日本中がそう。橋をかける、高速道路を通す、バイパスを作るーーすでに人間は壊しまくっているのに、今更自然に悪いから、とは言えないでしょう。「壊すだけ壊したんだから、環境のためにやれるだけやりましょうよ」と思います。

私は45年間海に潜ってきましたが、この業界でこの年数潜ってきた人の数は少なくなりました。
前にも話したように、潜水作業をしていた時はかなりのサンゴ礁を破壊しましたし、白化現象を目の当たりにしてきました。サンゴがなければ魚は減り、サンゴがあると魚は目に見えて増えます。沖縄は、「魚が湧き出る海」って言ったりしますが、やはりサンゴがあると全然違います。

だから、植え付けをやってでも、私はサンゴがあった方が良いと思いますね。生物の多様性は人間が壊していて、それを回復させるためのお手伝いができるのがサンゴの植え付け。
ただ国家プロジェクトとして何千億も使ってでもやるべきかと言われたら…そこまでの確信は持てません。

とはいえ、サンゴはないよりあった方が絶対良いし、魚の漁獲量が増えることで地域産業も潤うはず。
これまでに散々自然を傷めつけてきたのだから、自然を豊かにすることができる可能性があることを粘り強くやっていくことが、今の私たちがやるべきことなのではないのでしょうか。

ダイビング業界で続く変革。未来はどうなる?

シーサー値上げ発表のその後について

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ちなみに、前回はシーサーさんの値上げ発表についてお聞きしましたが、その後何ヶ月か経って、何か変化はありましたか。

稲井さん

変化としては、やはり値上げするショップがどんどん出てきていることですね。僕が連合会に入っている目的のひとつは、業界全体で価格を上げていくこと。
安い金額では、自分たちがビジネスをやっていけません。低賃金、長時間労働、残業だらけ、おまけにリスクを自分だけが取るーーこれでは若い人材が集まらない。

この業界のなかで年収500万以上の人は本当にひと握りですが、それは普通ではありません。
若い人でもきちんとお給料をもらえるのが当たり前になる仕組みを作るための、第一歩になったのではないでしょうか。

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値上げ発表当時は賛否両論ありましたが、未だに反対している人はいるのでしょうか。

稲井さん

反対する人はいるかもしれないけど、文句を言ってくる人はいませんね。よかったです。

ダイビング業界の課題を達成するまで、あと10年――

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今後もまだまだいろいろな難題とぶつかりそうですが、今回の内容以外で他にやらなければいけないことはあるのですか?

稲井さん

いや…この内容が少しでも実現に近づけば、もういつ死んでも良いや、って思っています(笑)。

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何を言っているんですか(笑)。ちなみに今日お話ししていただいたこれらの体制が整うのには、どのくらいの時間がかかるとお考えでしょうか。

稲井さん

諦めずにコツコツ続ければ、10年後には必ずできると思っています。
今ようやく、周囲の人に協力してもらうために必要なことが分かってきたので、5年以上はかかるだろうけど、10年は絶対かからない。
私の会社にも賢い人がたくさん出てきたので、これからは私はしばらく出社せず、この事業に専念しようと思っています。
…そうすれば余名短い私でも天国に行けるかな?…なんて(笑)。

ー稲井さん、ありがとうございました。

3回にわたってご紹介した稲井社長のインタビュー、楽しんでいただけただろうか。
何十年も沖縄の海を見守り続けてきた稲井さんの視点を知り、自身のダイビングライフについて考えるきっかけになれば幸いだ。

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writer
PROFILE
神奈川県藤沢市在住。女性ファッション誌からキャリアをスタートし、現在はフリーランスの編集ライターとして活動。オーシャナでは美容やライフスタイル記事をメインに、エコライフのヒントとなるトピックを執筆。