映画オーシャンズ ※ネタバレ注意

映画連続2本。
http://diving-commu.jp/ceditorblog/item_3490.html

まずは、ダイバーにも話題の映画「オーシャンズ」。

映画を見る前は予備知識を入れないことにしていますが、途中で嫌な
予感。見終わった率直な感想としては、期待が大きかっただけにちょ
っと残念だったというのが正直なところです。

帰ってきて映画レビューを見ると、映像に対する賞賛と同時に、「ひど
いプロパガンダ映画だ」とか「協賛に悪名高い自然保護団体がある」
など罵詈雑言もいっぱい。見ている最中、その点に関しては僕もそう
思ったのですが、第一義的な「多様性」だけでなく、「人間が自然(多
様性)を破壊している」というメッセージが入っていることは明らかで
す。かなり直接的に。

■なぜ、「人間が自然(多様性)を壊している」というメッセージを入
れたのか?


好意的に考えてみます。

映画はスポンサーが集まらなければ作れないし、スポンサーがつい
たら配慮するのは当然のこと。宗教母体の雑誌に「発言することが大
事」と主義主張が違ってもジャーナリストが記事を書くのと同じことで
す。観客もスポンサーも喜ぶ作品を目指すのは、プロの仕事と言える
のかもしれません。

シンプルに考えてみます。

単に監督がこのメッセージを伝えたかった。これに関してはインタビュ
ーで「斬新な映像を見せるのはもちろん、生物が人間に攻撃されてい
ることを訴えたかった」と言っていますが、本当のところはわかりませ
ん。

■メッセージと演出は諸刃の剣!?

いずれの理由にせよ、「人間が自然(多様性)を破壊している」というメ
ッセージは〝あり〟ですが、動物は演技をしてくれないので、どうして
も演出が陳腐になり(幼稚な擬人化)、言葉での説明が多くなって、説
教くさくなってしまいます。苦しむアシカ(?)と工場、人間を切なそうに
見つめる魚という演出や「海を守ろう」という直接的なナレーションに対
する反応は両極端に分かれるでしょう。

演出に対して「何だかな〜」、ナレーションに対して「言っちゃったらダ
メでしょ!」と思っている人も多く、こういう人たちに対しては、映像の
素晴らしさを上回る嫌悪感を与えることになったでしょう。ただ、ブログ
やレビューを見ると好意的に受け止めている人も多いようですから、こ
のメッセージと演出はまさに諸刃の剣となっています。

そして、このメッセージを伝える上で、最も大きなポイントとなっている
のがサメのフィンニング(ヒレだけ切って、生きたまま捨てちゃう)やイ
ルカ漁のシーン。これも受け手の脳を揺るがすという意味では〝あ
り〟ですが、気をつけてほしいのは「イルカやサメの漁」と「イルカやサ
メの漁の〝方法〟」をごちゃまぜにしないことです。この意味はよく考
えて欲しいと思います。でないと、テロ環境保護団体に絡めとられま
す。

漁の方法に関しては、〝残酷〟の議論はあっていいでしょう。それは
人と自然との関係における〝感謝〟とも切り離せない問題でしょうか
ら。ただ、漁自体に関しては、資源管理や文化という議論も必要で冷
静なデータ分析も大事です。残酷=漁の反対、は危険な思想です。

※ちなみに、サメのフィンニングのシーンがロボットだったことが問題に
なっていますが、個人的には「うまく撮れなかったから」ならありです
が、「残酷だから」はとても残念。だって、残酷だからとロボットを使う
戦場カメラマンはいませんから……。
http://www.asahi.com/showbiz/movie/TKY201001150291.html

■勝手な感想(願望)

「人間が自然(多様性)を破壊している」というメッセージと演出がどう
転んでいるかはわかりませんが、個人的には「いらなかった」と思いま
す。メッセージがTOO MUCH(恥ずかしい言葉ですが、他に浮かば
ず……)。素晴らしい海の映像と少しの示唆をもらえれば、バカじゃな
いんだから、いろんな場面で自分の頭で考えると思います。逆に後半
に出てくるこのメッセージの演出のせいで、第一義的なメッセージが吹
っ飛んでしまったのが残念です。

また、「地球や海を守ろう」というナレーションによる直接的なメッセー
ジは、少し傲慢に感じます。伝えるべきは「自然の威厳・素晴らしさ」
や「自然への感謝」までにとどめておいてほしいと個人的には感じま
した。自然の素晴らしさに続く、「だから……」の”……”はこっちにふ
れば、より多くの人に支持されたと思います(それを望んではいない
のかもしれませんが……)。

■それでも素晴らしい。

個人的には残念な部分も多いですが、躍動する魚や動物たちは本物
です。また、昨今の〝温暖化〟と今年のキーワード〝多様性〟という
錦の御旗のもと、大人たちが集まって何十億というお金と時間をかけ
て、最高の被写体を狙い、そして最高の絵を撮った歓喜を想像するだ
けでワクワクします。

繰り返しますが、ストーリーや演出に残念な気持ちになったのは事実
ですが、「こんな場面で潜れたらなぁ」と思う場面もいっぱい。そういう
意味では、メーキング映画があればぜひ見たいと思ったのでした。

■パニックのスイッチ
http://diving-commu.jp/divingspirit/item_3491.html

 

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PROFILE
法政大学アクアダイビング時にダイビングインストラクター資格を取得。
卒業後は、ダイビング誌の編集者として世界の海を行脚。
潜ったダイビングポイントは500を超え、夢は誰よりもいろんな海を潜ること。
ダイビング入門誌副編集長を経て、「ocean+α」を立ち上げ初代編集長に。

現在、フリーランスとして、ダイバーがより安全に楽しく潜るため、新しい選択肢を提供するため、
そして、ダイビング業界で働く人が幸せになれる環境を作るために、深海に潜伏して活動中。

〇詳細プロフィール/コンタクト
https://divingman.co.jp/profile/
〇NPOプロジェクトセーフダイブ
http://safedive.or.jp/
〇問い合わせ・連絡先
teraniku@gmail.com

■著書:「スキルアップ寺子屋」、「スキルアップ寺子屋NEO」
■DVD:「絶対☆ダイビングスキル10」、「奥義☆ダイビングスキル20」
■安全ダイビング提言集
http://safedive.or.jp/journal
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