嫌いな写真

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アマチュアの撮った発展途上国の子供。

西原理恵子さんの「この世でいちばん大事なカネの話」の中に、
スモーキーマウンテンの話が出てきて、
なぜこの写真が嫌いになったのかはっきりと思い出した。

社会人1年目のとき。
当時付き合っていた彼女に誘われ美大の写真展に行ったとき、
ある学生が撮った写真が、
スモーキーマウンテンで微笑む少女のモノクロ写真だった。
そして、タイトルは確か「笑顔さえあれば」のような感じだった。

スモーキーマウンテンとは、
フィリピンのアスベストたっぷりのゴミの山。
そこには、金になるゴミを集めて家族を支える子供たちがいっぱいいる。

当時は言葉をまったく扱えなかったので、
ただただ心がざわめいて不快感を覚えた。

写真の下には撮影者のコメントが書いてある。
「笑顔は貧しさを超えます」とか
「少女の貧困に負けない力強さを感じた」とか
「心で通じ合えた」というようなこと。
ますます不愉快になった。

「どこでもやっぱり子供はかわいいね」という彼女に対しても
少し悲しい気持ちになった。
※以前の日記で女性は「そんな感じ」で話す生き物だと知ったので、 今なら許せます(笑)。

彼女たちの生きる目的はお金。
いや、そんな目的を考える暇もなく、
ただただスモーキーマウンテンに向かう。それしかないから。
ただ生きるために。
そんな彼女たちに、仕事にやりがいや夢を求め、
上司がバカだと嘆く日本人がカメラを向けるってどういうことなんだろう?

伝えたかったのは貧困? 子供の無邪気さ?
そもそも何か伝えたかったの?

笑顔で貧しさには勝てないし、きっと貧困に傷ついている。
彼女がほしいのはお金。笑顔があってもチャンスなんて来ない。

いや、オナニーなのはいい。
でも、オナニーにスモーキーマウンテンの子を使うなら、
せめて撮影の対価として金をたっぷり払ってあげて。

学生に目くじらを立ててと思うかもしれないが、
そんな写真は巷にあふれている。

貧困をズリネタにするのって悪趣味じゃない?
しかも、貧困でオナニーしている自覚どころか、
オナニーしていることさえ無自覚。

自分の話。

取材でインドネシアに行ったとき、
頭に瓶を乗せた少女を撮らせてもらった。たぶん貧しい子。
嫌な顔をせずに微笑んでポーズをしてくれた彼女に、
僕はこっそり金を手渡した。

パプアに行ったときも、素っ裸でダンスを踊る子供たちに、
「俺はサムライ」だと言いながら、
やっぱりトイレで金をつかませた。そして撮った。

一緒に行くカメラマンには「そういう上から目線はいけない」と言われ、
一緒に行った同僚には「そういうのが負の連鎖を生む」と言われたので、
それから僕はこっそり払うことにした。

なぜ、払うのか?

基本的にはパフォーマンスに対する僕なりの対価。こっちも仕事だし。
そして、彼ら彼女たちにとっての僕の存在意義はお金だと思うから。
少しの時間で、心の交流なんかできないと思うから。

彼女たちのような貧しい子供のことを本気で考え心の交流ができる人。
それが、西原さんのような人。

彼女は貧困の負のループから抜け出せない人に、
チャンスを与えることを真剣に考えている。情報発信している。
僕もグラミン銀行はすばらしいと思う。
作った経済学者を心の底から尊敬する。

そんな西原さんは、ただ「配る」や「あげる」は、
「家畜にエサを与えるのと同じこと。
チャンスを与えて負のループの出口を見せてあげることが大事」だという。
その通りだと思う。

でも、僕はあげちゃう。なぜ?

その通りだと思うが、僕にはできないからだ。
優しくないし、自分に夢中。

だったら、刹那的でもいいから
彼ら彼女たちの生きる目的である金に貢献したい。

「むやみにあげるのはよくない」と言う人は、
そこまでは西原さんと似ているが、
優しい冷たさとただ冷いのとでは大きな違い。

「あげているときりがない」って論理は納得できるけど、
「あげないことが本人のため」って気持ちよくなっている人の気持ちはわからない。
だって、何も状況は変わらいもの。
本人のためになんかなっていない。

だったら、薄っぺらい優しさを僕は選ぶ。
一瞬だけお金でつながれる。お金が気持ちを通わせる。
そして、その日その子は親に褒められる。

だから、プライベートで行ったカンボジアやタイ、フィリピンとかで、
貧しいアジアの子供を撮ること、そしてそれを人に見せる行為は、
あまり好きではない。
「意図はなに?」、「金払った?」って思ってしまう。

一度、そんな話を知人女性にしたら、
その人は「それは差別意識だ」と言った。

僕は聞き返した。

「後進国の人や貧しい人に対して差別意識ないの?」
「ない。そんなの人としてダメだと思う」って彼女は言った。

僕は、彼女は無知を通りこして白痴だと軽蔑した。
もしくは、何かに酔っ払っている状態。
だって、それは歴史的におかしいもん。社会的におかしいもん。
自分の中の差別意識を認識してはじめて心の交流が始まる。
まあ、それも今は「そんな感じ」理論で許せるけど(笑)。
きっと彼女は普通に優しい人なんだとは思う。

アマチュアに限定したのはなぜか?

プロは稼ぐという意味で、
スモーキーマウンテンの彼女たちと同じ土俵だから。
そして、撮るときに心でヒリヒリと何かと戦っているはずだから。
もしくは、まったく逆にただ稼ぐために冷静に撮っているはずだから。

「アジアの子供の笑顔」は誌面がそれらしくなるし、需要があるし。
できれば伝える意思がほしいけど、稼ぐためってのもありだと思う。

もちろん、国や人によって状況は違う。
スモーキーマウンテンの子供に比べれば、
僕の遊んだマーレの子供たちは、
ただ遊ぶことが目的で普通に幸せそう。

貧困と無縁な幸せそうな子供を撮るのは、
ただのオナニーだから別にいいと思う。
でも、自分はオナニー見られているようで照れてしまうってのもあるが、
やっぱりあのスモーキーマウンテンの一枚が
後進国の子供にカメラを向けるのをためらう一番の理由なんだと思う。

たまにはオナニーしたいテンションだったり、
本当に心引かれる子供だったときは、
ハニカミながら撮ったりもするけど。すごくたまに。

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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