御蔵島のイルカは121頭!? ~解析作業6000分の個体識別調査結果~

御蔵島のイルカ(提供:小木万布)

2015年2月23日、春一番が吹きました。

湿気を含んだ南風が強く吹き込んで、御蔵島は大しけ。
お隣・三宅島も霞んでほとんど見えません。

客船は御蔵島・八丈島が早々と欠航、三宅島着発便となりました。
着発(ちゃくはつ)とは、そこで折り返して東京に向うことを指します。
島では桜も咲きました。
季節は着実に春に向っていますね。

春に向けて浮かれてばかりいる訳には行きません。
年度末に向けて、観光協会では報告書の作成に追われています。
イルカの調査も東京都から委託されている「事業」になるため、毎年、報告書を提出せねばなりません。
調査自体は、昨年10月に終わっていますが、大変なのは実はそこからなのです。

解析作業6000分……。つらく長いデータ解析

調査終了後も、撮り溜めたビデオデータの解析が続きます。
映り込んでいるイルカ一頭一等の特徴をコマ送りや一時停止で確認、手元のシートと照合する作業です。

慣れた調査員でも撮影分数の5倍程度の時間が必要になります。
2014年は調査快調で1200分もの長時間撮影ができてしまった(!)ため、解析作業は単純にのべ6000分ちかくにも……。

海の見える島内で、イルカ調査の傍らに行う作業ならまだしも、冬場の調査員達は所属する大学の部屋で一日中、PC画面の中のイルカに向います。
結構つらい!作業です。

長い長い解析が済んでやっと、2014年の調査結果をまとめられることになります。

個体識別できたイルカの数、生まれた赤ちゃんの数、新しく識別できるようになったイルカの数、見られなくなったイルカは誰? 昨年生まれの赤ちゃんは今年もいる?
などなど、昨年との比較をしながら数の増減を見ることができるのです。

御蔵島のイルカ121頭

今年度の調査では、123頭のイルカが確認できました。
ただし! 赤ちゃん2頭は既に死亡したものと思われますので、現在121頭ほどが御蔵島の周りで生活しているようです。

若いイルカに傷がついて、新たに2頭が識別できるようになりました。
2013年に見られていたイルカ117頭のうち、95.7%にあたる112頭が2014年にも確認できました。

5頭がいなくなった訳ですが、すべてが死亡したとは限りません。
これまでの例のように、利島や三宅島に移り住む個体もいることでしょう。

昨年冬に、八丈島周辺で8頭ほどのミナミハンドウイルカが観察されています。
個体識別はできていませんが、それらも御蔵出身イルカの可能性が高いと考えています。

御蔵島のイルカ(提供:小木万布)

2008年を境に、がくんと頭数が減っていた御蔵島のイルカは、2011年を底に徐々に復活してきています。ちょっと安心しました

また、2014年は、10頭の赤ちゃんが確認できました。
残念ながら、うち2頭は死亡してしまったようですが、8頭は調査終了間際まで確認されていたので、今春も元気な姿を見せてくれるのを楽しみにしています。

さらに、傷がなく、単体で識別できるに至っていませんが、一緒に泳ぐお母さんイルカから判断できるコドモイルカが20頭ほどいます。

イルカには申し訳ないですが、親離れ前に「ビシッ」と傷ついてもらえると、調査する我々は助かります。

これら30頭ほどの子イルカが2〜3年後、成長して親離れした後も、御蔵島の海に泳ぎ続けてくれることを願って、毎年の調査に取り組んでいます。

今年で22年目、まだまだ続けます!

イルカの寿命は数十年と言われています。
まだまだ続けないと分からないことも多く、もちろん今年も個体識別調査は続けます。
夏に御蔵島へ来られた際は、ぜひ観光資料館にお立ち寄りください。

7月8月は調査員達が黙々と作業していますので、どんどん話しかけて邪魔してください!
忙しくても、作業に行き詰まっていても、お客様からの疑問難問には笑顔で答えるようにしています。

御蔵島のイルカ(提供:小木万布)

いよいよ2015シーズン始まります!

調査で分かることをイルカの保護に生かすのは、もちろん大切です。
それが調査の第一目的になっています。

でも、イルカが好きで御蔵島を訪れて下さるお客様に、調査で分かったイルカの本当の姿をお伝えすることも大切な目的だと考えています。

そろそろ2015シーズンの予約開始です。
今年も御蔵島と島のイルカたちをよろしくお願いいたします。

※オーシャナでは今年も御蔵ツアーを開催! 近日、スケジュールを発表します。

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PROFILE
山形大学農学部で、テントウムシの産卵生態を研究をしていたが、「もうちょっと大きな動物を研究したいなぁ」と路線変更。
三重大学大学院在学中に、御蔵島をフィールドとしてイルカの行動研究を始める。

2004年、御蔵島で観光協会設立に関わり、同大学院を中退。
現在、御蔵島観光協会勤務。

観光案内業務、エコツーリズムの普及活動、イルカの調査取りまとめを行っている。

■著書:
「イルカ・ウォッチングガイドブック」水口博也(編著)144pp. ウォッチングと生態研究の両立-御蔵島のイルカをめぐって
「クジラと日本人の物語―沿岸捕鯨再考」小島孝夫(編集) 第4章クジラと遊ぶ..
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