ダイビングにおいてテンパることの危険性(序編)

ここしばらく、バカみたいに忙しかった。

そんな中、小声の独り言で「まじ、テンパるゼ」とつぶやいたことがあったのだが、その瞬間、今まで様々なダイビングシーンで耳にした「テンパる」という一言や、目にしてきた「テンパり状態」が、高速で連続フラッシュバックした。

過去の自分の「テンパりメモリー」までがそれに追従し、そうだ、次のこのコーナーは「テンパる」について書こうと決心した私が、そこに居たのでありました。

ので、今回のテーマは「テンパる」です。

「テンパる」、の語源は麻雀用語だそうだが、そんなことより、「テンパる」が、「いっぱいいっぱい」の近似語で「焦る!」や「えぇ!!」とか、「あれ!?」とか「マジかよ!?」とか、「ドキッ!!」とかのアドバンスド状態で「ビビる」とか「やベ!!!」あたりとも交友が深いらしいことが今回は重要だ。

よくあるコメディーで実は注目すべき点

というのも「テンパる」は、その時点ではパニックほど爆発的にヤバイ状態でないにしろ、近隣にパニックへのショートカットが配置されている場合が少なくないし、ショートカットに迷い込まなかったとしても、結果的にはパニック同様、あるいは時としてパニック以上にまずい結果に行き着く可能性を秘めた発展性を持ったやっかいな状態だと思われるからだ。

(多くの皆さんは自身を振り返ると思い当たる節があること思うが)テンパると、普段なら当たり前に出来ることが出来なくなり、当たり前に気づくことに気づけなくなり、普段なら有り得ないタイプの失敗をしでかす。

選択問題を出されれば、最も選ぶべきでない答えを選びがち。
そして、いわゆるマーフィーの法則、なぜだか、普段なら決して起こりそうもなく、しかもその場で起こってもらっては最も困るタイプのハプニングまでを呼び込んで、テンパりっぷりに一層の拍車がかかるメに陥る…。

例えば、まだクチバシが黄色くて、お尻は青くて粘膜は、多分、ピンクみたいなカラフルなチェリーボーイが、とんでもないラッキーから、世界中の男子のほとんどが憧れても不思議でない設定のチョー可愛いおネーさんとデートできる事になりました、みたいな設定を想像していただきたい。

この設定、いかにもお手軽なコメディにありがちな設定で気恥ずかしいが、とりあえずストーリーとしては分かりやすい。
当然、カラフルチェリーは舞い上がり、緊張を極めてテンパりまくる。
コメディの場合、それが狙いの設定だから、そのテンパりっぷりが常軌を逸するのはお約束だ。

おネーさんと道を歩けばウザそうな奥様が連れた高級ワンちゃんのリードにひっかかって奥様とワンちゃんを道連れに3Pで転び、看板や電柱にはことごとくぶつかり、月並みすぎるが、上でペンキ塗りに励むオジさんを乗せたハシゴがあれば、もちろん激突。
間違いなくオジさんは転落だけじゃなくて頭からペンキを被ることになるし、事によるとそのこぼれたペンキに滑ったガラス屋さんが運搬中の高価な一枚ガラスをぶち割る事になるかもしれない。
やっとたどり着いたレストランでは当たり前にコップを倒し、倒れたコップを戻そうとして慌てて席を立てば、もちろん机を料理ごとひっくり返しておネーさんのお洋服は料理まみれ。

それだけでなく、ひっくり返った机は、今まさに気取ったお客に高級赤ワインを注ごうとしていたウエーターの足を直撃して、高級赤ワインはお客の白いスラックスの股間めがけ赤い軌跡を描く。
お客は股間をかばおうと慌て、その慌てた動きで被っていたカツラがズレるハメになり、結果てっぺん禿げがアラワに!
それを見ていた無謀な若作りの金ピカ婦人は下品に大笑い。
その大笑いの口元から入れ歯がふっ飛ぶ。もちろん、飛んだ入れ歯はお隣のお席の可憐で上品なレディがスプーンを添わせるスープ皿に飛び込むが、そこでレディはいきなり人格が激変。
「何しやがる、くそババア」と絶叫して、そしてこの大騒ぎは連鎖を過激に拡張しながらさらに続いてゆくのでありました。

