家庭教師
とある雑誌のコラムで家庭教師について書いてあった。
そういや、僕にも家庭教師がいた。
初めての家庭教師は、受験をひかえた中学3年のとき。
やってきた中野先生は、日焼け顔に白い歯がキラリと光る、
いかにもキャンパスライフを満喫してそうな大学生。
初めて身近に接する大学生は、
何だか大人と都会の香りがして(埼玉大学なんだけど・笑)、
ドギマギした(男なんだけど)。
中野先生は穏やかで性格もよく、
カッコいい先生が褒めてくれるのが嬉しくて割と勉強をがんばった。
それに、たまにしてくれるキャンパスライフの話も刺激的だった。
今思えば、テニスサークルの男女で合宿に行ったとかのたわいのない話だけど、
精通したばかりだった僕は、勉強の先には、
白いテニスウエアを着た色白でポニーテールの女性の
桃色の乳首と薔薇色の生活が待っているように思えた。
おかげで成績はグングンとうなぎ登り。
「車買ってやるから、商業高校に行ってくれ!」という父スズオの意に反して、
地元ではまあまあの普通校に入学した。
2人目の家庭教師は高校3年時。
高校で勉強をまったくしなった僕は、成績はふにゃちん下がり。
でも、周りが進学するので、自分も何となく進学希望。
そこで、高校受験の良い記憶から、家庭教師をつければ成績が上がると、
親に頼んでやってきたのが、I先生。
煙草で歯が黄ばんだ小太りのI先生は、
キャンパスライフとは無縁のようだった。
外見だけでなく、偏差値40台という微妙な大学に在学しているI先生に不安を覚えたが、
偏差値20とか30の世界に生きる自分に文句を言う権利はない。
I先生はとても適当で、僕に赤本を解かせて答え合わせをし、
赤本の解説をただ棒読みするだけだった。
僕が赤本を解いている間は、
うちにあった「スーパードクターK」を熱心に読んでいた。
たまにしてくれる大学生活の話を聞くと暗澹たる気持ちになった。
金がなく、女にもモテず、友達もいないようで、
麻雀と風俗通いを自慢するような人だった。
そのころは純情な思春期だったので、
風俗の話などは好奇心より生理的に嫌悪感を覚えたが、
「今度、連れて行ってやるよ」と嬉しそうにグイグイ話すので、
僕は顔を引きつらせながら笑うしかなかった。
今思えばセクハラだが、
今その現場にいれば「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げるだろう(笑)
さらに、「就職が厳しい」という愚痴を聞くと、
そんな人に教わっている自分の未来はドドメ色に思えた。
だんだん会うのすら嫌になり、親に謝って3カ月で辞めてもらった。
貸した漫画はあきらめることにした。
成績はもちろん上がるはずがない。
ま、成績が上がらないのは、
「やればできる子」とずっと思い続けている本人の性格の問題だけど(笑)。
教えることの基本は、
教える内容や教え方より、教える人自身の説得力だと学んだ。
そんな僕も、夏休みの間だけという条件で、
知り合いの中学3年生の子の勉強を頼まれ、家庭教師をしたことがある。
まあ、中学くらいなら大丈夫だろうと思ったわけだが、
全然、大丈夫じゃなかった。
受験モードの彼が持っている私学の問題集を見てもさっぱりわからない。
質問をされると、冷汗かきながら、
「はいはいはい、それね、その問題ね。こうきたのね。はいはいはい」
とか言いながら、とりえあず、話すことを一生懸命考えた。
しかも、解説する言葉ならまだしも、取り繕う言葉を考えているんだから、
教えるレベルでは全然ない。
結局、3回くらいで辞めた。
教えることの基本を学んでも、実践できるかどうかは別問題のようだ(汗)。
ただ、勉強は教えられなかったけど、彼のために身を引いた僕の慈愛の心に、
その後、有名進学校に合格した彼は気づいてるのだろうか?
僕もさっき気づいたんだけど。
中野先生、何しているんだろうな〜。