なぜ沖縄には水上コテージがないのか?台風を読めるダイバーになるための基礎知識
気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”
みなさん、こんにちは!
いよいよ夏休みシーズン突入! 夏を楽しんでいますか?
さて、夏というと赤道付近の南の島。
南の島といえば、椰子の木にトロピカルカクテル、そして、水上コテージ!いいですよねー。
なんか、あんな水上コテージが、日本国内にもあったらいいのに!!・・・って思いませんか?
沖縄とか、八丈島とか、あるいは伊豆半島や紀伊半島の先端の方とか、手近にいけそうなところに!
でも、ムリなんです。
なぜかって?
赤道付近の南の島と日本では、決定的に台風の影響が違うからです。
え?南の島の方が、台風が襲って来そうだって?
でも、本当はどうでしょうか?
そんなわけで、今回は、台風がどうして南の島より日本を襲ってくるのか、ということを考えたいと思います。
それを知るために、まず、どうして台風が渦を巻くのか?
ということから始めていきましょう。
台風はなぜ渦を巻く?
台風が「熱帯低気圧」の範疇にあるもので、その中でも「大きく、強い (*注)」ものを指すことばということは、皆さんもご存知でしょう。
※注:厳密には、「大きい」とは、強風圏の直径の大きさを指し、「強い」とは中心付近の最大風速を示す言葉なので、気象用語的に正しい使い方ではありません。台風の定義は最大風速が34kt(ノット)、17m/s(毎秒m)より強いものを言います。大きさは関係ありません。また国際的な定義でのtyphoonは最大風速が64kt以上なので、「台風であっても国際的にはtyphoonではないもの」も存在します。
熱帯低気圧はすべて渦を巻いています(温帯低気圧も渦のように巻きますが、前線で風向が変わるので、ここでは熱帯低気圧についてだけお話します)。
したがって、台風も渦を巻いている熱帯低気圧の一種です。
熱帯低気圧や台風は、渦を巻くことで、長時間持続して、周囲の水蒸気や暖かい空気をさらに取り込み続け、それがさらにエネルギーとなって継続していくのです。
ここで、「エネルギー」という言葉が出てきました。
前回、台風は南方海上の暖かい海面から立ち上る水蒸気を主にエネルギー源としていることを書きました。
水蒸気が水になるときには、同じ量の水が1℃上がる時に必要になる540倍ものエネルギーを放出しますから、暖かな海面から立ち上る豊富な水蒸気は、実は莫大なエネルギーを蓄えているのです。
そして、海面が暖かいと、上昇気流ができるのですが、そうすると、周囲の空気を引きずり込むようになります。
ただ、もし、周囲の空気が入ってきてそのままそこの空気がまた止まってしまえば、それ以上の発達はありません。
実は、これが、単純なスコールです。
積乱雲が単発でできあがって、夕立のように雨を降らせますが、そこの積乱雲の中の水蒸気が水滴になって、落ちてきて、雲の下が冷やされて上昇気流が止まればそれでおしまいになります。
ところが、それが、渦を巻き始めると、事情は変わります。
周囲の広範囲の水蒸気をたくさん含んだエネルギーをたくさん蓄えた空気を長時間にわたって引きずり込むようになります。
こうなると、集められる空気は、雲の下の部分だけではありませんから、上昇気流もずっと続くことになります。
これが、熱帯低気圧であり、強くなれば台風になるわけです。
言い換えるなら、「渦を巻く」ことが、熱帯低気圧になるか、単純なスコールで終わるかの境目ということになります。
では、渦はどうして巻くのでしょうか。
台風が渦を巻くのはコリオリの力
「コリオリの力」というものを聞いたことがあるかもしれません。
「回転体の上に乗っていると、直進して進むものに、あたかも直角横向きの力が加わっているかのように見える」現象のことを言います。
ちょっと難しい言い方になりましたが、要は、「メリーゴーランドのように回るものの上で、直球を投げると、(あたかも横から力が加わったかのように)曲がって飛ぶように見える」のです。
