マリンハウスシーサー・稲井代表に聞く、ダイビング業界の未来vol.1
今年4月、 インタビューにお答えいただいた、「マリンハウスシーサー」の稲井代表取締役。
参考:安売り競争の開始、そして脱却。マリンハウス シーサー稲井代表が語る、ダイビング業界の現状
このとき、自社サービスの値上げ発表とともに、マリンレジャー業界が抱えている課題や、水上安全条例改正に向けての動向についても触れていただいた。
そしてようやく水上安全条例改正に至ったいま、その後業界はどのように変化しているのだろうか。
再び稲井代表に登場していただき、その現状や業界の未来について語っていただいた。
まず第一編では、条例改正の背景から紐解いていく。
マリンハウス シーサー 稲井 日出司代表取締役
沖縄県水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例(以下、水上安全条例)が改正。その内容とは?
・水難事故が一番多いシュノーケルに事業者登録が必要になった。
・ダイビング死亡事故の一番多い体験ダイビングの項目ができ、人数比が1:6から1:2に変更。
一般社団法人沖縄県マリンレジャー事業者団体連合会について
条例改正のために働きかけを行なった「一般社団法人沖縄県マリンレジャー事業者団体連合会(MBF)」の動きについて、監事である稲井さんの見解を伺った。
編集
一般社団法人沖縄県マリンレジャー事業者団体連合会は、何を目的として作られたものなのでしょうか。
稲井さん
この連合会の事務局長を務める成田さんと、石垣島で比較的大きなショップである「ぷしぃぬしま」の安谷屋さん。もともとはこの3人で、「この業界、これじゃ大変なことになるよね」って、随分前からいろんな活動をやっていました。約50年前にできた、今の時代に通づることのないルールが当たり前のように今も運用されていて、その規則を破ればもちろん罰せられてしまうんです。
これまで10年以上、「この業界を正常化したい、よくしたい」と思ってやってきましたが、ちっとも上手くいってないのが現実。13年くらい前には、多いときは1ヶ月に2回、東京の経済産業省の会議に出席していたこともあります。
当時、色々な方に多方面の有力者を紹介してもらいましたが、なかなか上手くはいきませんでした。
結局、いくら一生懸命やっていたつもりでも自分自身の商売が先になってしまうので、みんな片手間になってしまうんです。自分の商売の隙間時間ができたらやっと、行政に掛け合いにいくような感じで、この問題に集中して向き合うことができませんでした。とにかく忙しくて、「一体誰のためのこんなことやっているんだ」って思ってしまうほどです(笑)。
そのように活動する中で、これは自分達で法的手続きを得た上で、一般社団法人設立が必要だということになりました。とにかくお金がかかるので、活動費を担保するためにも行政の協力を得ることが重要。そして行政との話し合いの時には任意の団体ではなくて、認証されたものではないといろんな不都合が起きてしまうんです。
また、連合会に所属してもらった人たちはじわりじわりと増えてきているものの、きちっと取りまとめるには専従者が必要になります。人には得意不得意があるから、専従者個々で自分の担当分野を決めて、MBFの目標達成スケジュールに沿って組織的に5年計画、10年計画で動かないと実現はできません。本当に動かないんです。だからこそ、きちんと組織として動いていく必要があり、この組合を設立しました。
条例改正によって、問題解決は成されるのか
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そうやってシステマチックに連合会として動くようになってやっと、条例改正が実現されましたね。改正項目で1番注目すべきは「シュノーケル」についてだと思うのですが、そもそもなぜ今まで届出がなしでも成立していたのか、なぜそこまで事故が多かったのか、これについてはどう思いますか?
