神秘的な光景。「ホタルイカの身投げ」で光る浜を訪れる

水中で初めて、一瞬で体色を変える小型のコウイカの仲間を目にしたときの光景が、今でもしっかりと脳裏に焼き付いています。自然界の生物が瞬時にこんなにも体色を変えることができるのかと魅了されました。しかし私は、体色を変えたイカよりも美しい光景に驚かされたことがあります。それはホタルイカの発光です。そこで今回は、世界でも富山湾だけで見られることで有名な、「ホタルイカの身投げ」や富山県の海を、皆さんにご紹介していきたいと思います。

今年は近年稀に見るホタルイカ大漁の年!?

春に産卵のために浅い場所に浮上してきたホタルイカが力尽き、海岸や浜に打ちあがる神秘的な光景が、「ホタルイカの身投げ」と言われています。ホタルイカは光を発する発光器を体内に持ち、浜へ打ちあがると、その刺激で明るく光り輝くのです。

2017年、2018年と撮影に挑みましたが両年とも不漁。昨年は別件の撮影でホタルイカの撮影を断念。すると今年に入り、ホタルイカがかなり漁で上がって来ていると嬉しい情報が入ってきました。20年以上撮影している写真家の阿部秀樹さんからも、今年は撮影もきっといいよとの話を聞き3月に富山へと撮影へ向かいました。

ホタルイカの身投げ

今年撮影したホタルイカの身投げ。明るく光り美しい。

浜が輝く美しい光景広がる「ホタルイカの身投げ」

当日は、移動中から到着まで天候もあまり良くなかったのですが、夜になると回復し撮影日和となりました。しかし22時ごろから撮影を始めると、異様な光景が広がっていました。人・人・人…ホタルイカをすくいに来る人だらけ。夜の浜が人で溢れかえっていました。しっかり装備をしている地元の人もいれば、中にはサンダルで海に入る若者の姿もありました。そんな人々がホタルイカを採ろうと必死になっているのはこの海でしか見られない光景だからかもしれません。

富山ホタルイカすくい

ホタルイカをすくう人で溢れかえる浜。

浜全体の様子

同時に浜に打ちあがるホタルイカも増えていくのでありました。

ホタルイカの身投げ

腕の先端の発光器が光る

この光景は、生で見ないと伝わらない美しさがあります。身投げがピークへと向かうと、さらに数多くのホタルイカが浜に打ち上げられます。そんな中撮影をしていると、時間が経つのを忘れ、あっという間に日付をまたいでしまうほど。この光景は、生で見ないと伝わらない美しさがあります。

ホタルイカの身投げ

浜をはねるように飛ぶホタルイカが美しい

朝まで撮影は続きました。気付くと浜には力尽きたホタルイカの亡骸がびっしり。遠くからカモメやカラスもホタルイカを狙っていました。

ホタルイカの身投げ

朝の浜には、打ち上げられたホタルイカがぎっしり。

夜中から朝までぶっ続けの撮影ですが、疲れを忘れてしまう感動がそこにはありました。

身投げ以外のホタルイカの楽しみ方

東京出身の私ですが、父がホタルイカを好きで、旬になるとよくホタルイカを買ってきは一緒に食べていました。でもその当時は、「まぁ美味しいかな」ぐらいの印象だったのを覚えています。しかし、富山にきてホタルイカを口にした時の驚きは、想像をはるかに超えていました。こんなにも地元で食べるホタルイカは違うものかと。一瞬で「食」というホタルイカの凄さに惹かれたのです。

ホタルイカの沖漬け

名物のホタルイカの沖漬け


富山ホタルイカの沖漬け

生はパックで売られてます


富山ホタルイカ

ホタルイカの茹でたては感動ものです

ホタルイカはカネツル砂子商店などで購入できるので、行ったときは是非食べてみてくださいね。本当におすすめです!ダイビングも食事も、とても楽しめるのが富山のいいところですね

富山の海の楽しみはまだまだ終わらない!
夜のダイビングが面白い滑川にも注目!

このまま話を進めていくと、ホタルイカの事ばかりになってしまいそうなので、一度富山のダイビングの話へと切り替えます。「24時間眠らない海」とキャッチフレーズのある富山の海。今回潜る場所は、ホタルイカの身投げが見られる富山市内の浜から車で30分ぐらい離れている滑川市です。以前、作家で博物学者でもある荒俣宏さんから駿河湾、相模湾に続いて日本で3番目に深い湾が富山湾だと講演で聞いたことがありました。

伊豆半島~房総半島と富山県はフォッサマグナ(ラテン語で大きな溝)という断層があり、太古の昔に呼ばれる日本列島が引き裂かれ、陥没して海になった場所であると言われています。その後、日本列島は土砂などが流れ込んだり、火山活動の影響で今のような形へと変化したのです。そのため伊豆半島と富山湾側の海には、その溝があるため深いのだと聞きました。