例えば、ここで、反時計周り(左回り)に回る、メリーゴーランドがあるとしましょう。
そこに乗っているAさんが、同じくそこに乗っているBさんに向けてボールを投げたとします。
そうすると、ボールはBさんに向かってまっすぐに飛んでいかずに、あたかも右に曲がったかのように見えるのです(図1)。
私達はみな、地球という回転体の上に乗っています。
しかも、あまりにも大きい回転体なので、回転していることを自覚できませんし、図1のように外から観測することも困難です。
しかし現実には、北半球にいれば必ず進行方向の右向きの力がかかります。
これを証明するのが、フーコーの振り子(写真)です。
本来振り子は、まっすぐ同じに振れ続けなくてはおかしいのに、なぜか振り子は右に右にと回っていってしまいます。
逆に言うなら、このように振り子が右曲がりに振れていくことから、コリオリの力が発生していることがわかり、地球が自転していることが証明されたとも言えます。
さて、このように、北半球で動く物には、必ず進行方向右向きの力が加わります(南半球では左向き)。
しかし、実際は、北極点では一日に1回転しますが、赤道ではまったく回転はしていません(回転という意味は、「円盤の上の回転」という意味です。つまり、北極点で、ある時太陽の方向を向いていた人は、6時間たつと「回って」太陽を右手に見ているでしょうが、赤道で昇る太陽に向かっていた人は、6時間たっても太陽は頭の上には来ますが、右や左に「回る」ことはありません)。
つまり、地球という「球体の上」での自転による回転を円盤上に置き換えると、緯度90度(極点)が一番大きくて、0度(赤道)は回っていないということになるのです。
ということは、赤道付近では、ほとんどコリオリの力は働かないということになります。
上の図は1985年から2005年までの全ての熱帯低気圧の経路です。
これを見ると、赤道付近では、ほとんど熱帯低気圧が発生していないことがわかります。
これは、赤道付近でコリオリの力がほどんど発生しないため、渦を巻くことができないためです。
皆さんも、南の島に行ったときに、喫水の浅い船や、こういった水上家屋を見たことがあるかもしれません。
こういった船や建物は、ほとんど台風が発生しないからこそあるのです。
冒頭に書いた、水上コテージもそうです。
写真のインドネシアのリアウ諸島は、大体0度から北緯1度の間にあって、この海域では台風は発生しません。
ですから、これが、南の島より日本の方が、台風に襲われる確率がはるかに高い理由であり、冒頭に書いたように「日本国内にも、水上コテージがあったらいいのに!」なんて思っても、無理なわけなのです。
日本では、木造の水上コテージなど、最初の台風の来襲で壊されてしまうでしょう。
ここまで、
- 1.熱帯低気圧は渦を巻かないと持続しないということ
- 2.渦を巻く理由はコリオリの力であること
- 3.コリオリの力はある程度の緯度がないと働かないので、赤道付近では台風は発生しないこと
をお話ししました。
次回は、いよいよ、ダイバーにとって、最も気になる台風の進路予想などについてお話ししたいと思います。
そうそう、最後に!
赤道付近の国に遊びに行くと、赤道を挟んで数メートル北に行って、水槽に水を注ぎ、底の栓を抜いて「ほら、半時計回りに渦を巻いたでしょ?」と見せて、今度は、数メートル南に行って、同様に水槽に水を注いで底の栓を抜いて「ほら、時計回りに渦を巻いたでしょ?」と見せ、お金を取るといった観光客相手の商売があるようです。
「おおー」と感動する方もいるようですが、実は、「うそ」です。
そんな、数メートル動くだけで、コリオリの力のかかり方は変わりません!
注ぐ時などにちょっと渦を巻くように注いでいるだけですので、インチキ商売にひっかからないようにしてくださいね。
もっとも、分かっていて「赤道付近の名物芸」だと思って見る分にはいいかもしれませんが。