カエルアンコウと呼ばれて


すっかり照れることなくカエルアンコウと呼んでいる自分がいる。

当初、何となく抵抗感があって、
「イザリウオ、まあ今はカエルアンコウだけどね」なんて言っていたのは遠い昔。
今年ダイビングを始めたダイバーさんの中には、
カエルアンコウの前のイザリウオという名前すら知らない人もいるのかもしれない。

ただ、この手の話が好きな人は根強くいて、駆け込みもコンスタントにやってくる。
その多くは改名への批判で、「言葉狩りだ!」ということに同意を求めてくるものだ。

この手の議論は、面倒くさいのでスルーしていたが、
ちょくちょく来るので、今月号で思わず答えてしまった。

結論から言えば、以前も書いた記憶があるが、
僕は日本魚類学会の改名にはずっと理解を示している立ち位置。


まず、こうした議論は、
差別語か否か、差別の意図があって使っているか否か
という土俵に立ってしまうと、収集がつかずにヒステリックになりがち。

実際僕も、当初は語源が大事と考え、
国会図書館にこもってイザリウオの語源を調べた経験がある。
結果、改名理由となった四肢の不自由な人が這う様子を描写する
〝いざる〟という意味以外にも諸説あり、語源はハッキリしなかった。

さらに、イザリウオを差別語と認識して使用していた人がほとんどいないことや
ダイバーへの浸透&定着度の高さから、言葉狩りだろ!と思っていた。

しかし、日本魚類学会の発表した改名理由を聞いて納得。

その改名理由は,
「標準和名としての倫理性、安定性および独自性の面から好ましくない」。
つまり、最大のポイントは安定性で、差別用語なのかどうかはどうでよくて、
あくまで和名の混乱を避けるために
「差別語と疑われるような言葉が入っているといろいろ不都合」と言っているわけだ。

差別か否かの問題は、どちらの立場に立つにせよ着地点は難しいが、
安定性の確保という観点なら説得力もある。
これが人間であれば、このような「臭いものにはふたをしろ」的な考え方は
人道上の観点から議論されるべきかもしれないが、相手は魚。
「クレーム受けそうな面倒くさい名前は嫌だ」もありな気がする。

とても学者的で冷静な見解ではなかろうか。

さらに、見事なのが、
「なお、ここでいう標準和名とは、あくまでも和名の安定と普及を
確保するための各分類学的単位に与えられる固有かつ学術的
な名称を指し、旧名および通俗名を必要に応じて使用することを
妨げるものではないと考えます」
と結んでいること。

つまり、
「イザリウオって呼びたければ呼べば?」と言っているのだが、
標準和名以外の名前が乱立すれば困るくせに、
いずれ標準和名に引っ張られて、
みんながその言葉を使うことを見切った上でのエクスキューズなのが憎いところ。
実際、今では誰もがためらうことなくカエルアコウと呼んでいる。

ということで、当初は改名に反対だったが、
改名理由を聞いて納得しているのが僕の立場。
これがマスコミにおける差別語の議論なら話は別だが、
言葉ではなく、あくまで名前の安定性を重視した学会のクールな見解は、
結構好感持てると思うのだが。
勝手に名前をカエルアンコウ

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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