この連鎖にどう落とし前つけるのか、あるいはカラフルチェリーと可愛いおネーさんの関係がどう発展するかは、知ったこっちゃないが、全くの作り話であっても他人が可愛いおネーさんと仲良くなるのは面白くないので、とにかく、カラフルチェリーが間違ってもおネーさんと仲良しになんかならないよう、それだけは今夜、神様にお祈りしておこう。

なお、このコメディーで注目すべきは、カラフルチェリーがごく初期の段階でパニックになって爆発的に暴れ、最初の電柱に頭をぶつけて気絶とかすれば、その後の大騒ぎは起きず、巻き添えの生贄は出なくてすんじゃないの、という点。
つまりテンパったままの行動が続いた結果が、より重度の悪循環の発症に繋がっているというあたりだ。

テンパった状態ではロクなことにならない

という話はさておき(皆さんも経験なさっていらしたように)人間、テンパると、時として、例に上げたような安っぽいコメディーを鼻で笑えなくなるような状況に陥る場合が、ある。

ご多分に漏れず、私も今までに数々のテンパり体験をしてきた。

例えば、限度を超えてキレイなおネーさんに対しては、距離が2mを切ったあたりから今も昔も硬直テンパるし、夜の10時過ぎのマニラのマビニst.で道端に座る若造達がこちらを向いてゆっくり立ち上がればその瞬間に鉄板テンパるし、定期の潜水士の健康診断での採血のタイミングが近づくと涙目テンパるし、やっと順番が来て飛び込んだトイレに紙が無ければ絶望テンパるし、ジェットコースターでは錯乱テンパXLで、体中が筋肉痛になるだけでなく、呼吸を忘れてハイポキシアに陥るし、そう言えばスタバで頼み慣れないメニューをオーダーして店員さんに「は?」とか言われちゃったりすると、冷や汗と脂汗がダブルに滲む多汗性テンパを発症する。
これがプラヤ・デル・カルメン@メキシコのVアベニューのスタバで、店員さんがスペイン系の超ボニータで「は?」がラテンスパニッシュだったりしたら全身がテンパな汗で汗びたしになること間違いなし、だ。

普段の行いがすごぶる善良なおかげで、カラフルチェリーほどの悪循環に陥った経験は今のところないが、いずれにしろ、テンパった瞬間、普段の聡明で勇猛果敢で性感、じゃなくて精悍な自分とは全く別のヘンテコな誰かが私の中に舞い降りて、貧血中でも赤面すような行動と結果をもたらすハメになる。
もちろん貧血状態で、顔面に血液を集中させて赤面すると、他の大切な臓器への血流が不足して危険な状態に陥る可能性があるので、ここでは、そのそれぞれが、どんな行動と結果につながったかは、明かさない。
これぞ、テンパってない状態の、普段の聡明で勇猛果敢で性感な私だ。

なお、このあたりのクダリは、あまり重要じゃないのだが、「まじ、テンパるゼ」と呟いた瞬間のフラッシュバックの一部で、特にカラフルチェリーは、その時点の緊張の緩和に大いにお役に立ってくれたので、今回の原稿のルーツという意味も含めて紹介させていただきました。

いずれにしろ、自身のテンパり経験も含めた上で考えてみると、人間、テンパると、注意力が極端に低下して、普段かましている「余裕」は砕け散り、周りを気にするどころじゃなくなくなり、周りが見えなくなれば、客観的に現状を把握することはまず不可能。
状況が把握できなければ、正しい判断や正しい行動への道は五里霧中となるのは当たり前で、結果、明るい未来が望めななくなる。
ということで、哀れで危険ではた迷惑なテンパり迷子が出来上がるってワケだ。

加えて、邪悪はこうした迷子が大の好物。
邪悪のパワーは、普段なら起こりえないハプニングを引き寄せてマーフィーの法則の正しさを裏付けるのが得意中の得意に思える。
奇跡的な幸運か、あるいは邪悪がたじろぐほどのパワフルな助っ人に恵まれない限り、こうした悪い循環からの出口に行き着くのは並大抵のことじゃない。

なわけで、一旦、この手の状況に滑り落ちたら、状況の悪化の進行を食い止めたり、自力で脱することが出来る人は、非常に希だろう。

爆発的に進行するパニックと違って、時として迷子ならではの悪行を、持続性を持って継続することで、事態をより複雑化、深刻化させる可能性を持つ点にも注意が必要。
加えて、悪行の果てに、最終的にパニックに陥って大爆発することだったあるのだから困ちゃう。

