海の森「藻場」を育てて守ろう~ダイバーとしてできること~ Vol.1 海底に森?!海の森、「藻場」とは?
オーシャナ読者の皆さまはじめまして!
一般社団法人モバイルラッコ隊事務局の三谷優衣子(みたにゆいこ)です。
私たちモバイルラッコ隊は、日本の美しく豊かな海の森「藻場(もば)」を守るために設立された非営利の環境保全団体です。
長年藻場の研究をしてきた代表理事の小松輝久先生の科学的知見をベースに、漁業者やダイビングショップやインストラクター、そしてダイバーの皆さまの協力を得て、藻場を守るための様々な活動を行っています。
今回スタートする連載で「藻場(もば)」をめぐる生態系の話や、その藻場を守る私たちの活動の紹介をしていきたいと思います。
海底に森?!海の森、「藻場」とは?
皆さんは「藻場(もば)」ということばをご存知でしょうか。
藻場は、海にある海藻や海草がつくる森林や草原の景観をもつ群落のことを言います。
海の中にあるため、陸に住んでいる人の目に触れることがなく、知らない人も多いです。
ダイバーでも、海藻に絡まるような藻場に潜る人はあまりいないのではないでしょうか。
(以前は海藻が茂っていて足に絡まった!なんて話は聞きますが・・・。)
海藻と海草と書きましたが、その違いは、もともと海にすんでいた海藻の一部が、陸に上がり、陸上植物となり、その陸上植物が海に戻った種が海草です。
海草は、多くの陸上植物のように海の中でも花を咲かせます。
日本の藻場は、大きく、岩の上に生育するガラモ場、アラメ・カジメ場、コンブ場などの海藻の藻場と、砂地に生育する海草藻場(主な構成種の名前をとってアマモ場と呼ばれることが多い)に分けられています。
<写真>森林のような景観をつくるガラモ場(褐藻ホンダワラ類の藻場)(上)と草原のような景観をつくるアマモ場(下)
藻場はアワビ、サザエ、ウニ、コウイカ、ハタハタ、ジュゴン等多くの海の生き物の産卵の場、稚魚の成育場、餌場、つまり生息場であり、海洋の生物多様性にとって重要な場所であるばかりでなく、私たちの生活にも必要な漁業にも不可欠です。
藻場は植物であり、海水中にとけている二酸化炭素(CO2)を吸収し、光をつかって光合成し、酸素を海水中に放出します。
また、生長に必要な栄養塩を吸収し、水をきれいにします。こうして、藻場は、生き物が生きられる環境を作るのに大きな役割を果たしています。
これらの酸素は、私たち陸上の生き物にも重要ですし、光合成で吸収する二酸化炭素は、大気から海水に入ったものです。
多くの生き物が住む海の複雑な環境の中で、藻場は上記のように多くの役割を担っており、海の生物多様性にとって必要不可欠な存在です。
人間が生命を維持し生きがいを持てるようにする、生態系が人間に提供する利益は「生態系サービス」と呼ばれており、食べ物や水の供給、気候の調整、文化的利益、栄養循環や光合成による酸素の供給、環境保全などを含みます。
これは数値化する試みもされており、Costanza et al. (2014) の研究によれば、海藻の森1ヘクタールが提供する生態系サービスは、同じ面積の熱帯雨林の5.4倍、亜寒帯林の9.2倍もあるそうです。
まだまだ知名度の低い藻場ですが、地球に生きる私たち全てにとって本当に大切な存在なのですね。
これからの連載では、藻場が貢献する生物多様性やブル―カーボンなど海の環境についての説明と、私たちモバイルラッコ隊を含む、全国で行われている藻場を守るための活動を紹介していきます。
ダイバーや海を愛する皆さまに、少しでも藻場の魅力をお伝え出来たら幸いです!
そして藻場や海の環境に関心を持って頂き、是非応援、実際の活動に協力してくださる仲間を増やしていきたいと思っています。
モバイルラッコ隊では、活動パートナー・協力者を募集しています!
ウェブサイト:https://www.rakkotai.org/
Facebook:https://www.facebook.com/rakkotai.org
Online Diving EXPO 2021に出展します
1/16(土)と 17(日)の2日間、Online Diving EXPO 2021に環境保全団体として出展します。
16日は昼(15時~)と夜(21時~)、17日は昼(15時~)のみブースにおり、活動紹介や藻場のお話などする予定です。
カジュアルな交流の場ですので是非お気軽に遊びに来てください!
https://onlinedivingexpo.com/exhibitor/1126
※Remoというオンラインでテーブルを自由に移動しながら会話できるウェブ会議システムを使用するイベントです。
※参加は無料です。下記ページの各タイムスロットのリンクからお入りください。
https://onlinedivingexpo.com/news/1330
【参考文献】
・Costanza et al. (2014) Changes in the global value of ecosystem services, Global Environmental Change, 26, 1520158. (https://community-wealth.org/sites/clone.community-wealth.org/files/downloads/article-costanza-et-al.pdf)
・飯泉 仁 (2003) 大型海藻類は二酸化炭素の吸収にどれだけ寄与しているか.日本海区水産試験連絡ニュース,401,5-7.
・小松輝久, 大瀧敬由, 佐々修司, 澤山周平, 阪本真吾, サラ ゴンザルボ, 浅田みなみ, 濱名正泰, 村田裕樹, 田中 潔(2017)三陸の沿岸漁業を支えるブルーインフラの大津波後の復興過程. 沿岸海洋研究, 54, 117-127.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/engankaiyo/54/2/54_117/_pdf/-char/ja
Text:モバイルラッコ隊
海の森「藻場」を育てて守ろう(連載トップページへ)
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