海の森「藻場」を育てて守ろう(第6回)

海の森「藻場」を育てて守ろう Vol.6 ラッコになって、藻場の再生を助けよう

この記事は約5分で読めます。

前々回は日本、前回は米カリフォルニアと、ダイバーが中心となる藻場保全の活動についてご紹介しました。
今回は本連載の最終回!私たちモバイルラッコ隊の活動についてもご紹介します。

一都三県でも緊急事態宣言の明けた先週は、久しぶりに千葉県館山市沖ノ島周辺の活動エリアの海に潜ってきました。
周辺にはワカメやフクロノリ、アカモクやノコギリモク等多くの海藻が繁茂していました!

沖ノ島周辺の藻場、2021年3月23日

夏~冬にかけて海藻が衰退する時期は本当に何もない砂漠のような場所だったので、まだ海の森とまではいかなくとも美しい藻場の景観にとても感動しました。
下記は昨年12月に撮影したほぼ同じ場所の写真ですが、こう見ると一目瞭然です。
(撮影アングルが異なり真上からの写真ですが、もはや何の写真だかわからないですね…)

沖ノ島周辺、2020年12月19日

この成長し始めた海藻の森が今後も大きくなり、できるだけ長い間繁茂してくれることを祈ります。
しかし、早速ウニたちが食べていたので海藻が減っていくのも時間の問題かもしれません。
潜ったのは午前中でしたが、写真のようにフクロノリをむしゃむしゃと食べるムラサキウニの食欲が特に強い印象でした。

ここは私たちが2019年からボランティアダイバーと一緒にガンガゼ等ウニ類の駆除を行っているエリアで、昨年秋からは海藻を食べるウニ類や貝類、魚類の生息状況や海藻類の生育状況を調べるモニタリング調査もしてきた場所です。

また、周りに全く海藻がなくなってしまっていたので、胞子を放出させるため成熟したカジメの母藻(スポアバッグ)も設置しました。
カジメは多年草なので1年では大きくなりませんが、設置した場所の近くには小さなカジメの芽も確認できました。

私たちモバイルラッコ隊は、上記でご紹介した千葉県館山市沖ノ島周辺の活動に加え、岩手県や神奈川県等複数の地域で、漁業者やダイビングショップ・インストラクター、他環境団体やボランティアダイバーの皆さんと共に、ウニ駆除やモニタリング調査、スポアバッグ設置など、藻場再生につながる活動を行っています。


(上)活動するボランティアダイバーたち
(下左)拾ってきたカジメをスポアバッグに入れ準備する
(下右)モニタリング調査:海藻を食べるウニ類や貝類の数を数える

モバイルラッコ隊は、連載第5回でご紹介したようなカリフォルニアの藻場保全の取り組みにアイデアを得て、藻場を含む生態系におけるラッコたちの役割のように藻場を守りながら共存する存在となりたい、という思いから設立されました。
「モバイル」は移動する・機動性があるという英語のmobileと、「藻場要る」を掛けています。

一般ダイバーとの活動の他にも、長年藻場の研究をしてきた代表理事の小松輝久先生の監修の元モニタリング調査を行う事もあり、これまで岩手県、千葉県、兵庫県、鹿児島県で、藻場に関する調査も行ってきました。
磯焼けや藻場、海の生態系に関する勉強会やワークショップなどを開くこともあります。
磯焼けというスケールの大きな問題に対処するにあたり、このような科学的知見を持つことが私たちの強みであると考えています。

(左)一般ダイバーとのワークショップの様子(右)ウニの生息密度を調べる調査の一幕


これまでウニ駆除活動を行ってきた場所では、水中でウニをつぶすという方法を取っています。磯焼けの大きな原因がウニであるとはいえ、もちろんウニたちに罪はありません。
「ウニがかわいそう」というコメントを頂くこともしばしばありますが、私たちも同じ気持ちです。

ただ、磯焼けの現状を放置してしまってはより広いエリア、さらに生態系全体に深刻な結果をもたらす事が危惧されています。
それを防ぐために現在有効とされているウニ駆除を行っています。
ここでも科学的知見に基づき、環境問題を俯瞰的、長期的にとらえるよう心がけています…が、やはり「将来にも美しい海を残したい」という気持ちが強いですね!

また、ウニは高級で美味しい、貴重な水産資源です。モバイルラッコ隊では、ウニノミクス株式会社という会社とパートナーとなり、磯焼けした海に大量繁殖したウニを有効利用できるモデルの実現を目指しています。
ウニノミクスは磯焼け対策と藻場保全を目的としたウニ畜養事業を行うノルウェー発の水産会社で、身の入っていない磯焼けウニを陸上で畜養することで、美味しく太らせ商品価値を持たせる技術を持っている企業です。
大分県では地域漁業者とウニ畜養を商業化させています。

(左)磯焼けエリアの空っぽのウニ(右)ウニノミクス社が約2カ月畜養したウニ

現状では、漁業法や各地域の規則の関係で、磯焼け対策が目的であってもボランティアダイバーがウニを採る事には多くの制限があります。
ボランティアダイバーがウニを海中でつぶすだけではなく、地域漁協と連携の元、駆除対象の空っぽのウニを水揚げし畜養するために利用することが実現できれば、磯焼け対策を継続的に行えるとても大きなポテンシャルがあると考えています。

活動の中では、課題や今後改善できるところもたくさんあります。
例えば、海の環境や生態系は複雑で難しいトピックであり、藻場の重要性と磯焼け問題はまだあまり知られていません。

さらに、藻場保全の活動は大きな自然が相手であることから、数回の活動だけではすぐに効果を実感できず、最終的に期待していた程の効果がでない事もあるかもしれません。
ボランティアの皆さんの頑張りの成果が見えづらい部分がありますが、長期的な視点での活動が必要です。

一般市民、ダイビング業界、漁業者の相互理解やコミュニケーションにも課題があります。
藻場保全は、長期的かつ定期的に継続しないと効果が見込めない活動なので、関わる人を増やしていく必要があるでしょう。
もちろん活動を継続するための資金確保も重要な課題です。

もしこの記事を読んでくださっている方の中で磯焼け対策の活動にご興味がありましたら、是非ご一報ください!
また、一般ダイバーの方は普段一緒に潜っているショップさんに問い合わせて見て頂くのも、全国で磯焼け対策を加速させるための小さなステップになるかもしれません。

ダイバー、ダイビングショップ・インストラクター、スポンサー、漁業者など、みんなで広く協力して日本全国で豊かな海の森とそこにいる生き物たちを取り戻しましょう。
ここまでお読み頂き本当にありがとうございました!

モバイルラッコ隊では、活動パートナー・協力者を募集しています!


ウェブサイト:https://www.rakkotai.org/
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PROFILE
モバイルラッコ隊は、日本の美しく豊かな海の森「藻場」を守るために活動する非営利団体です。日本の藻場を脅威にさらす「磯焼け」問題の解決により、海の生物多様性の保全、漁業への貢献、そして気候変動への具体的な防止策とすることを目指しています。

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCDL6turA3mWW7hZ6QzOM4gw
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