富山湾は、一番深い場所で1200mもあります。そのため条件により、太平洋側とは違う変わった生き物を目にすることができます。気になる地形はというと、浅場の岩場ではワカメなどの海藻類、少し深場に降りると砂地が広がり夜行性の生物や生態行動の面白い生物を多数目にすることができます。

数年前、ダイビングショップ海遊でガイドを務める木村さんには、遅くなると現れる夜行性の生物もいる、ミッドナイトダイビングまで楽しませていただきました。滑川のミッドナイトは日没3時間経過したあたりです。生き物の体色の変化や捕食などの生態行動が活発になる傾向があります。ビクニンなどの生物のも出没率が22時以降のほうが確率が上がったり、23時以降になるとホタルイカの群れにあたることもあるのです。そんな滑川で出会った生き物たちをご紹介します。

まずは、1mを超す大型なミズダコ。稀に人の上に乗ることもあると話を聞いたので、内心ビビりながらも寄って撮影しました。日中は寝ていることが多いです。

ミズダコ

ミズダコ

砂地をゆっくり移動していたカナガシラの仲間のオニカナガシラ。こちらも深場の珍しい生き物で滑川以外では、私は見たことのない魚です。胸ビレの黒斑に水玉模様が入っているのが特徴。

オニカナガシラ

オニカナガシラ

産卵中のヤリイカ。2017年に撮影したときは各地の岩の隙間に産卵をしていました。このヤリイカも最後の力を振り絞り産卵しているところです。

ヤリイカ

ヤリイカ

深海魚のビクニン。ダイビングポイントで見られるのは、春の滑川ぐらいだけと言ってもいいぐらいです。ビクニンというとスナビクニンなどを思い浮かべる人も多いかと思いますが、大きさが全く違います。私が見た個体は約10㎝はありました。

ビクニン

ビクニン

ゴッコでお馴染みのホテイウオ。浅場のワカメなどの海藻類には、極小の可愛いホテイウオの幼魚が隠れていました。

ホテイウオの幼魚

ホテイウオの幼魚

これ以外でも紹介したい生き物は沢山います。春以降はバルスイバラモエビも伊豆などに比べると浅い場所に出てくるとのことです。潜りに行ってもらいたいポイントの一つでもあります。

撮るのも文化・捕るのも文化

阿部さんや本の編集者の方とも話をしたのですが、ホタルイカの撮影中に少し残念なことがあったので、マナー面についても伝えておきたいことがあります。びっくりするのが、撮影している私の目の前に入り、ホタルイカすくいの方がいたこと。考えられない光景です。さらに浜の近くまで車を寄せてヘッドライトで照らし、沢山のホタルイカを捕っていってしまう人なども。そして朝には、カモメなどの鳥たちが打ち上げられたホタルイカを食べに来るのですが、その前にホタルイカを全て持って行ってしまったりと、開いた口がふさがらないような光景を一日で目にしました。

私が撮影に行く数日前、新聞に「ホタルイカの身投げ」が大きく取り上げられていました。今はSNSでのホタルイカ情報など、どこでも簡単に情報を得ることができる時代。でも逆にそこが落とし穴でもあるのだと思います。数年前にとある方が「ホタルイカの身投げ」を記事にして以来、他県からの人が多くなってしまったと後悔している記事を目にしたことがあります。

阿部秀樹さんも「今はルールがない状態だけど、今後ルールをしっかり作っていかなければいけない」と語っています。もちろん私も賛同です。せっかく観察にきたのに、浜に打ちあがるところがみれないのは残念ですからね。「ホタルイカの身投げ」は、この日本が世界へと誇る光景なのです。今後は、すくう人と観察する人の両者が楽しめる浜になってくれたらと願っています。

撮影協力/ダイビングショップ海遊カネツル砂子商店
     

堀口和重さん
プロフィール

horiguchi_profile

伊豆の大瀬崎にある大瀬館マリンサービスにチーフインストラクターガイドとして勤務後、2018年4月にプロのカメラマンに転向。
現在は伊豆を拠点に水中撮影から漁風景や海産物の加工まで海に関わる物の撮影を行っている。
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PROFILE
日本を拠点に活動している⽔中カメラマン。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリストなどに関連する雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載、水中生物の図鑑や教書にも写真提供している。2019年に日本政府観光局(JNTO)主催の“「⽇本の海」⽔中フォトコンテスト 2019”にて審査委員、2020年には“第28回 大瀬崎カレンダーフォトコンテスト”の特別審査員も務める。近年は訪⽇ダイビングツーリズム促進を⽬的として“NPO 法⼈ Japan Diving Experience”としての活動も⾏っている。
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