・シュノーケル遊泳の知識技能を修得する場所がないため、自己流で海を楽しんだ結果として死亡事故原因の1位になっていることが推測される。
https://www.police.pref.okinawa.jp/docs/2015022200015/files/R3_snorkeling.pdf
稲井さん
前提として、人の基本性質は規則を嫌う傾向にあります。私ももちろんそうです。やりたいことを好き勝手やらせてもらえればいいな、って。
だからこそ、上手く条例の隙間をついてくる人たちが出てきます。彼らは法律の隙間から入ってきて、人が困ろうが、どうしようが儲けることが目的。今石垣や宮古ではそのような人たちがすごく増え、問題になっています。最近もローカルニュースで話題になり、そういった集団が謝罪し、解散を発表したものの、また詐欺商売のようなことを始めているという噂を聞きました。
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海外のようなことが起きていますね。
稲井さん
彼らにとってはそれが仕事ですからね。裏社会で生きてきた人たちは、法律にゆるい所があるとすぐに入ってきます。でも、それを厳しくしようとすれば、同業者から「こんな規制があったら迷惑だ」「お前たちのせいでこんなに厳しくなったんだ」と言われてしまう。
私たちは、お客さんに迷惑をかけてしまえば、5年後、10年後…マリンアクティビティ業界が成長しないことに繋がると思っているから動いているんです。
自分は法律的にも良心的な商売をやっていたとしても、ルールがいい加減であればそこにつけ込んでくる外部の人間が現れるーーそうすると、真剣にやってる自分たちが困ってしまうから、こうして動いているんです。
だから、ダイビング業者だけを取り締まるということではなく、最終目的としては反社会勢力を徹底的に排除するという部分が大きいですね。
彼らはお金になればダイビングじゃなくても良いんです。また、仕事する上で当然自分たちで独占したいと思っているから、正当にやっている業者に対してたくさんの嫌がらせがあります。だから、残念ですがそういう規制が必要になるんです。
編集
ただ、これまでで既にかなりのショップが乱立していることを考えると、この規制を隅々まで行き渡らせることはできるのでしょうか。
稲井さん
すぐには難しいですね。「5年後、10年後はこうなりたい」っていうことと、今すぐにできることとは、色々なギャップがあります。
「こうあるからすぐにこうすべきだ」ではなく、「こうあるべきだけど、今できることはこれとこれ」、客観的な条件を分析して、段階的に進めていかなければなりません。
たくさんの手間がかかるからこそ「俺は関係ない。俺に迷惑がかからない限り、好きでやってく」と、協力的ではない同業者がすごく多いのが実情です。
ダイビング業におけるインストラクター対顧客の適正化について
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また、今回の改正で「体験ダイビングは、インストラクターとお客様の人数比を1:6から1:2に変更」という項目がありました。これによってサービス向上は期待できますが、やはり値上げしなければいけなくなりますね。
稲井さん
もちろん、値上げは絶対避けては通れないと思います。結局、水中では空気がないと生きられないので、人数比っていうのは厳格に守るしかない。良心的にやろうと思ったら1:2が限界なはず。でも大きな団体が1:6でできると謳っています。講習なんて、1:8で行われたりするのが実情です。
そのため、観光庁の会議に行って何回も問題定義をしたのですが、結局は話を聞いてもらえません。大きな団体の中には国際企業もあるわけですから、「日本のためにルールやテキストの書き換えはできない」と却下されてしまいます。
現在もどんどん状況が変わってるのに、それに応じて自分たちが変化対応するっていうことがダイビング業界は全然できていないと感じています。
なかなか大変なことなのはじゅうぶんわかってしますが、もう少し現場の声を聞いていただきたいというのが本心です。
警察も動いてくれていましたが、彼らももちろん万能ではない。行政はあくまでも、法律と条例に基づいてやらなければならない。だからこれまでは条例に基づいてできることが限られていました。
稲井さん、ありがとうございました。
Vol.2では、一般財団法人沖縄県マリンレジャーセイフティービューローと、SDO認証制度について解説。
消費者がマリンショップを選ぶときの基準にもなっていくであろうSカード。ぜひショップ経営者、消費者ともに読み、参考にしていただきたい。