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海の森「藻場」を育てて守ろう~ダイバーとしてできること〜Vol.3 海の森が砂漠状態に!「磯焼け」について〜閲覧無制限

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BLUE ECONOMY
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これまでの連載で海の森「藻場」の重要性やその役割についてお伝えしてきましたが、実は日本中、また世界中の多くの海で藻場は急速に失われています。
なんと、陸の熱帯雨林の約4倍ものスピードで失われているという推定もあります。(*1)

このような藻場の減少は、一般的に「磯焼け」と呼ばれ、海洋環境への悪影響が問題視されています。
「磯焼け」とは、「浅海の岩礁・転石域において海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を越えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義されています。
「磯焼け」という言葉は元々伊豆の漁師さんたちの言葉だったようですが、現在は日本全体で一般的に使われるようになりました。

磯焼けに関する最初の報告書は、海藻学者遠藤吉三郎によるもので、なんと1903年にさかのぼります!
「海藻磯焼調査報告」が発表され、海藻の減少だけでなく、そこに生息する生き物の収穫が減ったことを指摘しています。
現在では、日本のほとんどの都道府県(赤でハイライト)で藻場の減少が確認されていることが、水産庁の発行する「磯焼けガイドライン」で示されています。

藻場の減少が確認された都道府県の分布(2015年)水産庁「磯焼けガイドライン」を元に作成

磯焼けした海はまさに焼け跡のような、砂漠のような光景が広がっています。
ダイバーの皆さんのほとんどは美しい海中景観の残る海に入っている方が多いかと思いますが、私たちは磯焼けしている海でばかり潜っているので、見渡す限り砂漠のようなところばかりで悲しくなってしまいます。

岩手県 ウニにより磯焼けした海 筆者撮影

磯焼けの原因としては色々な原因がありますが、日本では、主に海藻・海草を食べる生物による食害の影響が大きいと言われています。
ウニ類や植食性の魚(アイゴやブダイ等)は海藻や海草を食べますが、これらの生物が増えすぎて、海藻・海草の生長速度よりも食べる速度が上回ると、食害が深刻化し、磯焼けしてしまいます。
地球温暖化の影響で海水温が上昇することで、本来は餌を食べなくなる冬の時期にもウニや魚が海藻・海草を食べたり、本来の生息地とは違う場所まで広がってきています。

多くの種類のウニが海藻・海草を食べますが、日本ではガンガゼやムラサキウニ、キタムラサキウニ等が磯焼けを起こす主な種類です。
ウニは寿命が十年以上と意外と長生きで、しかも餌の大型海藻がなくても付着珪藻や石灰藻を食べて生きられます。
天敵が少ないところでは、海藻・海草を食い尽くし、結果としてウニばかりが残っているのですね。
磯焼けガイドラインによると、1㎡あたりウニ類が5-10個体以上いると磯焼けが続くとされていますが、実際には1㎡に何十個というようなひどい磯焼けの海も多くあります。

でも、日本では「ウニは高級食材!普通に取って食べればいいのでは」と思いませんか?
実はこのような磯焼けの海にいるウニは、海藻を食べつくしてエサ不足のため、あまり身が入っていません。
商品価値がないために漁師さんも採らず、状況をさらに悪化させることになっています。
あるいは、漁村の高齢化で漁師さん自体が減ったということも原因かもしれません。
そのため、磯焼け状態が放置されることになっています。
日本では主に関東以西の海で大量繁殖しているガンガゼは、食べる習慣がない地域が多いのも問題です。

神奈川県 大量発生したガンガゼ 筆者撮影

植食性の魚の食害については、主に関東以西の海でその影響が深刻です。
アイゴやブダイ、イスズミ、クロダイ等、多くの魚が海藻・海草を食べます。
冬になり海水温が下がればその間はあまり餌を食べていなかった、あるいは、もっと南の海に移動していたこれらの魚たちが、海水温上昇に伴いその活動期間や滞在期間が長くなりました。
また、海水温が上がる事で以前よりも生息地が北上し、拡大しています。
アイゴやブダイも、ガンガゼと同様に多くの地域で食べられていないので、漁業がなく個体数が減りづらくなっています。

神奈川県 食い尽くされて茎だけになったカジメ 筆者撮影

磯焼けで藻場が減れば、当然その藻場をとりまく生態系にも悪影響があります。
藻場に生息し餌場とする生物は減り、その結果藻場を中心とする生物多様性は失われます。
一つの例として、2002年の愛知県水産試験場の研究があります。
三河湾の3か所のアマモ(海草)場内外で底曳き網でメバルやギンポ等15種の魚類を採集した結果によると、アマモ場内での出現種数は14種に対して、アマモ場外では7種、水産上重要なメバルの個体数密度も、藻場内が圧倒的に高いことが示されています。(注2)

漁師さんの数自体も減っているなど他の理由もありますが、海の生態系が失われていることは否定できません。
また、藻場が減ることでその海藻や海草が固定できる二酸化炭素量も減るので、地球温暖化を加速させることにもなるでしょう。
このような環境問題の話をすると、スケールの大きさに圧倒され、絶望的に感じたり、自分とは遠くの問題と感じたりするかもしれません。でも、皆さんも関係する良いニュースもあります!
藻場を取り巻く問題はそのまま放置されているわけではなく、漁業者やダイバー等、多くの人たちが磯焼け改善のために様々な努力をしています。次回はそのような取り組みについてもご紹介します。

藻場再生に取り組むダイバーたち 筆者撮影

【注】
(注1)遠藤吉三郎「海藻磯焼調査報告」:「或る特別なる沿岸一地区を限りて其処に産する海藻全部又は一部枯落して不毛となり従って有用海藻は勿論,之に頼りて生息するアワビ,磯附き魚等の収穫を減し或は全くこれを失ひ為に漁村の疲弊を来すことあり。伊豆東岸にしては此現象を「磯焼け」又は「磯枯れ」と称し現今普通語 となれるものの如し」(1903)
(注2) 愛知県水産試験場による調査の結果詳細(2002年4月から6月)(*2)

三河湾の3か所のアマモ場内外で2002年4月から6月に底曳き網で採集した15種の魚類の個体数と湿重量、出現種の数(上図)、メバルの個体数と湿重量(下図)
※愛知県水産試験場による調査(*2)を元に作成

【参考文献】
(*1) Duarte et al. (2008) The Charisma of Coastal Ecosystems: Addressing the Imbalance
https://www.researchgate.net/publication/225762037_The_Charisma_of_Coastal_Ecosystems_Addressing_the_Imbalance
(*2) 鈴木輝明・家田喜一(2003) 三河湾奥に存在するアマモ場内・外の魚類群集の相違, 愛知県水産試験場研究報告, 10, 21-24, https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/6716.pdf
・藤田大介. (2002). 磯焼け. 藻類, 21, 102-105.
・水産庁(2015)磯焼けガイドライン
 https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/pdf/isoyake1.pdf
 
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