困難な状況に陥ることと、テンパることは根本的に違う

ただし、ここで一点、明確にしておきたいのは、困難な状況に陥るのと、テンパり地獄に踏み込むのとは根本的に違うという点。

困難な状況でも、しかるべき力量の持ち主が持てる力を発揮すれば、その困難を打破できる可能性は残されるし、多少の運が必要であったとしても、困難と力量の力関係において力量が優れば、困難の打破は大いに期待できる。
逆に、困難っぷりの絶対値は高くなくても、テンパり地獄に陥ると、本来ならそれを打破できる力を持っていたとしても、その力を発揮できないままに邪悪の餌食になる可能性が高くなるし、むしろ自分から邪悪に向かって歩み始めたりする場合もあるから(何もしないでいてくれた方がまだマシだったのに! というヤツね)さー大変!

つまり、テンパるということは、日常的な状況をも簡単にヤバい状態へ誘い、そのヤバさをより深刻な方向へと発展させることも出来てしまうというタイプの悪い状態なワケだ。

従って、周囲に様々な危険要素をはべらせるダイビングにおいてのテンパり状態が、特に絶対的なリスクの高いテックダイブにおいてのテンパり状態が、誠にかんばしくないのは想像に難くない。
カツラがずれたり、若作りのおバさんの入れ歯が飛んだり、清楚でお上品なレディが巻き舌で悪態を付く位、可愛いもん、と思えるくらい、ヤバく困難な状況への突入の引き金にならないとも限らないのだ。

で、ここからがやっとたどり着いた今回の本題。

私は、ことダイビングにおいて”だけ”は、テンパり状態に陥った経験がない。
客観的に見れば非常に困難と言える状況の体験もしてきて、例えば、マウスピースの内側で舌打ちしたり、「嘘っそぉ」と呟く類の経験は何度もあるが、しかしテンパり状態に陥った経験は一度もない。

その理由について、私には確信を持って思い当たるフシがあり、実はそのフシについてのお話がこの原稿を書くことにした本来の本題なのだ。
が、調子に乗り過ぎてこれ以上長い文章を書くとテラ編集長にしかられそうなので、今回はここまでにしておきます。

例えば、ケイブ内で出口の方向を示すラインアローがラインの両側を指している状態に遭遇した時、その意味が明確に分からなければ、出口の方向に関しての不安が生まれてテンパり発生の可能アリ。あるいは、濁って視界がない時にこの状 態に遭遇した場合、本来は、全てのラインアローに意図を持って触れてみないと、その意味を正しく理解できないのだが、ケイブ内で視界を無くした時点でテンパり、明確な意図を持ってラインアローに触れることが出来ないと、せっかくのあ りがたいマーキングが間違った解釈や、悪い結果に繋がる類の、混乱・不安の元にしかならない可能性、アリ。テンパり状態、恐るべし。

例えば、ケイブ内で出口の方向を示すラインアローがラインの両側を指している状態に遭遇した時、その意味が明確に分からなければ、出口の方向に関しての不安が生まれてテンパり発生の可能アリ。あるいは、濁って視界がない時にこの状態に遭遇した場合、本来は、全てのラインアローに意図を持って触れてみないと、その意味を正しく理解できないのだが、ケイブ内で視界を無くした時点でテンパり、明確な意図を持ってラインアローに触れることが出来ないと、せっかくのありがたいマーキングが間違った解釈や、悪い結果に繋がる類の、混乱・不安の元にしかならない可能性、アリ。テンパり状態、恐るべし。

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PROFILE
テクニカルダイビング指導団体TDIとサイドマウントの指導団体RAZOR のインストラクター・インストラクタートレーナー。
フルケイブ、レックペネトレーション、トライミックスダイブはいずれもキャリア800ダイブ以上。
-100m以上の3桁ディープダイブも100ダイブ以上、リブリーザーダイブでは1000時間以上のキャリアを持つ等、テクニカルダイビングの各ジャンルでの豊富な活動経験の持ち主。また、公的機関やメーカー、放送業界等からの依頼による特殊環境化での潜水作業にも従事。話題のTV ドラマ『DCU』にもリブリーザー監修として撮影に参加している。

■著書
おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
続・おタハラ部長のお上手ダイバー養成新書
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